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良い奴

士官学校1年目はとにかく基礎を叩き込まれ心身ともにヘロヘロな感じなので(辞める人も多々いる)、飛ばしました。いつか番外編とかで…



「……コルガー、ふざけているのか?」


「えぇ~?まさか!」


「冗談も大概にしてくれ…」



今期一番の溜め息を吐き出す。


やれば出来る男、それがコルガーなのだ。

しかし、ここ最近は鍛錬に明け暮れて爆睡していた姿を見ていたから、こうなるだろうと思っていなかった訳ではない。けれども、


「幾ら何でも酷すぎる…」


「いやあ…ね?」



壁一面に貼り出された成績順位表から、空笑いをするコルガーに視線を移す。



「今回は補習に付き合えないからな」


「えー!なんで!」


「成績上位の者は剣術大会運営の手伝いを仰せ付かっているからだ」



箱を抱えながらやって来たディートが答える。


そうなのだ。しかも、どういう訳か四位までの者。何かあるとしか思えない。ああ…苛々する…



「ルフェ、早速御呼びだ。行くぞ」



再び深々と溜め息を吐き、コルガーの肩を思い切り叩く。



「ッてぇ!」


「絶対に、再試験落とすなよ。ああ、ジル!少し頼まれてくれるか?」


「お~?なんだルフェ」



少し離れた所で順位表を仲間達と見ていたジルに声を掛ける。コルガーの腕を引っ張る。



「此奴も見てやってくれないか?」


「は?」


「ははっ、彼が同意するなら構わないが」


「ああ、同意させる。コルガー、睨むなこっちを見ろ。いいか、ジルは五位だ。それに教えるのが上手い。絶対に面倒見てもらえ」


「くっ…!ルフェに何か教えた覚えはないけどな?」



くつくつと笑うジル。


まあ、確かにそうなのだけれど。

でも、そうだと断言できる。同期生の平民出身者達の纏め役と周りに認められているジルは昨年度、成績下位だった仲間を中位に押し上げていた。



「…ルフェ、時間がない」


「ああ。済まないジル、この礼は必ず。コルガー、ジルは良い奴だ。世話になれ、いいな?」


「ったく…ハイハイお世話になりまーす!」


「おう、頼まれた頼まれた!よろしくなコルガー。実はずっと話してみたかったんだ」



会話をし始めたコルガーとジルを目視し、足早なディートの元へ小走りで向かう。



「…ジル、といったか」


「え?ああ、ジルだ。本科から同期になった奴だ」



同じ平民出身という建前だから気になるのだろうか。



「それは知っている。ルフェは今まで関わりなかっただろう」


「そうだが…ディートはあったのか?」


「無い」



…何なんだ。機嫌が悪い?いつもの真顔が更に極まっている。ああ苛々が増す。



「何だ、警戒しているのか?ジルは今のところ問題ない。先々週の食堂での件で感動したと声を掛けられてからの仲だから断言できないが、おい、聞いてるのか?」


全く表情を変えずに前を見据えるディートの腕を掴む。足が止まる。


「…聞いている」


「それが聞いている態度か?何か思うところがあるなら言え」


「……ルフェ」


ディートが顔を顰める。


「……済まない。…八つ当たりだ」


「は?八つ当たり?」


「…何だか分からないが…苛立っている」



…何だそれは。

再三、長い息を吐き出す。何だか、可笑しな気分になってきた。というか、


「はっ…!ディート、私もだ…っ!」


「…ルフェ?」


「今日はっ、訳もなく朝から苛々している…っ!」



ああ…笑いが止まらない。

ディートから手を離して自分の腹を押さえる。



「くくっ…!はあ…っ、ディート、」



一呼吸置き、笑顔のままディートを見上げる。ディートが硬直する。



「苛立っている時は、深呼吸を勧める。が、今気付いた。意味もなく笑うのも良いかもしれない」


おそらく、笑うと腹式呼吸になるからだろうと言えば、次はディートが吹き出した。



「ッ…!!…そうかっ……はっ!……実に的確な説明だな…っ!」



ああ…愉快、だな。

ディートと、何でもないことで笑い合う日が来るとは。ディートと出会った一年前の自分に聞かせたら怪訝するに違いない。



常に真顔で、他者を寄せ付けない一匹狼で、入学以来成績一位を取り続け、学校一と世評される美形で、何よりべらぼうに強い…其れがディートだ。


あの日。人生で初めて、頭が真っ白になる程の惨敗を喫した日。

未だ嘗て経験のない狂いそうな悔しさで、頭が如何にかなりそうな状態のまま練習試合後、負けた相手…ディートに手合わせを申し込んだ。断られるという可能性を露程も考えずにいた。全く以て…冷静さを失っていたのである。


……思い出して赤面しそうになる。

今更ながら、ディートは何故受けてくれたのだろうかと思う。その後もコルガーを巻き込み何度も申し込みに行き、その都度打ち合ってくれたのだ。真顔ではあったけれど…


そう、ディートは良い奴なのだ。



「…ディート」


「なんだ?」


「ありがとう」


「…何の話だ?」



何でもないと、笑顔で濁す。そうかと、真顔で返される。


きっとジルとも、打ち解けるだろう。そんな予感を抱き、頬が緩んだ。



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