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第十一話 尻毛奉行

 僕たちがこの世界にきて一番うれしかった事は食事が美味い。

神宮の食事はこの世界でもかなり良い方で慢性的な食糧不足に苦しんでいた世界しか知らない三人には天国だった。

神宮には毎日大量の食材が献納され、神職の食事になっている。

全国から献納された米や麦は業者に卸して換金している、文字通り売るほどある。

高級果物も山盛り献納される、三人がメロンを食べた時は失神しそうになったほどだった。

だから神宮の食堂で山盛りをお願いするといくらでも盛ってくれる。

桃と絵里奈と葵の三人は毎日山盛り食べていた。

絵里奈は「タンパク質です、油よりも炭水化物よりもタンパク質大盛でお願いします」と言って贅沢に肉の赤いところだけ切り出して焼いてもらっている。

桃は毎日どんぶり飯に生卵と醤油をかけて食べているし、葵はパンが気に入ったみたいで毎日ジャムを山盛り塗って食べている。

時子さんは一汁三菜の質素な食事をしていたので僕も同じようにしている。

質素といっても厳選された良質な食材なので美味い。

やっと最初にいた世界の生活水準に戻った気がする。


 四人でお風呂に入ろうとして脱衣所で脱ぐと、コッチの世界にきてから栄養状態が良くなったおかげで三人とも肉付きも肌艶も良くなってきた。

洗濯板だった絵里奈も胸が大きくなってきてる、僕はふと魔がさして絵里奈のオッパイをもんでしまった。

それは柔らかくて心地よかった。絵里奈は僕の予想外の行動に「ヒッ」と短い悲鳴を上げた、僕はしまったと思い手を離した。

その時、三人の視線が僕の股間に集まった、今まで役立たずだった僕の分身は元気を取り戻していた…

桃は僕の股間を見て「今頃元気になっても困るんだけど」と見下す目で言った。

絵里奈はもまれた胸をおさえて「今は世界の為に活動しないといけませんから、今妊娠するのは困ります」と遠慮してきた。

葵も「生涯処女と童貞を誓ってる設定だからねえ、ちょっと今は…」と困った顔をしていた。

僕の分身は今頃になって元気を取り戻したけど手遅れだった。

「ごめんなさい、これから風呂は最後に一人で入ります」と言って風呂に入らずに脱衣所から出た。

今日から風呂掃除は僕一人の仕事になった。


あれ、もしかして、僕が前の世界で役立たずだった原因は栄養失調?

なんか心を病んできた気がしてたのも不味い物しか無くて痩せてたせい?

今頃原因に気づいても手遅れだった…



風呂から逃げ出した僕は何度も読み込んだ伝記をまた開いた。

伝記にはこう記されていた。


 スパイ作戦の始まりは15年前に湯川博士に一冊の秘伝書が授けられたところから始まった。

秘伝書の題名は相対性理論、本質的に質量とエネルギーは同じであると書かれた秘伝から湯川博士は何の成果も出せず秘伝書は奥之書院にもどされた。

その後、湯川博士のノートがアメリカに渡りアメリカで一人の諜報員が意味を理解した。

この秘伝自体に直接的な意味はない、しかし、この秘伝を用いた超兵器の秘伝が存在するはずだと一人の諜報員が主張した。

作戦を立案した諜報員は少しばかりの予算をもらい、ニセモノの妻と娘を伴って日本に潜入した。

それが、救国の英雄、ロバート・ローゼンベルグの始まりであった。


 この世界は300年前には21世紀の水準にまで科学が発展したけど300年以上も新しい発明も発見もない。

チートによって手に入れた技術は完成品として存在しているため改良しようと考える人はいない。

下手に改良とか改善を主張すれば大公様を侮辱する謀反人扱いされる。

この世界はこのまま何百年進んでも現状維持以上の道は見えない。

いや、石油や石炭が枯渇すれば衰退していくことになる。

あのバカ二人はラノベと違って現実に最終回はなく物語がずっと続くことを理解してなかったんだろうか?

伝承によれば二人とも80歳過ぎまで生きていたらしい、久保田と北城は老いて死ぬ時に何を考えていたんだろう?

これが自分たちの物語の最終回だと思っていたのかな?

僕は風呂に入らないまま寝入ってしまった。


 翌日、学校で葵がなんか尻を痛そうにしていた。

佐竹崇が「川崎さんどこか具合が悪いのですか」と声をかけてきた。

葵は「いやー、ちょっとお尻を怪我しちゃって」と恥ずかしそうに答えた。

崇は「怪我でしたら良い病院をご紹介いたします」と親切に言ってきた。

そこへ絵里奈が「大丈夫です、大したことありません」と横やりを入れてきた。

「寿々代さんは怪我の原因をご存じなんですか?」と聞かれて「私が悪いんです、本当にごめんなさい」と誰に対して謝ってるのかよくわからない言い訳を始めた。

崇は「坂東君、一緒に暮らしている君が気遣うべきではありませんか」と僕に振ってきた。

葵は「太郎のせいじゃないから」と僕を擁護すると「太郎が一緒にお風呂に入ってくれなくなって、絵里奈に尻毛剃り頼んだらお尻切られちゃった」と恥ずかしそうに言った。

絵里奈は「本当にごめんなさい、不器用なんです」と平謝りしていた。


崇はうろたえながら叫んだ、

「尻毛剃り!、尻毛剃り!、尻毛剃りとは、どんな宗教儀式ですか」


クラス中が若様御乱心に注目する中で葵はさらっと「別に儀式じゃありません、自分でできないとこを太郎にやってもらってたんで」と悪びれもせずに答えた。

「まさか、名取さんも…」と崇は何か瀕死のような顔で桃と僕の顔を交互に見ている。

桃は恥ずかしそうに「尻毛剃りが必要なのは葵だけです」と言い切った。

葵が「ひどーい、絵里奈は尻毛ないけど、桃は生えてるじゃない」と言ったのを聞いて崇の顔に死相が浮かんだ。

桃が「私は葵みたいなボーボーじゃないわよ」と叫んだ。

葵が「太郎に尻毛検分してもらったとき桃の尻毛はヒブッ」と言いかけた途中で葵の頭に時子さんの岩山両斬波が決まった。

時子さんは「神職にならんとする者が下品な言葉を使ってはなりません」と一喝した。

僕たち四人は教室のすみで正座して時子さんに怒られることになった。


それ以来、僕の渾名は尻毛奉行になった。


その日の夜、僕のスマホに崇からのメールが届いた。

「名取桃さんの尻毛が何本あったのか答えなさい、坂東君は尻毛がはえているのか答えなさい、一時間以内に返答がない場合はスマホが自爆します」

僕は素早く正直に返答した。

この世界のスマホには本当にリモート爆破機能が付いているのか崇の冗談なのか判断がつかないけど、崇が冗談を言う性格には見えなかった…

僕は怖くなってスマホを部屋の隅に置いて寝た。


 そして次の日の朝早く、神宮の掃除に出る前に僕たちが暮らしている離れ部屋に時子さんがやってくると「神職見習いは処女と童貞でなければ許されないところを特別に大目に見ています」と恥ずかしそうに言った。

「私が昨晩、人目を忍んで自動販売機で買えるだけ買ってきました」と言ってカバンからバラバラと小さな箱を出した。

箱には突撃一番、天牙、オカモト、スキン、ラバーなどの商品名が書かれていた。

「この離れ部屋は本来なら大宮司と神宮衛士長だけが使えるお世継ぎを授かるための部屋です、ここ以外では禁忌ですから厳重に注意してください」と念を押してきた。

そうか、ここって、そういう目的の建物だったんだ、僕たちの関係って時子さんの目にどんなふうに見えてるんだろう…

そして、時子さんの贈り物は開封されることなく床下に隠された。


翌日、崇から高級エステサロン全身脱毛コース無料券が送られてきた、なぜか僕の分のメンズエステ無料券も入っていた。

まさか、桃が僕の尻毛を剃っている可能性を考えてるんじゃ…


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