第十四話 洗濯無双
さわやかな日曜日の朝、今日は恵麻と崇が勉強を教わりに来ることになっている。
僕たち四人は当番を決めて順番に掃除や洗濯なんかの家事雑用をこなしているけど、今日は僕が洗濯当番なんで、二人が来るまでに洗濯を終わらせないといけない。
僕たちは時子様の従者の設定なので時子様も含めて五人分の洗濯をこなさないといけないんだけど、この世界には洗濯機が無い、20世紀になっても洗濯板で手洗いしている…
信じられないことに、洗濯板すらここ半世紀ぐらいになって欧州から入ってきたそうで、洗濯板で洗濯するのを南蛮かぶれと嫌う人が居る始末だった。
あいつら、無双チートしても日常生活に必要な物に手を付けなかったみたいで、家事労働は原始的な部分が多かった。
今日に限って洗濯物が多い、体育の授業があったから体操服を洗濯しないといけないからだ。
僕は葵の体操服が無いのに気が付いてゴロゴロしている葵を見た、コイツまたカバンにいれたままだな…
僕は葵のカバンを開けながら「洗濯物出しとけ、カバンにカビが生えるぞ」と注意した。
葵はいつものごとく「ゴメン」とだけ謝った。
僕は葵のカバンから引っ張り出したレオタードをタライに漬けた。
この世界は女子だけ体操服の種類が多い、授業内容ごとに着替えないといけないシステムで久保田の趣味だよな。
僕は二人の親友のことを思い出していた、久保田は三次元萌えで二次元萌えの北城とは方向性が逆なんだよな。
あいつ、俺が偉くなったら女子の体操服はブルマと新体操レオタードにハイレグエアロビに競泳水着と妄想を膨らませてたけど現実にやりやがった。
全種類コンプリートしやがった。
今の僕は久保田が考えた理想の女子体操服の後始末、洗濯物が多い現実に苦労していた。
そういえば、久保田は友情の証に僕が萌えるといったお尻にフリルのついたアンダースコートも採用してくれたらしい。
今、目の前にある桃が穿いてるヤツがそれだ。
あいつらと最後に別れてから7ヶ月ぐらいのはずなんだけど、すごい遠い気がする、400年以上も離れてるんだから当然なんだろうか?
アンダースコートをよく見ると血がついていた、桃のやつしょうがないなと思っていたら背後から「ゴメン、もう終わったみたいだから今脱いだこれも洗っといて」と血の付いた下着を渡してきた。
僕はもう慣れているので「はい、はい」と返事をして受け取った、血が固まってから渡されるよりマシだから仕方がない。
その時、渡り廊下から洗濯している洗面所をのぞいている二人に気づいた。
洗濯が終わらないうちに早めに恵麻と崇が来てしまった。
僕は桃から下着を受け取ると二人に向かって「すみません、洗濯が終わるまで少しお待ちください」と言ったら、崇は血相を変えて叫んだ「名取さん、お怪我は大丈夫ですか!」
桃は普通に「怪我?どこも怪我なんかしてません」と答えた。
僕は崇が血相を変えた理由を察して、桃の下着をつまみ上げてコレって指さした。
恵麻も事情を察したようで「若様、桃姉さまはどこも悪くありません」とフォローした。
崇は事情が分からず「でも、血が、血がぁ」とうろたえていた。
異常を察した絵里奈と葵も出てきて崇以外の全員が事情を察すると、葵がトドメをさした。
「あーっ、童貞君には刺激が強すぎましたね」
「葵さん、僕も童貞君なんですけど!」と叫んだ、僕の叫びに嘘偽りはない。
その時、崇がひっくり返りそうになり恵麻が必死で支えていた。
とりあえず、部屋に入って横になると落ち着いたみたいで、ふらふらになった崇に恵麻が小声で事情を説明していた。
崇はしばらく頭を抱えて落ち込んでいた。
僕は崇のせいで洗濯が中断してしまったので放置して洗濯に戻ることにした。
その時、崇が立ち上がり「坂東君、すまなかった僕も洗濯を手伝う」と言い出した。
僕はやんわりと断ろうとした「でも、大公家の若様に洗濯なんて」
崇は「僕は猛烈に無知を恥じている、洗濯も出来ない者に統治者たる資格はない」と言い張った。
恵麻も「私もお手伝いさせてください」と言い出した。
僕は仕方なく、洗面所で三人並んで洗濯することにした。
とりあえず桃の血が付いたヤツが面倒なので、僕は血で汚れた洗濯物だけ分けて残りを二人に頼んだ。
僕は二人の洗濯スキルが心配になったので聞いてみたら、恵麻は「ウチの洗濯物は全部私がやってるから大丈夫です」と安心の答だった。
崇が「お母さんはやらないのですか?」と聞くと「母さんは力が強ぎて破いちゃうから…」
僕は何となく事情を察した、素手で人間の体を引き裂くほどの力で洗濯されたらそれはまあ…
とりあえず、崇の指導は恵麻に任せることにして、僕はオキシドールの瓶を取り出して血を落とすことに専念した。
この世界はチートのせいで重工業に偏りが大きく、日用品を作る軽工業がおろそかにされている。
洗濯洗剤ひとつ取っても良い物が無い、幸いにして医薬品は普通にあるので薬局で買ってきたオキシドールで落としている。
横を見ると、崇も一心不乱に洗濯していた。
崇は僕の視線に気づくと、洗濯物をつまみ上げて「コレは誰の下着ですか?」と聞いてきた。
僕はの脳裏には有名な漫画やネットのコラで見たセリフが流れていった。
駄目だこいつ…早く何とかしないと…
僕は正直に答えるべきか悩んだけど、僕が悩んでいる間も崇が真顔で僕を見つめているので正直に答えるしかなかった。
「その下着は絵里奈のです」崇は次のを取り出してきたので「それは時子様のトップスです」「葵です」と正直に答えるしかなかった。
崇はなにか興奮気味に「この後ろが紐みたいなのはどうして、どうして」とブツブツ言っているので「それはレオタードの下に着るインナーですよ」と僕は葵のレオタードをつまみ上げて説明した。
崇はなにか新境地の勉学に励むように、次々と聞いてくるので、僕は全てを説明した。
崇は背後で三人がじっと見ていた事に最後まで気づかなかったらしい。
今日の勉強は8割ぐらい崇の洗濯というより、女性下着の勉強に費やされたような気がする…
やっと本来の目的である勉強会が始まった時、僕は洗濯の手間が三倍に増えたせいでドッと疲れた…
僕を放置して恵麻には絵里奈と桃が教えていた。
崇の頭の中はたぶん、さっきの復習がぐるぐる回ってるんじゃないだろうか?
もう放置しておこうと思った。
しばらくすると、時子さんがお茶とお茶菓子を持ってきてくれたので休憩することにした。
桃が足を足崩した瞬間、目の前にいた崇が鼻血を吹いて倒れた。
皆は突然、崇が倒れたのに混乱した。
僕は桃の膝丈より少し上ぐらいのタイトスカートが足を崩した時にずり上がったのに気づいた。
僕は「桃さん、さっき下着を脱いで渡した後、どうしてました?」と遠回しに聞いてみた。
桃は「あっ!」と短い声を上げてスカートの前を押さえた。
桃、絵里奈、葵、恵麻、時子の五人は若様の秘仏が宝塔を建立したのを注視していた…
僕だけが目をそらして頭を抱えていた。
崇は短時間に人生で最も濃い知識を得たせいで知恵熱を出したみたいで大公家の人が迎えに来てふらふらしながら帰っていった。
恵麻もご両親が迎えに来て帰っていった。
僕は部屋に戻ると「めんどくさい童貞だった」と愚痴をこぼした。
桃は「あんたも童貞だけど実質的にヤリチンだもんね」と嫌がらせを言ってきた。
僕は抗議するように「最後にトドメさしたの桃だろう!」と訴えた。
その時、葵が両側から桃のスカートのはしをつかんでまくり上げた。
「御開帳!」
桃はまだはいてなかった。
絵里奈は時子さんからもらった小箱を「どうぞお使いください」と言って差し出してきた。
桃は赤くなってスカートを押さえながら「今さらなんだけどさヤル気あるの」と威嚇してきた、僕は「いや、もう無理、完全に対象外です」と遠慮した。
何というか、距離感が近くなりすぎて僕は三人を性的な目で見れなくなっていた。
重い運命に翻弄され僕との関係を強いられた三人には平和で豊かな世界で本当に好きな相手と一緒になって欲しいと思っている。
僕は散らかった部屋の片づけをすることにした。
部屋を片付けていると異常に気付いた、伝記が一冊無い、どこに行ったんだろう?
作中世界は日用品を作る軽工業が未発達なせいで生理用品も現実世界のような良質な物がありません。




