第四話
すみません、この回を書き直しました。
(この部屋に案内されてもう三時間は経つかしら?そろそろ眠くなってきたわ)
薄汚れた質素な服を着たアーニアスは、上質なソファーの座り心地の良さに、必死に欠伸を噛み殺しながら、ちらりと背後の二人に目線をやった。
「……」
「……」
アーニアスはわりと図太い神経の持ち主だったが、見知らぬメイドと騎士が間近にいる状態で眠れるはずもない。
(それにしてもここまで順調なのは、この黄金色のおかげね!誰も私を王族だと疑わないんだもの)
気持ちを切り替え内心ほくそ笑みながら、ふと今まで深く考えてこなかった自身の瞳の色について考えた。
王族だけに受け継がれるこの色には、聖書からお伽話まで多種多様な逸話が存在する。
【悪い化け物を倒した王様が女神様から輝く加護を受け取った】
というありふれた話が、平民貴族問わず、この国で広く知れ渡った伝承である。
(それから加護の影響で王家の子は皆、金目で生まれてくると習ったことがあるわ)
現実的に考えれば、遺伝的な要素が一番の理由だろう。
しかし、近親婚を繰り返すわけでもなく、目の色だけを確実に子へと継がすなど可能なのだろうか?
(私は女神の存在を否定できない。そうでないと今ここに………)
その時ドアを叩く音が聞こえ、アーニアスは考察を中断するとスッと立ち上がる。
メイドが動きドアを開くと、部屋にスラリとした長身の美丈夫がやってきた。
―――レオンハルト・メア・ラクレース
【黄金の獅子】と呼ばれる、この国唯一の王位継承権を持つ王太子。
「待たせたな」
肩まで伸ばしたアンティークゴールドの髪を片耳にかけながら、黄金の瞳を細め、非常に整った中性的な顔立ちに笑みを浮かべる。
普段の無表情な王太子からは想像も出来ない美しい微笑みに、メイドどころか騎士までもが息を呑んだ。
(………)
アーニアスの背中に嫌な汗が流れる。
(……ダメよ、耐えるのよ)
「其方が私の従姉妹殿だな?」
にこやかにこちらに近づかれるたびに、だんだんと顔が青ざめてくるアーニアスは、震える手をぎゅっと握り足に力を込めた。
(こ、こっちにこないで……)
小さく震えながら顔色を悪くしたアーニアスに気付いたレオンハルトは、真面目な表情に切り替えて心配そうに問いかけてくる。
「体調が悪いのか?」
「………」
顔を横に振り否定すると、「そうか」と少し考え込む様な仕草をすると言葉を続けた。
「平民として育ったと聞く。言葉遣いなど気にせずに話せばよい」
(違う、そうじゃないのよ)
至近距離まできたレオンハルトが、相手を安心させるかのように、再びその綺麗な顔に誰もが見惚れるような笑みを浮かべると同時に、アーニアスの我慢が限界を迎えた。
(あっ、……もう無理だわ……)
自分と同じ目の色をした男の頭一つ下から、これでもかというほど睨みつけると、大声で叫んだ。
「ちょっとその薄気味悪い作り笑顔を今すぐやめて!すっっっっっごく気持ち悪いのよ!!」
ピシリ、と音が鳴ったように目の前のレオンハルトが、笑みを作ったままの状態で凍りついた。
我に返ったアーニアスは咄嗟に手で口を覆うと、せわしなく目を泳がせ心の中で頭を抱えた。
(や、やってしまったぁぁぁ………!!!)