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第十二話 スパイ一家

 栄養過剰になって三人がデブるんじゃないかと心配したけど、そんなことは無かった。

神宮はかなり広く、入口から本殿まで1500mほどあって本殿の後ろにある森や僕たちが住んでいる離れ部屋まで含めると入口からの奥行は3km近くある。

雲丹母俱神宮の前には雲丹母俱神宮前駅があって参拝者が利用している。学校の前にもそのまんま、常陸国工業高等専門学校前駅があって一駅でつながっているので通学には非常に便利だった。


 僕たちは表向きは神職見習いの立場で時子様専属の従者ということになっているので自由が効くんだけど、その時子様が登校前に自分から朝早く神宮前の清掃に出ているので僕たちも登校時間前に朝早くから神職見習いの着物姿で神宮の正門入口の清掃をしていた。

僕たちは毎朝、奥の離れ部屋から神宮前駅まで2kmあまりを走らないといけない、清掃が終わったらそのまま学校に行きたいんだけど、神職見習いの着物姿で清掃してから学校の制服に着替えに戻ってまた駅まで移動しないといけないので、最低でも2km×3で6kmのマラソンを毎日強いられている。

信じられないことに時子さんはコレだけの距離を巫女装束の袴の下で足をものすごい速さで動かして走っているように見えない姿でマラソン選手並みのスピードで毎朝往復している。

知らない人が見たら袴の中に車輪とエンジンが隠れていると思われそうなほどだった。


 僕たちも最近は走るのが早くなってきた、大宮司とかの偉い人は馬に乗って移動してるけど僕たち神職見習いは走るしかない。広大な聖域を守る神職はちょっとした用事でも毎日10kmぐらい走るのが日常茶飯事で重い献納の品を運ぶこともあり、献納の米俵一俵(60kg)を担がなければならない地味に体力仕事だった。

お嬢様であるはずの時子さんは平気で米俵二俵(120kg)を担いでいる、本来なら僕たち従者に命令するだけの立場のはずなのに人間に上下無しと言って子供のころから米俵を担いでいたらしい。

露出の多い服装を好まない時子さんだけど学校で体育の授業の時に見てしまった、脱いだ時子さん、ちょっとすごい体してた…

神宮が平地にあったからよかったけど、山の上だったら死んでたと思う…


僕たちは今日も朝食を山盛り食べて正門入口の清掃に出ていた。

ここは一番外側の鳥居で奥から三重になって、すでに宮大工が修理してるんだけど、一番奥の鳥居には僕がウニモグをぶつけた、バチ当たりなんだけど、ぶつけたのがココのご神体なんで末代まで祟られても仕方がないほどの超絶バチ当たり、僕に次の世代が居たらの話だけど…


 朝早いのに学校や仕事に行く前に鳥居の前で手を合わせて拝んでいる人たちがいる。

わざわざ、参拝の為に神宮前駅で途中下車する人たちがいる。

その中には朝早くから桃目当ての佐竹崇がいた、神宮を参拝するフリをしながら掃除をしてる桃の姿をじっっと覗っている。

そして、僕たちが登校するまで待っていて、一緒に登校するのが日常になっていた。

これって、完璧にストーカーってやつじゃないだろうか?


 僕は参拝者の中に目立つピンク色の髪の毛を見つけた。薔薇園恵麻(ばらそのえま)が両親と一緒に神社を拝んでいた。まだ早い時間なのに、このまま登校するみたいで制服を着てカバンを持っていた。

申しけないけど、僕たちは伝記や歴史本の知識チートであの人たちの正体を知っている。

あらゆる科学分野に精通した天才的な頭脳を持つ伝説のスパイ薔薇園輝(ばらそのてる)ことロバート・ローゼンベルグと、

清帝国の宮廷暗殺集団に育てられた世界最強の暗殺者薔薇園奈緒美(ばらそのなおみ)ことナオミ・ローゼンベルグだ。

本名じゃないらしいけど、伝記にはスパイとして活動した時の名前しか記されていない。


 僕は思い切って声をかけてみることにした、正体を知っていると知られたら僕が暗殺されかねないから慎重に声をかけた。

「薔薇園さん、お早うございます、お父さんとお母さんもご一緒ですか」

お父さんとお母さんは気さくに「お早うございます」と返事を返してきた。

僕は「まだ時間があるなら奥の本殿までどうぞお上がりください」と無難に誘ってみた。

お父さんは「いえ、私たちは南蛮人ですから、聖域には立ち入れないので、こちらで失礼します」と返してきた。

その時、時子さんが「神宮に南蛮人の立ち入りを禁ずる決まりはありません、どうぞお上がりください」と言ってきた。

お母さんが「いえ、いえ、決まりはなくても皆さんの目が痛いですから」と及び腰に断ってきた。

時子さんも負けずに「神宮では人はみな平等だと説いています、南蛮人だからと言って差別しません」と毅然と言った。

僕は時子さん、攻めすぎじゃないと不安になってきた。

お父さんは「ですが、やはり、他の参拝者の方々のご迷惑にもなります」と無難に断ろうとしてきた。

その時、桃が佐竹崇を引っ張ってきた。「こちらのお方は佐竹大公家の若様でいらっしゃいます、南蛮人でも大公家の客人として参拝される方もいらっしゃいますので」と崇に良いとこ見せろと暗に迫っていた。

崇は桃に話を振られて黙っていられないので「僕が本殿までご案内いたします」と大見えを切った、スパイ一家は崇に案内されて奥の本殿へ向かった。


 歩きながら薔薇園輝(ばらそのてる)は恵麻と一緒にいる桃に声をかけて「入学初日に娘が辛い目にあった時に助けて頂いたそうで、お礼申し上げます」と帽子を取って頭を下げた。

恵麻は「桃姉さますごかったです」と尊敬のまなざしを向けていた。

桃は姫の顔で「礼には及びません、本当に頭が上がらない家柄など数えるほどしかございません、他人の偉業を自分の事のように語る者に頭を下げる必要はございません」と毅然と答えた。

崇は「さすが名取さんです」と桃を褒めたたえた。

崇は「ところで薔薇園(ばらその)さんの本当のお名前はなんとおっしゃるのですか」と聞いてきた。

僕たちはなんで事情を知らないはずの崇がスパイに本名聞くとかぶっこんでくるの?とあせった。

まさか、崇はスパイだって見抜いている…

お父さんは動揺を見せずに「入国手形にも記載されている本名ですが」と正解を探るように答えてきた。

崇は普通に「そうではなくお国の言葉のお名前ですよ、欧州人のようですがお国はどちらですか?」と聞いてきた。

お父さんは質問の意味を理解したようで「ドイツです、ドイツ語ではローゼンベルグと申します」

「私は最後の宗教戦争と呼ばれた三十年戦争で大公家に忠誠を誓いキリスト信仰を捨てた鉄十字軍団の末裔です」

「祖先はバチカンを滅ぼしたウァティカヌス丘の戦いに従軍しておりました」と無難に表向きの設定を答えてきた。

崇は「無理に日本人の紛い物にならないでください、どうかご自身の祖国を大切になさってください」と言った。

お父さんは「ありがたきお言葉ですが、日本語の読み書きが出来ない者はどこへ行っても良い仕事がありません、娘には大公様から秘伝を授けて頂けるような立派な人間になって欲しいと願っております」と答えた。

崇は「内密な話なのですが秘伝の中には英語で記された物もあります、日本語が全てではありません、僕は英語の勉強も心掛けています」と言った。

崇がとんでもない爆弾発言をしてしまったことに気付いているのは僕たちと、スパイ一家だけじゃないだろうか?

やっぱり、コイツが幕府を滅ぼした元凶の可能性が…

お父さんは「ありがたきお言葉、心に染み入ります」と無難に礼を述べた。

僕は破滅へのカウントダウンが始まったような不安に襲われた。


 奥にある本殿で参拝が終わるころ、時計を見ると登校しないといけない時間が迫っていた。

早く着替えて駅まで走らないと間に合わない、電車に乗り遅れたら遅刻確定だった。

僕たちは着替えるために奥の離れ部屋へ走った、時子さんも自分の部屋へ着替えに行った。

僕たちの部屋は奥にあるので結構遠いのが難点だった。

僕たちが本殿の前へ戻ると崇と恵麻が先に行かずに家族と一緒に待っていた。

電車が出るまで時間が無い、残り1500mを陸上選手なみのスピードで走らないと間に合わない、しかも制服姿でカバン持って…

僕たちは全力で走った、時子さんが先頭を走っている、巫女姿の袴だと見えないけど制服のミニスカートだと足の動きが良く見える、ものすごい速さで足が動いている。

崇と恵麻が遅れている、このペースでは間に合わないと思った時、お母さんが「恵麻さんと若様を遅刻させるわけにはまいりません」と走っている二人に追い付いて手を引くと、人間二人を引っ張っているとは思えないスピードで時子さんに追い付いて、二人を抱えたまま僕たちよりも先に電車に駆け込んだ。

僕たちがギリギリで電車に駆け込むと、お母さんが「わたし運動得意なんです」とテレていた。

どう見ても世界記録を塗り替えそうな身体能力なんだけど、宮廷暗殺集団が使う仙術で超人的な運動能力を持っていたってフィクションの誇張じゃ無かったんだ…

お父さんははるか後ろで電車を見送っていた。


 僕たちがほっとしていると恵麻が「母さん、職場は逆方向の電車じゃないの?」と指摘すると、お母さんはムンクの叫びのような顔をした。

僕たちは間に合ったけど、お母さんが遅刻確定らしい…

崇は自分が走るのが遅かったせいでお母さんが遅刻するのを申し訳ないと思ったのか、スマホを取り出すと電話をかけた。


「第一師団空中機動歩兵、緊急出動だヘリを出せ」


恵麻のお母さんは学校前駅からヘリで職場に送迎されていった…

それなら自分がヘリで学校に通えば良かったのでは?

三大公家の若様には規格外の権力と財力があるらしい…

三大公家は世界の富を独占する世界三大富豪で世界最強の軍を牛耳る権力者なんだよな…


そして、崇は己を鍛えると言って毎朝一緒に走るようになった、桃の後ろを走るとパンチラを拝めることを学習したから…



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