第一話 戦国時代にタイムワープして無双チート
令和の時代、僕たちはクソみたいな最悪の時代で青春を送っている。
未来は悪くなる予想しかなく、夢も希望も無い。
そんな、常陸工業高等専門学校2年の夏、俺たちは夏休みの工作でタイムマシーンを作っていた。
二人の親友は頭が良すぎて頭がおかしいタイプというのか、大学よりも実学優先と言って高専に入ってきた変人だ。
どう考えてもタイムマシーンとか高校生が夏休みの工作で作れるものじゃないと思うんだけど、2人とも流行の無双チート物にかぶれすぎてるよ。
久保田は爺さんの遺産のウニモグとか言うドイツ製の高級トラックを無免許運転を気にせずに乗り回している。
身長180cm超えのデカイやつだけど、度胸もデカいのか捕まらなければ大丈夫、無免許運転歴何十年のツワモノなんて普通にいると言い切る順法精神の欠片もないやつだ。
北城は「法律には穴があって犯すことが出来る」と言って六法レイプなんてニッチなエロを追求したり、
「道路交通法を遵守して違反しなければ警察には捕まらない」とか法律を破るために守るみたいなヤバイことを平気で言うヤツだ。
二人は効率重視な最新科学よりも無駄の多い骨董品科学が好きな変人で紙の古い本とか論文を印刷した物とか設計図のコピーとか山のような資料に、廃業した町工場からもらってきた工作機械や資材を積み込んでいた。
この二人、身長差が20cmぐらいあるデコボココンビで僕が中間ぐらいの感じなので、三人並ぶと大中小みたいになる。
二人の計画だとアメリカの映画みたいにトラックをタイムマシンに改造してチートアイテム満載で戦国時代に行く設定らしい…
僕は何を持っていたら無双チートできるのか考えるのが楽しくて、二人の遊びに付き合って戦国時代に行って無双チートするためのアイテム集めを手伝っていた。
そして、夏休み最終日、二人は深夜の田舎道でウニモグに乗り込むと、
「坂東、手伝ってくれてありがとう、お礼に美少女ハーレムをプレゼントするから待ってろよ」と久保田が陽気に手を振っていた。
「クソみたいな令和を夢の時代に変えてやるから期待してろ」と北城は謎の言葉を残して、
二人が乗ったウニモグはアクセルを踏み込んで全力ダッシュすると雷の中へ消えていった…
僕は何が起きたのかわからず、まあ、明日になれば学校で会えるだろうと思って自転車に乗って家へ帰った。
フトンに入った時には夜中の2時を過ぎていた。
朝起きると部屋の様子が変わっていた。LED電球が白熱電球になっている。テレビもなんか奥行きが長くなってる。
部屋にあったゲーム機が無い、何かおかしいと思いながら朝飯を食べに台所に出ていくと母さんが満面の笑顔だった。
でも、なんか昨日より急激に痩せてない?
食い意地がはって生活習慣病が心配な体型だった母さんが細くなってる。
「太郎ちゃん、これ見て、白米三合炊いちゃいました、秋田の叔父さんからお米が届いたの」
「そして、今朝のオカズは玉子焼きです、養鶏やってる藤間さんにお米三合と卵一個交換してもらいました」と母さんが嬉しそうだった。
父さんは「おっ、すげえ今朝は豪勢だな」と目を輝かせていた。
母さんは「実家が米農家のお父さんと結婚してよかったわ」と上機嫌だった。
茶碗一杯の白飯に玉子焼きを一切れ、今朝の食事はコレだけだった。
何かおかしい、なんか家も違う、全体的に貧しくなってる。
父さんが「太郎、朝飯が白米と玉子焼きだったって自慢するんじゃないぞ、闇米が見つかったら罰金で父さんの月給が消し飛ぶんだからな」と釘をさしてきた。
僕は猛烈に嫌な予感がしてきた、何か世界が違う。
まさか、久保田と北城が作ったタイムマシーンのせいなのか?
あの二人に聞けば何かわかるかもしれないと思い、僕は学校へ急いだ。
教室に入った僕はまた、違和感に襲われた。席が二つ少ない、久保田と北城の席が無くなっている。そして、クラスの誰も久保田と北城を知らない、二人は世界から完全に消えていた。
僕は二人を探してタイムマシーンが消えた場所へ戻ってきた、そこは何もない更地が広がり周囲は鉄条網で囲われていた。
鉄条網の前には大きな看板が建って赤字で大きく威嚇するように書かれていた。
刑法第二百六十六条
佐竹義重、久保田徹、北城真司の子孫と事実に関わらずこれを名乗る者は死刑とする。
僕は看板を見て目玉が飛び出そうなほど驚いた。
「あいつら、名指しで死刑にされてる!」
「なんだよ、この無茶苦茶な法律は、こんなのアリなのかよ!」
僕は歴史が全く違う物になってしまったことを、やっと理解した。
問題は今の社会がどうなっているのか僕にはよくわからない、たぶん、歴史改変を知らない人には一般常識なんだろうけど、このままだと僕は妄想で頭がおかしい狂人だ。
だいたい、ただの田舎道だった場所がこんなに広く更地になって鉄条網で囲われた挙句に謎の死刑の看板まで建っている理由がわからない。
少し歴史が変わったなんてレベルじゃない。
僕はググってみようと思いスマホを取り出した、しかし電波が入らないみたいで使えない。
電波の入る場所へ移動しようと思いしばらく歩いていると、乳母車に座ったおばあさんが土産物屋の旗を立てて路上で何かを売っていた。
おばあさんは僕に気がつくと声をかけてきた
「お兄さん、土産物はいらんかね、雲丹母俱神宮に祭られていた霊獣雲丹母俱様の人形だよ」
そういってモルカーみたいなぬいぐるみを渡してきた、おばあさんの前に置いてある箱には小さなぬいぐるみが何個も入っている。
作りにバラツキがあり、量産品ではなく手作りみたいだった。
僕は「ちょっと、今お小遣いが無くて」と断ろうとしたら、おばあさんは「お金なんかいらないよ、お願いだからここに雲丹母俱神宮があって霊獣雲丹母俱様が祭られていた事を忘れないでおくれ」と懇願するようにぬいぐるみを僕の手に押し付けてきた。
僕は意味が解らず「雲丹母俱ってなんですか?」と聞き返してしまった。
おばあさんは「そうかい、若い人は雲丹母俱様を知らないんだね」と残念そうに言った。
僕はなんか悪い気がして「すいません」と謝ってしまった。
おばあさんは悲しげに「いいんだよ、あたしらが死んだら誰も覚えている人が居なくなると思うと寂しくてねえ」とうなだれた。
僕は「あ、いえ、すみません」と意味が解らず、また謝ってしまった。
おばあさんは僕が話を聞いてくれると思ったのか昔話を始めた。
「昔、ここに大きな神社があってねえ」
「元服され当主になられたばかりの佐竹様が雷と共に霊獣雲丹母俱様に乗って現れた久保田様と北城様と出会い三大公と呼ばれることになった始まりの場所を祭っていたんだよ」
「戦争に負けて、GHQが全部壊してしまってねえ…」
「あたしは子供のころ神社の巫女をしていてねえ…」
僕はおばあさんの昔話をじっと聞いていた。
あいつら、本当に戦国時代にタイムワープして無双チートしてたんだ。
話の途中でふと、おばあさんが目を見開いて僕の後ろを見て強張った。
僕も何事かと思い振り向くと自転車で巡回中の警察官が立っていた。
おばあさんは警察官に「この子は関係ない、あたしが昔話をしていただけなんです」と必死で訴えた。
定年退職手前みたいな老警官は「時子さん、俺だよ、守だよ、大丈夫だって」と老人同士の知り合いみたいだった。
警官は「少年、老人の昔話に付き合ってくれてありがとう、ばあさんから聞いたことは黙っててくれよ」と優し気に言ってきた。
警官は鉄条網の方を向くと「まあ、俺の独り言なんだけどさ、今じゃ焚書されて何も残ってないけど、刑法第二百六十六条なんて無茶な法律を作ったのは悪意じゃないんだ、政治家連中もGHQ相手に頑張って三大公様の名前だけでも残そうと思ってこんな法律を作ったんだ、頼むから俺たちがみんな死んでも忘れないでくれよ」と寂しげに独り言を言っていた。
僕はおばあさんと警官に頭を下げると家へ向かって走り出した。
おばあさんは「久しぶりに若い人と話が出来てうれしいよ、何にもいらないから、覚えてくれるだけで嬉しいよ」と精一杯の大きな声で見送ってくれた。
家に帰りつくと夕日が沈みかけていた。そういえば道路が荒れて何十年も補修されていないみたいだったし、街燈もない、どう見ても前よりも悪い世界になっている。
僕は腹が減って死にそうだった、今日はろくな食べ物にありついていないからだ、買い食いしようにもコンビニすら無くなっていた。
あいつら、歴史改変に大失敗してるんじゃないかと思い始めた。
家に入ると台所の椅子に知らない美少女が座っていた。
母さんは微妙に困った顔で「この子ね今日からウチで一緒に暮らすことになった桃ちゃんです」と紹介した。
美少女は「始めまして、太郎さんの許嫁の名取桃です」と名乗った。
僕は「ええ、僕に許嫁とか初めて聞いたんだけど、いたの?」とすっとんきょんな声を上げた。
母さんは諭すように「あのね、桃ちゃんは家族も親戚もみんな死んじゃって1人なの、だからウチしか頼ることころが無いの」と言った。
なんか人身売買っぽくない?、この世界ヤバくない?と思った時
桃は「正直言って、私も坂東太郎様が実在したことに驚いています、生年月日と名前だけではなく、顔までそっくりなんですもの」と言った、僕は驚いて「はぃ?どういうことですか?」とすっとんきょんな声を上げてしまった。
父さんは神妙な顔で「いいか、太郎、この話が人に知れたら、お前も桃ちゃんも、父さん母さんもみんなGHQに殺されるから心して聞けよ」と言った。
桃は背筋を伸ばすと、一呼吸おいて「私の本当の名前は佐竹桃、三大公の一人、征夷大将軍佐竹義重の血を引く大公家の末裔です」と述べた。
父さんは僕に「そうだ、桃姫様は世が世なら大公家の姫になるはずだった御方だ」と言った。
「えぇぇぇ、どうしてそんな子が僕の許嫁なんかに!?」
「三大公家には先祖代々伝えられてきた秘伝があります、永禄5年より444年の後の6月6日に常陸国で生まれた坂東太郎が17歳になった年の9月1日に三大公家の美しい姫を持参金付きで嫁がせよと」
「御姿絵も伝わっています」と言って和紙に描かれた古い絵を出した、その絵はどう見ても今ぐらいの年齢の僕の姿だった、それどころか服装は学校の制服じゃないか。
「雷と共に霊獣に乗って現れた両大公様には未来を見通す不思議な力があったと伝えられていますが、さすがに私も御伽噺だと思っていました」
「幕臣の生き残りは秘伝が幕府滅亡の危機に備え三大公様が残して下さった預言だと信じて…、いえ、すがりついて、最後の希望を託しています」と言い放った。
僕はやっと状況を理解した、これは久保田と北城のやらかしだ。
たぶん、戦国大名に取り入って無双チートして大公様とか大仰な物になったあいつら日本史を書き換えやがった。
そして、現代に残った僕に美少女をプレゼントしようと思って、やらかしてくれた…
「それと、秘伝には三大公家の三人の姫を正室とせよと伝えられています」「近いうちに久保田大公家と北城大公家の姫も来るはずです」と桃は言った。
久保田と北城は僕に美少女ハーレムをプレゼントする約束を460年かけて律儀に守るつもりらしい…