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第百十八話 まだ食べてる途中でしょうが!



「ハッ?! こ、ここは!!?」



 カルザイが目を覚ましたのは、それから数時間が過ぎた頃だった。新たに建て直した小屋の中央で顔を覗き込んでいたニーナに驚き、カルザイは激しく後頭部を打ち付けた。



「お、俺は囚われたのか。き、貴様ら、卑怯な手を使いおって!」


「卑怯もなにも、ここにはアナタを縛るロープも魔法もありません。帰りたければ勝手に帰れと、ファブリック様も仰られていましたし」



「なんだと?!」とカルザイが叫んだ。しかしニーナの言葉通り、どうにも自由すぎる自分の状況が信じられず、カルザイは慌てふためき周囲を見回すことしかできない。



「それではファブリック様からの言伝(ことづて)をお伝えします。《 何度も言うが、俺は貴様らと戦う気はない。キングエルも俺とは無関係だし、なんなら興味もない。もう俺をほっといてくれ 》だそうです」


「ほ、ほうっておけだと、そんなものを真に受けろというのか、我々に?!」


「ですがそれがファブリック様の願い、ですので」



 要件だけ伝えると、ニーナは部屋の対角に移動し、ちょこんと正座した。何をするでもなくただ待機する様子に面食らい、カルザイが声を荒げた。



「どういうつもりか知らんが、俺たちは諦めんぞ。はぁはぁ、最後の最後まで抵抗してやる。我らブリストの戦士を舐めると痛い目をみるからな!」


「舐めません。汚いですし」



 素っ気なくニーナが言った直後、ドゴンと勢いよく小屋の扉が開いた。野生ブータのお肉をとってきたぞーと叫んだナギに続き、レックスとファブリックが小屋に戻ってきた。


 即座に警戒したカルザイは、部屋の隅まで後退り、自身を無視して会話する一行を遠目に見ていた。



「お肉♪ お肉♪ 美味しいお肉♪ ほらほらファブ、下味つけて準備準備!」


「なんで俺が。今日はテメェの当番だろ」


「いいから手伝うの! 夫婦っていうのはね、こんな何気ない共同作業をああだこうだ分担しながらこなすものなんです。つべこべ言わないの!」


「なにが夫婦だ。天下の大罪人の分際で俺に命令するなバカ!」


「バカとはなによ、ファブのがもっとバカなんだからね!」


「うるさいINT(知力)38!」


「ムギギギ、またそうやってバカにして。気にしてるんだからね、バカファブ!」



 緊張感なく子供のような喧嘩を始める変な男と女、そしてそれを無視する獣人と、得体のしれない動物が二匹。そしてよく見れば、カルザイに伝言した女はグラベルの少女服の暗殺者(ロリータアサシン)。いわゆる全員集合である。


 パンチ一撃で意識を失った力量差に加え、世界的殺し屋までいたのでは多勢に無勢。カルザイは逃げるどころか動くことすら叶わず、ただ壁際で小刻みに震えるしかなかった。



「……で、ニーナ。なんでまだそいつはここにいるんだ?」



 唐突にファブリックが話を振った。ニーナは言伝は伝えましたとだけ言い、それ以上何も言わなかった。



「なぁおっさん、前にも言ったが俺は国に喧嘩売る気もないし、キングエルやグラベルとも無関係だ。さっさと帰って上の奴らにそう伝えろ」


「そのようなまやかしが通用するものか。なにより、そこにいるのはグラベルの少女服の暗殺者(ロリータアサシン)だろうが。それだけでも貴様が奴らと繋がっているのは明白だ。誤魔化しようがない!」


少女服の暗殺者(ロリータアサシン)? なんだそれ、糞ダセェな(プップスー)」



 プププとファブリックが頬を膨らませた。顔を赤らめて下を向いたニーナは、無言のままカルザイの首元にナイフを突きつけ、「それ以上余計なことを喋ったら殺しますよ」と充血した眼をして言った。



「こ、殺すなら殺せばいい。だが俺を()っても、まだこの国には戦士がいる。簡単に落とせると思うな!」



 怯えるカルザイからニーナを離したファブリックは、催眠術でもかけるように『俺は戦わない』『俺は戦わない』と男の目の前で紐を揺らしながら繰り返した。


 そうしている間にも、料理ができたとナギが呼んだ。仕方ないからお前も食えと半ば強引にカルザイを座らせたファブリックは、自分も隣に座り、形の悪い肉料理の前で手を合わせ、すぐさま口へ放り込んだ。



「……うむ、イマイチ! やはりナギの料理はとてもイマイチ!」


「作ってもらっといてイマイチってなによ。こんなに美味しいのに!」


「焼いてククプ草のソースぶっかけただけじゃねぇか。もう少し母上に料理の手ほどきを受けてから偉そうに語るんだな、この不器用女め!」


「ムッカー、ああ言えばこう言うんだから。次のファブの当番の時は覚えてなさいよ!」



 鬼のようにガツガツと料理を頬張る珍獣二匹を足元に眺めながら、カルザイは自分の状況がわからなくなった。なぜ俺は、俺を幽閉する奴らに料理を振る舞われているのだろうと目を丸くするしかない。



「食わんなら俺がもらうぞ、ホレ」



 ファブリックが勝手にカルザイの皿から肉を拝借し口に放り込んだ。お行儀が悪いとナギに手を叩かれ、また言い争いが始まったが、どうやら食事に毒をもられている様子もない。


 ジッとカルザイを見つめていたナギが「ほら、食べてみて」と笑った。キョロキョロと視線を動かしながら、カルザイは仕方なく肉を一切れ口に含んだ。よく言えば薄味で、素材の良さだけが残る素朴な料理に、カルザイの頭はまた困惑した。



「美味しい?」


「あ、…………いや」


「ほれみろー、やっぱイマイチじゃねぇか! 貴様はもっと料理の勉強をしろ。このINT(知力)38女め」


「うるさいな! CHA(魅力)80のくせに!」


「おいバカ、それを言っちゃお終いだ。バカナギ、今の発言を取り消せ!」


「イヤだよ~、ベロベロベロベロ!」


「……コロス!」



 また始まったとレックスがため息をついた。一足先に食事を終えて片付けを始めたニーナは、卑しく皿を舐める二匹の珍獣から強引に皿を取り上げ回収した。



『(二匹)マグマグマグマググマママグマ(まだ食べてる途中でしょうが)!』


「うるさいですね。……殺しますよ(ゴゴゴゴ)」



 ヘラヘラと揉み手で誤魔化した珍獣二匹は、自分たちの皿を諦め、今度はカルザイを挟むようにパタパタと飛び上がり、卑しく食べ物を見下ろした。カルザイが「食いたいのか?」と聞くと、返事も聞かず二匹は四秒で全てを平らげ、ゲップをした。



「(なんなんだこいつら。緊張感どころか俺を警戒すらしていない。どういうつもりなんだ?!)」



 不思議かとレックスが目配せしカルザイに聞いた。図星を突かれ、カルザイは視線を下げた。



「何度も言うが、我々はブリストに危害を加える気はさらさらない。何より世間に出回っている我々の噂は全てデタラメだ。ブリスト側がどう考えているかは知らないが、あまり世間の情報に踊らされない方がいい」


「……我らが踊らされていると?」


「自分の目で見たものを信じるべきだと言っているだけさ。イメージなんてものにとらわれていると、真実は見えてこない。なんならコレを見てみるといい」



 レックスが小さな冊子をカルザイに手渡した。中を覗けば、そこにはレックスやニーナがこれまでに見たスウォードの全てが書き込まれていた。



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