本来の姿は
主人公のビジュアルやっと判明…(そうでもないかもしれません汗)
自分はそこまで感傷に浸るような性分ではないと思っていたけれど…これは、落ち込んでいるという状態なのだろう。
そして、次々と懐かしい記憶が思い出されるのは、出立するまでに様々な人達と別れの挨拶を交わしたからだろう。
「…コルガー」
「んー?」
「…奥様に、言われた。私は…母親似らしい」
「……そうか」
過ぎゆく故郷の景色に目を向けながらぽつぽつと溢せば、隣に座るコルガーも小さく呟く。
『ルジ、ますます似てきたわ』
奥様が手の平でルジの顔を包み込み、目を細める。
『……母に、ですか?』
『ええ、目元がそっくりよ。瞳の色も、瞼もすべてね』
……初めて、聞いた。引き取られてから一度も、領主様と奥様は私の両親の話をなさらなかった。恐らく、私が聞くことを拒絶していたからだろう。
今なら…聞きたいと思う。いや…今しか、聞けないかもしれない。
『奥様、その…母は、奥様から見てどのような人でしたか?』
僅かに目を丸くし、穏やかな表情に戻る。
『ふふ、そうねぇ…性格も、ルジと似てるわ。本音を言わないし、冷静沈着なのだけれど…実はとっても”あつい”人で』
『…熱い、ですか?』
『ええ、情に厚く義理堅くて、負けず嫌いで!』
…私もそんな風に、思われていたのだろうか。
楽しそうに話される奥様を見て、何ともこそばゆい気持ちになる。
『…ルジ。気を付けて行ってくるのよ?必ず、手紙を書くように。分かった?』
『はい、…義母上。行って参ります』
もう少し、話をしておけばよかったと今更ながら思った。十代に入り、めっきりと会話が減ってしまったことを悔やむとは…
それでも、母似であると知ることができ少し、いや…思った以上に嬉しかった。
ずっと、自分の目元が嫌いだった。左右対称でない瞼に、明るさによって変化する不気味な色の瞳が、特に子どもの頃は嫌で仕方なかった。
髪色は、どうなのだろう?父似なのだろうか。辺境国では滅多に見ない黒髪は…ああ、両親のことを考えるのは久々だ。
「……いつかは、あの城を出ると思ってはいたけれど、まさかこんな形になるとはね…」
ルジは、見えなくなった城が在るであろう方向を見つめる。
「……ルゥは、城を出た後どうするつもりだった?」
「何も…考えてなかったよ」
いや…それは違う。振り返ることも、先を考えることも、何もしたくなかったのだ。
「…コルガーは?」
「…俺は……」
珍しく言葉に詰まるコルガーに、視線を移す。
「ルゥには絶テェ言わん!」
「……」
笑顔を貼り付けたコルガーを冷ややかな目で見遣る。
まあ…本心を見せない質なのは、私もコルガーも同じだ。
「…士官学校に行くことになって、遠回りにはなっていない?」
「それはない」
即答か。それならいい。もし、後悔しているのであれば私の責任だった。
あの日私がコルガーを叩き起こして朝練に連れ出さなければ、騎士団長様と出会うことはなかった筈だ。
「コルガー」
「ンだよ」
「コルガーも受かってくれて嬉しいよ。試験まで二月しかなかったのに、よくやったな」
「ハッ、俺はやれば出来ンだよ!」
まあ、確かにそうだった。出来るのにやらないのは、私には理解できないけれど。
結局…何に於いてもコルガーには敵う気がしない。三つも年下であり、私は養女になって直ぐ勉学も剣術も始めていたというのに。
「んなことより、執事長殿の正体が分かったことのほーが喜ばしいわ」
「まあ、うん…喜ばしいというか…」
正直、未だに信じられない。
昔から非常に厳しい人だったけれど、まさか同盟国軍の退役騎士だったとは…しかし、直接聞いた訳ではない。でも、恐らくそうだろう。
合格発表後、同盟国軍式の訓練をみっちり教わったので間違いないと思う。
「あの訓練を三年か~」
「…楽しそうに言うね」
「ったり前だろ!早くやりてぇ」
コルガーは本当に凄いな。
でも、士官学校の訓練と同盟国軍のそれは違うと思うけれど…足りないだとか言っている未来が見える。
ああ、それはそれで……楽しい未来かもしれない。
足が地に着かない様のコルガーと自分に、溜め息と共に笑みも溢れた。