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第十六話 世界の秘密

 僕は一学期末試験の結果発表を見てほっとしていた。

数学や科学はなんとかなるんだけど、国語、社会、歴史がダメだった。

前の世界の知識が邪魔をして間違った回答をしてしまったり、何が正解なのか混乱したりして勉強がはかどらないからだ、それでもギリギリで赤点だけは回避した。


今日は試験の結果発表と答案の返却だけで授業がないので午後から試験休みになる。

僕は夏休みになったらやりたいことがあった。

壊れたウニモグの修理だ、修理したところで珍しい自動車でしかないんだけど、少しでも何か手を付けたかった。


 大きな修理が必要なのは車体前面にあるラジエターや冷却ファンにヘッドライト関係だけでエンジンや変速機に損傷は無さそうだった。

フロントのウインチは完全にダメだけど、無理に直す必要はない。

頑丈さが売り物だけあってフレームには目に見えるような歪みは無い。

とりあえず、廃車の部品を改造してラジエターや冷却ファンを直せば普通に走るだけならなんとかなりそうな感じだった。

後部荷物台に設置された時間移動装置本体は無傷なんだけど、一番の問題は制御系の中枢になるパソコンが無いことだった。

この世界のパソコンを手に入れてもプログラムはゼロから作り直すしかなく規格自体が全く違うのでプログラムの基礎から勉強し直さないとダメだから簡単じゃない。

この世界はコンピューターが高級品なので資金の問題もある。


 僕は電気部品が安く手に入りそうなジャンク屋めぐりをしたいと思っていたので、

今日は神宮の仕事を三人に頼んで一人で電気街へ下見にいくことにした。

元の世界ならスマホを使ってネットで調べるんだけど、この世界のスマホは超高級品で富裕層しか使えないものだからジャンク品や中古品の情報は出てこない。

18禁情報を見たら高級売春クラブしか出てこなかった。


 この世界ではココ、茨城に相当する常陸之国が首都なんだけど、東京には秋葉原がある。

昔、大公様が電気職人を集めて作ったそうなんだけど、あいつら秋葉原も作ったんだな。

学校前駅から電車に乗って1時間半ぐらいで秋葉原に到着した。

元の世界では何度も来たことがあったけど、この世界では初めてだった。


 電器街の大通りを見ると電気屋が並んでいる、豪華なショールームの店構えを見ると尾張時計の看板が出ている、崇からもらったスマホのメーカーだ。

豪華すぎて入りずらいので外から覗いていると店員が僕をみて驚いた。

店員がこっちへ走って来たので、まずいと思って離れようとすると走って追いかけてきて「坂東様、お待ちください」と叫んだ。

僕が立ち止まると前へ回り込んできた。

僕の事を知ってるみたいで、どうぞ、どうぞ、と店の中に連れ込まれた。

立派な応接に通されて高そうなお茶菓子とお茶が出てきたんだけど、お金払えるのか心配になってきた。

偉そうな人が出てきて名詞を差し出した「尾張時計秋原支店営業部長 織田信夫」と書かれていた。

営業の人は「ようこそお越しくださいました、何なりとお申し付けくださいませ」と丁寧に頭を下げてきた。

なんか、向こうは僕の事を良く知ってるみたいなんだけど、僕は全く知らない。

「どうして僕の事を知ってるんですか?」

と尋ねてみると「佐竹大公家の若様より伺っております、若様の御学友でいらっしゃるそうで」と丁寧に答えた。

崇のせいなのか…


 ちょうどよかったと思い、パソコンが欲しいと思って探しに来たと正直に言ったら、山のようにカタログを持ってきてくれた。

僕が探していたそれなりのスペックの機械があったんだけど、値段が、どれも家一軒買えそう…

僕はカタログだけもらって逃げ出すことにした。

やっぱり資金が最大のネックだった…


中古やジャンクパーツならと思い、裏道へ入ってみた。

案の定、小さな店の軒先で廃品から回収してきたジャンクパーツを売っている店があった。

僕はパソコンを自作できそうなパーツが無いか探し回って電子計算機関係のジャンク品を扱っている店を見つけて入った。

スマホで規格とか調べながらジャンクパーツを物色していると、背後から「お坊ちゃん、何を探してるんだい」と怖そうな人が声をかけてきた。

僕はヤバイ人だと思って逃げ出そうとすると前をふさがれた。

両肩をつかまれて「掘り出し物があるんだ、ちょっと奥へ来なよ」と引っ張られていく、なんかヤバイ…

僕は店の奥にある建物同士の隙間になっている場所に連れ込まれ、前後をふさがれている。

カツアゲにあった僕は小さく怯えて「お金あんまり持ってません」と正直に言ったんだけど、

「金持ちのお坊ちゃんが何言ってんの、ジャンク屋に来たんだからオマエがジャンクパーツになりな」

「オマエが掘り出し物んだぁ」

あぁ、そうか、今の僕の服装は名門学校の制服で金持ちしか持てないスマホを持ってる、どこからどう見ても完璧に金持ちにしか見えないんだぁ、

僕は前後から挟まれ胸ぐらをつかまれて絶体絶命だった。

その時、僕の前後の怖い男が倒れた。

二人の背後には輝さんと奈緒美さんが居た。

「坂東君、秋葉原は通り一本裏に入ったら治安崩壊しているから危険だよ」

「そうです、一人歩きは危険です」と言って奈緒美さんは僕を抱えると建物の裏側のでっぱりや配管に足をかけて、器用に狭い隙間を昇って行った。

輝さんも登ってきた、僕たちはビルの上に出ると隣のビルへ伝わってその場を離れ、別のビルの非常階段から中に入った。

輝さんは「ここなら安全だよ」と言った。

ビルの一室にはジャンクパーツが積み上がり、工作台の上には電子工作に使う工具が散らばっていた。


「助かりました、ありがとうございます」「輝さんもジャンクパーツを探しに来てたんですか?」と礼を述べると。


「いや違うよ、私達は君が一人になって人気のない場所に入るチャンスをうかがって、ずっと尾行していたんだ」

「君は私たちがアメリカのスパイだって知ってるんだろう」


「そうです、私が宮廷暗殺集団の暗殺者だってご存じなんですよね」そういって奈緒美さんは笑顔で両手に刃物を持っていた。


僕はカツアゲよりもヤバイ連中につかまってしまったらしい。

僕がビビりちらしていると、奈緒美さんは刃物をスカートの中に隠して、輝さんは物腰柔らかく言った。

「坂東君、君が未来から来たことは知っている」

「私達の伝記を持っているなら、君が望む歴史改変は私達たちがキーマンなんだね」

伝記が無くなっていたと思ったのは、恵麻が持ち出していたんだ、僕はやっと気が付いた。

伝説のスパイは僕の不審な行動にとっくに気づいて探っていたんだ。


輝さんは僕の返事を待たずに、態度から推測が事実だと悟ったみたいで話を続けた

「伝記の記述には驚いた、私が何千万人も殺される虐殺の原因を作ってしまったなんて」

「恵麻の未来にも驚いたよ」

「未来の私はどうやって日本人ジェノサイドを食い止めたんだ」


「それは、具体的な記録は僕も見たことがありません」


「未来の世界はどうなっている?」


「その、最悪です、でも、この世界も最悪です、本当はこんな世界じゃないのに」


「君が最悪の未来を変えるために過去に来たのなら、君が変えたかった未来はどんな姿なんだ」

「君は私たちがスパイだと最初から知っていた、日本の破滅を回避するなら通報して私達を逮捕させるだけで十分だったはずなのに」


僕は全てを正直に話した、スパイ一家はこの世界の秘密を知った。

輝さんは深く悩み訴えた、

「この世界の歪みの正体はそれだったのか」

「何時どこで生まれたのか誰も知らない物が大量に存在しているのはチートが原因だったのか」

「これは人類すべてに対する冒涜だよ」

「久保田と北城という男は自分の欲望の為に人類すべてを汚した」


 僕たちは話し合いをして、一つの結論に至った。

改変された間違った世界を正す方法はただ一つ、改変されていない世界に戻すしかない。

全ての元凶である三大公家を滅亡せるのではなく、最初から存在しなかったことにする。


輝さんも奈緒美さんも話の分かる人だった、全部正直に話すのが最良だった。


目の前の課題はパソコンを手に入れてタイムマシーンのプログラムを再構築する必要がある。

僕は控えめに聞いてみた

「伝記の通りだと輝さんも予算はあんまり無いんですよね」

輝さんはその通りだと答えたけど、

「じゃーん、お金ならあります」と奈緒美さんは黄金に輝くカードを取り出した。

「久保田大公様から頂いたカードで何でも買えます」「あなた、ごめんなさい私ネトラレちゃいました」テヘっと可愛くとんでもないことを告白した。

輝さんは怒るどころか「君にはいつも汚い仕事ばかりさせてすまない」と謝った。

「気にしないでください、()るのも寝るのも私の役目です」


奈緒美さん、恵麻の実の親じゃないはずだけど、すごい美女だし若く見えるけど何歳なんだろう?

日本人ぽく見えるけど中国人みたいだし本当に仙人いや仙女なのかな?


 僕と輝さんは奈緒美さんのカードでパソコンを1台ずつ買って家に帰った。

これから、スパイ一家との協力関係が始まる。

しかし、不安要素が無いわけではない。

スパイ一家は原爆以上のジョーカー、タイムマシーンというワイルドカードの存在を知ってしまったのだから。

僕にタイムマシーンを作らせてから奪う可能性も…

でも、今は協力するしかない。



その日の深夜、深夜の佐竹大公家の屋敷で佐竹崇の部屋を幕臣が訪れていた。

「若様、大変に遅くなって申し訳ございません、調査報告でございます」

「ご満足いただける調査結果が得られず、申し訳ございません」

「名取桃の両親は不明です、何の手掛かりも得られませんでした」

「それどころか、名取桃、寿々代絵里奈、川崎葵、坂東太郎の四名につきまして、半年以上前に存在していた記録が一切発見できませんでした」


崇は報告に驚いた「存在していた記録が無い?」


「さようにございます、身元を詐称しているのですらなく、この世界に存在していた記録そのものが発見できませんでした」


「もういい、下がれ、これ以上の調査は無用だ!」


桃、君は一体…

崇は洗濯物から盗んできた桃のパンツを握りしめながら悩んでいた。


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