エピローグ 里帰り
「宇宙の外の系の発見とエネルギーを取り出す方法の発明」
あれから2年、僕たちは史上最年少でノーベル物理学賞を受賞した。
半分だけでもノーベル賞がもらえる発見と発明を二つまとめて最短受賞になった。
ところが、ノーベル賞は受賞者が3人に限定されている。
僕たちが起業した「株式会社三大公」は僕を代表取締役にして久保田、北城、恵麻、桃、絵里奈、葵、時子の8人が株式を8分の1ずつ持っている。
特許は学生起業した会社の法人名義で論文とか出したことが無いから誰が発見者なのか曖昧にしていた。
本当はタイムマシーンを発明した久保田と北城が受賞すべきなんだけど、二人とも世界をめちゃくちゃにした事を反省してタイムマシーンの存在を黒歴史にするから僕が発見したことにしろと言い出した。
僕たちは誰が受賞者になるべきか悩んで話し合った末に僕が宇宙の外の系を発見して恵麻がフリーエネルギー装置を発明したことにした。
輝さんこと、もう一つの世界のアインシュタイン博士が作ったんだから恵麻に権利があるのは当然だ。
僕は桃にプロポーズされてヤッた初日に出来てしまい、出来ちゃった結婚した。
桃が久保田と北城は存在するのに自分の佐竹の家だけが途絶えるのは嫌だと言ったので僕が婿入りする形で今の僕は「坂東太郎」改め「佐竹太郎」になっている。
18歳で結婚して19歳でノーベル物理学賞を受賞、そして19歳で父親になるとか人生を生き急ぎすぎている気がする。
僕たちが通う常陸国工業高等専門学校は5年制の学校なので卒業するのはまだ来年の話なんだけど、ノーベル賞受賞者の母校の肩書が欲しい日本中の大学から願書出すだけで合格にすると熱烈なお誘いが来ている。
さらには、フリーエネルギーの特許収入だけで年間100億円以上あるので8人で山分けしても一生遊んで暮らせる収入がある。
なんか、僕の人生がチートになってしまい、ちょっと人生の方向性が見えなくなっていた。
僕と恵麻はノーベル賞の授賞式に出席してクリスマス前に帰国した。
日本に戻ると空港にはお腹の大きくなった桃が出迎えに来ていた。
桃は僕に帰国後のスケジュールを突き付けていた。
ノーベル賞受賞者になったので講演依頼が殺到するのは当然なんだけど、桃はその中の一件だけはどうしても受けたいと言って僕を迎えに来ていた。
お腹が大きな桃は僕の手を引っ張ると国内線へ乗り換えるために空港に集まっていたマスコミを押しのけて進んでいった。
僕たちは国内線の飛行機に乗り換えて秋田へ向かった。
秋田空港に到着すると盛大な出迎えが待っていた。
僕に講演を依頼したのは秋田県の県知事と秋田市の市長だそうで、二人が出迎えに来ていた。
僕は県知事と市長の顔に見覚えというか、謎の既視感があった。
60代ぐらいの県知事は「秋田県知事の佐竹崇です」と名乗った。
そして、30歳手前ぐらいの女性市長は「秋田市長の佐竹桃です」と名乗った。
僕はこの人たちと初対面だけど見覚えがありすぎた。
桃は小さく僕に耳打ちした「この人たちが正しい世界のお父様と私よ」
久保田と北城の家は最初から存在しなかったことになったけど、永禄5年に家督を継いだ佐竹義重は正しい歴史では戦国大名として名を成し、子孫は明治に華族になり、末裔は政治家をやっていた。
この人達が正しい世界の崇と桃だった。
逆に僕の奥さんになった桃は本来ならこの世界に存在しないはずの人間だ。
桃が会いたがったわけが良く分かった、チート世界の佐竹崇が消えてしまったのなら、正しい世界の佐竹崇がどうなっていたのか確かめたかったんだ。
そして、正しい世界の桃も存在していた。
正しい世界の桃は旧華族のお嬢様に生まれて大学院を卒業して28歳の若さで最年少の現職市長になったエリートだった。
別の世界から来た桃、絵里奈、葵、時子、恵麻はこの世界を『正しい世界』と呼んでいるけど僕には違和感がある。
過去を改変されていないだけで正しいわけじゃないからだ、僕たち過去より未来を変えることを選んだだけで、この世界も正しい世界ではない。
僕の桃はこの世界に存在しなかった人間だ。
桃を産んだ両親はこの世界に存在しない。
戸籍は北城がでっち上げたけど、通った学校も何も存在しないから学歴も資格も何も無い。
職業を聞かれたら専業主婦としか答えようがない。
客観的に見たらノーベル賞科学者をハメ倒して出来ちゃった結婚してフリーエネルギーの莫大な特許収入を貰っている学歴も何もない女にしか見えない。
もう夕方なので僕たちは市内で一泊して明日、秋田県立体育館で講演会を開く予定になっている、けっこう高そうなホテルの部屋を用意してもらっていた。
今は桃が会社のSNSとか広報対策をやっているので宿に入るとノートパソコンを広げてネットをチェックすると、困惑した顔で「ちょっとコレ見て」と画面を見せてきた。
秋田市の広報SNSにさっき空港で撮影した写真が投稿されていた「最年少ノーベル賞学者、佐竹太郎博士と佐竹桃夫人来賓」
ただ、なんか微妙な写真だった。
写真が変なところでトリミングされて僕の隣にいた桃が切れている、そして市長さんが僕の隣に並んでいる。
なんか市長さんが僕の奥さんみたいな誤解を与えそうな微妙なアングルと文書なんだけど桃はSNSのコメント欄を見ろとスクロールさせた。
そこは大炎上していた。
炎上の火種を投下したのは葵だった。
葵が写真付きのコメントを投稿していた。
「こちらが本物の佐竹太郎博士の奥さんです、女市長は同姓同名の他人です」
以下に続く有象無象のコメントは酷いありさまだった。
「寝取られてる!」
「悲報、佐竹太郎博士女市長にハメ倒される」
「妊婦の奥さん涙目(৹˃ᗝ˂৹)」
「市長の売名行為ゆるせない(怒)」
「市長の権力で婚姻届け改竄されてるぞ」
「コイツ知事の娘だぞ、知事もグルだぞ」
「親の権力で市長になった最低の女」
「市長独身じゃなかったっけ?」
「旦那がノーベル賞にキャラ設定変えたぞ」
「博士の奥さんと同姓同名なの悪用してるだけ」
「詐欺じゃねえか」
「院卒ニートが親の権力で市長になったゴミだろ」
「親の権力で天才科学者の旦那ゲットだぜ!」
「佐竹博士まだ19歳じゃなかったか10歳年下の男をハメ倒すの法的にセーフ?」
「日本の政治オワタ」
・・・・・・
僕と桃は増え続ける炎上コメントを眺めていたけど、しばらく見ていたら秋田市の広報アカウントから元の投稿が削除された。
「まあ、ネットの炎上なんてすぐに消えるだろうし、別に市長さんは僕と夫婦だって言ったわけじゃないんだし、放置しておけばよくない?」
桃は「みんなに余計なコメントしないように釘刺しとく」と言ってテレグラムのメッセージを送っていた。
しばらくして夕食が運ばれてきて僕たちは地元の幸を堪能した。
桃はだいぶお腹が大きくなって予定日が近い、僕は父親になる実感が今一つなんだけど、父さんにはどこの父親もそんなもんだと言われた。
そろそろ寝ようかと思った時、市長さんが秘書と一緒にホテルにやってきた。
二人は土下座して「誠に申し訳ございません」と炎上騒ぎを謝罪した。
秘書が誤解のある表現をしたと言い張ってるけど、このまま明日の講演会を開催したら市長の立場が無いらしい。
秘書さんは控えめに刺激しないように変な事を言いだした。
「失礼かと存じますが、奥様はご両親がいらっしゃらないと伺いました」
「姫様とよく似ていらっしゃいます、姉妹だったことにして頂けませんでしょうか」
市長さんは「爺、人前で姫様って呼ばないで」と止めたけど、やめずに秘書さんはちょっと自慢を始めた。
「僭越ながら当家は大名の末裔で旧華族の侯爵家であります」
「どこの生まれともわからない孤児がノーベル賞博士の奥様でいらっしゃるのは世間的によろしくないかと存じます」
「今から養子縁組して頂いて姫様の妹だったことにすれば世間体が良くなります」
秘書のおじさんは養子縁組の書類を出してサインを迫る無茶ぶりをしてきた。
この秘書さん、消えた世界の家老だった人に似ている。
桃は話を聞くと、あっさりと「いいですよ、ここに名前を書いてハンコ押せば大丈夫ですか」と言って書いた。
秘書さんはあっさりとOKが貰えたことに驚いて「戸籍謄本などは行政書士に用意させますので、こちらの委任状にもお願いします」ともう一枚の書類も出してきた。
僕は驚いて「ちょっと、そんなにあっさりOKして大丈夫なの?」と聞いたけど、桃はさらっと「大丈夫」と言い切った。
僕は不安になって法律に詳しい北城と葵にメッセージを送った。
市長さんはもうしわけなさそうに聞いてきた
「あの、博士はどうしてノーベル賞授賞式から帰国されて最初の講演会の依頼を引き受けてくださったのでしょうか?」
「妻がどうしてもココがいいと申しまして……」
しどろもどろな僕をおいて桃はためらいなく言い切った
「大学院で歴史博士を取られて28歳の若さで国内最年少の現職市長になられた女性にお会いしたかったのです」
「夫は学位を持たない自称博士ですけど、市長さんは本物の博士でいらっしゃるそうで」
市長さんは桃の誉め言葉に心をえぐられたみたいに苦しそうに涙を流して泣き始めた。
僕は突然泣き出したのを見て困った、秘書さんが子供を泣き止ませようとするみたいにオロオロしている。
市長さんは泣きながら絶叫した「ごめんなさい!、私なんてゴミなんです!、最低のクズなんです!」
とても28歳の大人とは思えない姿でひっくり返って手足をバタバタさせながら泣き喚いている。
スーツのタイトスカートがまくれあがって白い下着が見えたけどうれしくない!
秘書さんが「姫様、おちついてください」と必死でなだめている。
このまま明日の講演会を開催したら市長の立場が無い、という意味が良く分かった。
公の場でこの醜態を晒したら社会的に死だ。
正しい世界の桃は自己肯定感が低くい28歳児だった……
桃は慣れたようにというか、ある意味では自分自身なわけで、28歳児の市長さんをあやして泣き止ませた。
桃はオッパイをだして「いい子ですね、よち、よち」と赤ん坊をあやすように吸わせていた。
28歳児の市長さん「ママ」と甘えた声を出しながらオッパイを吸い始めた。
桃のオッパイは出産前なのに母乳が出ていた。
なんか、僕は見てはいけない物を見てしまった気がする。
しばらくして泣き止んで落ち着くと、当然なんだけど桃のオッパイに顔をうずめた市長さんはものすごく恥ずかしそうだった。
秘書さんは「何卒、御内密にお願い致します」と土下座して必死に懇願していた。
この醜態は明らかに一回や二回ではない、秘書さんは何度も見ているんだ。
そのたびに尻拭いをしてきたんだ。
僕は「もちろん他言するつもりはありません」と言ったんだけど、桃は傷口をえぐらないように「よかったら事情をお話しください、大桃姉さま」と膝の上で丸まっている市長さんに優しく声をかけた。
この二人、すでに姉妹になったみたいで大桃と小桃でいいの?
市長さんは桃のオッパイに顔をうずめながら幼児みたいに話し始めた。
「あたちぃ、子供のころから何やってもダメでぇ、就職するのがイヤで大学院にいったんでゆぅ」
「博士になって親のコネで県の博物館の学芸員になろうとおもったんでちゅけど、公募の建前だったから、他にも応募してきた人がいちゅぇ、あたしぃよりもすごい出来る子だったんでちゅぅ」
「でも、知事のコネであたちぃに決まってるっていわれてぇ、あたしはココにいちゃいけないクズだと思って辞退してにげたんですぅ」
「そしたらお父様が立候補すれば当選できるっていってぇ、市長になりまちた」
「政治家はダメ人間のゴミ捨て場なんでちゅぅ」
完全に幼児退行してるんだけど、大丈夫なのこの人。
それより『政治家がダメ人間のゴミ捨て場』なんてとんでもないパワーワードを聞いちゃったんだけど。
この人は崇のダメさを濃縮された桃なんだ。
秘書の人は畳に頭をこすり付けて懇願を始めた。
「姫様は普段は真面目で立派な方なのです、ストレスがたまると幼児プレイを始めてしまう性癖がございまして、何卒、御内密にお願い致します」
僕はどちらかといえば、秘書さんに同情している。
桃はシレっと言い切った「これで私は旧華族の佐竹侯爵家のお嬢様だと名乗ってもよろしいのですね」
ふとスマホが震えると北城からメッセージが帰ってきた。
「市長の秘密は把握済みだ、桃の仕込みだから任せておけ」
こうして、桃はこの世界でも佐竹崇の娘になった。
市長さんは桃と同じ親から産まれた姉妹だと言われたら納得出来るほど似ている。
コレって遺伝子鑑定したらどうなるんだろう?
双子ぐらい近いのかな?
それとも遠い親戚ぐらいなのかな?
翌日、講演会が終わった直後に桃が産気づいた。
救急車がやって来て病院へ運ばれると、元気な男の子が産まれた。
僕の桃は出会って三日でこの世界の崇と家族みたいになじんでいた。
この世界の佐竹崇には独身の娘が一人しか居ないから、孫と呼んでいいのか微妙な子供の誕生に喜んでいた。
僕は知事の義理の息子で市長の義理の弟になってしまったけど、いいのかな?
僕は産まれた子供の為にも未来を良い世界へ変える。




