第三話
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あれからロバートの呼びかけにより意識をなんとか現実に取り戻せたレオンハルトは、急ぎ謁見の約束を取りつけると、足早に指定された場所へ向かった。
重厚な扉をノックすると「入れ」と短い返事を聞き、中に入る。
未だ衰えぬ肉体に王者の風格を纏う国王のオベロンと、成人済みの息子がいるとは思えないほど若々しく美しい王妃のターニアが仲睦まじげに茶を飲んでいた。
「して、何ようだ?」
「伯父上にお子がおられたと伺って参りました」
オベロンとターニアは、はて?と同時に首を傾げ、あぁ、そういえばとまるで今思い出したかのような表情でお互いを見合った後、レオンハルトに視線を移しオベロンが口を開いた。
「黄金の瞳を持っておった。間違いなくダミアンの落とし胤だ」
「………」
温かい日差しが差し込む煌びやかなティールームで、一人だけ苦汁を飲まされたような表情をする息子に満足そうに頷くと、オベロンは芳しい香りがするティーカップに手を伸ばした。
レオンハルトは諦め悪くも父親を睨み続けていると、左頬が真っ赤に腫れていることに気づく。そして一つの可能性に辿り着いた。
「ところで念のためにお聞きしますが、」
「馬鹿なことを抜かすな」
いつもは威厳に満ち溢れた父が、母の手を握り猫撫で声で愛の言葉を繰り返す情けない姿にレオンハルトはいろいろと察し、部屋を出て行こうとドアノブに手を掛けた瞬間、後ろから声がかかった。
「南の客間に娘はおる」
娘…ということはまた女なのか、とレオンハルトは深いため息を吐いた。
「ヴァィオレットはこのことも?」
「まだ嫁ぐと決まってないからな」
「………」
「レオンハルトよ、“ヴィー”に愛してるときちんと言えておるか?」
ぴたっと音が止んだように静寂に包まれた。
――と思った次の瞬間、耳を塞ぎたくなるような破壊音とともに頑丈そうな扉が粉々に吹っ飛んだ。
「俺以外がヴァィオレットを愛称で呼ぶな」
怒りを露わにした口調でそう告げると、レオンハルトは扉だった残骸を蹴散らしながら部屋を後にした。
その後ろ姿を彼の両親がもの寂しげに見ているとも知らずに。
残された室内で王妃に「意地悪しすぎよ」と窘められて、メソメソしてる国王の姿を通りがかった数人の使用人達が目撃したが、皆見て見ぬ振りを決め込んだ。