最終回 アインシュタインの娘
そのころ、久保田と北城は夢と希望に満ちあふれていた、人類初のタイムトラベル、いや本当に人類初なのか誰にもわからない。
しかし、これが人類最後のタイムトラベルになることも予想できなかっただろう。
タイムトンネルを抜けて永禄5年の世界に出た瞬間、予想外の事態が起こった、自分達と同じウニモグが後ろから追突してきた。
久保田と北城は何が起こったのか理解する間もなく、周りが来た時と同じ雷と光に包まれた。
雷が晴れるとウニモグは茨城の田舎道に止まっていた、知らない人が見たら同じトラック同士が追突事故を起こしたようにしか見えなかった。
北城はスマホを見て電波が入っていることを確認して時計を更新した。
表示されたのは2022年9月1日1時52分
タイムワープした時から6分だけ経過した未来だった。
久保田と北城は降りて追突してきたトラックを見た、そこからは21世紀に置いてきたはずの坂東太郎が降りてきた。
6分だけのタイムトラベルで宇宙の質量はウニモグ1台と人間5人分だけ増えていた。
「よう、久保田、北城、現代へおかえり」
「僕は一年ぶりだけど、お前たちは何分ぶりだ?」
久保田はあっけの取られた顔で「坂東、どうしてオマエが」「クソみたいな令和の世界を変えるんだぞ、邪魔するのか」
「お前たち二人が無双チートして作った世界はもっと最悪の世界だったぞ」
久保田は僕を威圧するように言い放った「お前は自分の役目に気づいたんだな」「しかたない、別のヤツを探してやり直しだ」
久保田は車から日本刀を出した、北城は密造銃みたいなものを出してきた。
その時、プラズマ光線が二人の目の前のアスファルトを切り裂き溶かした。
恵麻が輝さんからもらったフリーエネルギー装置のスイッチを入れていた。
宇宙の外の系から無尽蔵にエネルギーを取り出す装置はちょっとエネルギーが強すぎたみたいだった。
久保田と北城があっけに取られていると、絵里奈がが進み出て久保田にビンタした。
葵は北城の股間を蹴り上げ、北城はうずくまっていた。
絵里奈は日本刀を持ったままの久保田を見据えると自己紹介した
「始めましてご先祖様、私は貴方の末裔の久保田絵里奈と申します」「貴方が作った最悪の世界から来ました」
葵も悶絶している北城に抱き着いて「はじめましてご先祖様」と優しく言った。
二人は完全に戦意喪失していた。
僕たちから無双チート後の世界がどうなったのか事情を聴いた久保田と北城は間違いを認めた。
タイムマシーンによって歴史改変が行われる世界があるなら、歴史改変を繰り返すうちにタイムマシーンが誕生しない世界になった瞬間に歴史改変が止まり安定する。今がその状態だ。
フリーエネルギーとタイムマシーンは排他的関係にある。出口を作るのがタイムマシーンで入口を作るのがフリーエネルギーなんだけど、原理上の制約から同じ時間軸上に出口と入口を同時に作ることはできない。
つまり、エネルギーを取り出す穴が宇宙のどこかに一か所でも空いている限り、同じ時間軸上ではタイムマシーンは機能しない。
世界中にフリーエネルギーが広まってしまえば誰かがタイムマシーンを開発しても世界中のフリーエネルギーを止めない限り動かすことができない、人類は過去と未来の二つのうち一つしか手にすることは出来ない。
僕たちは過去より、未来を変えることを選んだ。
北城は「法律には穴があるから犯すことが出来る六法レイプなら任せておけ」といって、5人の戸籍をでっちあげてしまった。
秘密を知る僕たち8人は学生起業してフリーエネルギー装置の特許を取って製造販売する会社を立ち上げた。
永久機関みたいに動くフリーエネルギーなんてインチキ臭い物が売れるわけがないので、久保田が知り合いの自動車をフリーエネルギーで動くように改造したり、発電機を知り合いの農家や町工場に設置してもらって電気代無料を実演してみせた。
噂はあっというまに広まり、テレビの取材がくると爆発的に広まった。
エネルギーが無尽蔵にあれば空気中の二酸化炭素を石油に戻すなんてエネルギーの浪費も平気出来る。
人類のエネルギー問題が解決するのは時間の問題になった。
絵里奈は久保田と付き合い始め、帳簿から事務処理全般を引き受け、久保田が無駄な物を買わないように絞めていた。
何かあるたびにレースクイーンの格好をさせられていたけど視られる快感に目覚めてしまったようで、しっかりとグラビアアイドルとしてデビューしていた。
葵は北城の専属コスプレイヤーになって仲良くしている、法律に詳しい北城と組んで営業から契約全般を引き受けている。
二人とも理想の彼女と出会えたみたいだ。
桃は僕に向かってド直球に言い放った「いい加減にヤらせて欲しいんだけど」
僕は大公家のしがらみが全部消えたんだから自由にすればいいと言ったんだけど「コレが私の自由よ、なんにもないタダの女が、なんにもないタダの男と寝たいの、アンタの彼女になりたいの」そう言われて、僕は桃に押し倒されてしまった。
僕たちはアホみたいに金が入って来て笑いが止まらなかった。
時子さんは稼いだ金で神社を買うと雲丹母俱神宮と名付けてモルカーみたいなご神体を崇め、フリーエネルギーを推進する新興宗教を始めた。
知らない人が見たら、税金対策に宗教法人を利用しているみたいに見えそう…
最速でノーベル賞を受賞することになった僕たちは代表者を恵麻に頼んだ。
授賞式の会場で恵麻は世界に向かって宣言した
「私たちがこの発見にたどり着けたのは偉大な科学者のおかげです、私はアインシュタインの娘です」
恵麻の言葉の本当の意味を知るのは僕たちだけだった。
僕たちは消えてしまった世界のもう一人のアインシュタインを忘れない。
おわり




