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第五話


 「それで名前はなんだ?」

 「ア、アーニアスです……」


 何事もなかったようにソファーに腰掛けたレオンハルトにどうしていいかわからず、顔を痙攣らせたアーニアスは立ち尽くしたまま答えた。


 「………」


 無表情で黙り込むレオンハルトに、アーニアスは意を決する。


 「あの……先ほどは、」

 「ん?あぁ、席も勧めずにすまない。座ってくれ」

 「………はい」


 暴言を吐いたことに謝罪をしようとしたら、斜め上からの返事が返ってきて困惑する。

 (さっきの出来事は彼の中でなかったことになったの?)


 メイドが茶を出す準備をしだすと、甘い花の匂いが部屋に漂い始めた。

 (あ、このお茶懐かしいわね。昔はよくお母様と庭先で飲んだっけ)

 少し変わった茶で、ソーサーに添えられた小さな花を浮かべてティースプーンで軽く潰してから飲むのだ。数少ない母親との幸せだった思い出に、少し感傷的になる。

 メイドの給仕が終わるとレオンハルトは一言命じ、二人を退室させた。


 「今までどこで暮らしていた?」

 「王都から少し離れた村にある孤児院です」

 「どうやって瞳の色を隠して生活してきた?」

 「前髪を伸ばして、なるべく人に会わないようにしてきました」

 「よく周囲に気づかれずに生きてこれたな」

 「……母が守ってくれていたので」


 矢継ぎ早に疑問を投げかけてくるレオンハルトに、アーニアスは俯きがちに答えを返した。

 (まるで尋問のようね、実際尋問なんだろうけど)


 「母親は亡くなったと聞くが」

 「はい。二週間前に病気で亡くなりました」

 「………」


 レオンハルトは頭の中で、自身の持つ情報と擦り合わせているのだろう。事実、村は実在し、小規模だが孤児院もある。唯一いたシスターは二週間前に亡くなっており、村人が弔っていた。


 「何故、孤児院に孤児がいない?」

 「母からは父が私たちを匿うために用意した形だけの孤児院だと聞いています……」

 「そうか」


 漸く納得してくれたかと一安心し、出された茶に手をつけるため添えられた花を指でつまんだ。


 (ふふ、今のところ完璧ね!)


 失態を犯したことなどすっかり忘れ、ティースプーンで花を潰し、上機嫌でカップに口をつけるアーニアスは、その行動をレオンハルトがじっと見つめていることに気づいていなかった。


 「どこで飲み方を覚えた?」

 「はい?」


 平民だってお茶くらい飲むだろうと、質問の意味がわからず首を傾げる。


 「その茶は()()()()()出されていないのに、何故飲み方を知っている?」


 




 (………またやってしまった)


 今度はアーニアスが凍りつく番だった。





ありがとうございました。

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