第29話
28話と同時更新です。
「ほら、由姫もう観念してよ。早く中に入ろうよ。」
叫んだ通り、美夜子は夕方に家まで迎えに来た。
嫌ではあるが顔だけ出してさっさと帰ろうととりあえず家を出てきたのだが失恋中の私にとって打ち上げなんて興味がなかった。
むしろ、家でもう一度思いっきり泣いてしまいたかった。でも、中に入らないと離してもらえないからそれも出来ない・・・
「わかったわよ。」
一生懸命私を中に入れようと頑張る美夜子。なんでこんなに一生懸命なのだろうか・・・と、しぶしぶお店の中へ・・・
「美夜子、どこがクラスの有志だけの打ち上げ??」
目の前に広がる、人・人・人・・・どう見ても一般のお客さまではなかった。どうやらこのお店を貸しきっている様子でどこを見ても知っている人や見たことのある顔ばかり・・・確実に、クラスの人たちだけではない。
「すごいよね。幹事の知り合いのお店なんだって卒業式の打ち上げする場所探しているって言ったら貸切にしてくれたんだって。」
それで この有様・・・卒業式後は泣きじゃくっていた女子・・・しかし、今はとても楽しそうにこの場を楽しんでいる。
「あっ、由姫ぃ美夜子ぉすっごい人だね。聞いたぁ??3年の先生たちも来るって」
先に来ていた、クラスメートがウキウキしながら言った。
「織田先生も来てくれるんだって☆」
隣にいた子が言った。女子たちの浮つきの原因はコレだろう。しかし私は、信一さんの名前を聞くなり踵を返した。
「ちょっと、由姫。何、帰ろうとしてるのよ。帰っちゃ駄目よ。」
私の行動を読んでいた美夜子が即座に腕を掴んだ。
「無理よ。どんな顔で会えばいいのよ!絶対に無理!!」
学校でのことを思い出し顔を赤くした。
「美夜子、お願いだから本当に離して」
今すぐにでもここから離れたいのに美夜子は腕から離れない。それどころかかなり真剣に引き止めようとしている。
「はーい、皆さんちゅーもく。楽しんでますか!?先生方のご到着でーす。」
キィーンとマイクの音が店内に響き渡り、幹事さんの声が後に続いた。本当に早く帰りたいのに美夜子が腕を離してくれない・・・
「まずは我らがクラスの担任と副担任!」
幹事の隣には二人の先生が立っている。幹事は同じクラスの男子なので、もちろん一人は信一さん。
「ここで、先生から一言っ!!といいたいところですが、先に織田先生から報告があるとのこで先にお願いしちゃいます。」
かたくなにまだ帰ろうとする私
「由姫、お願いだからもう少しだけ・・・まだ、帰らないで。」
美夜子の弱々しい言葉いつもの様子と違う美夜子。いつもはこんなことしないのに・・・
「ちょっと、美夜子どうしたのよ。お願いだから離して。」
もう一度振り切ろうと私は帰ろうと試みた。美夜子は仕方がないと小さなため息をつき言った。
「先生に頼まれたのっ!!由姫をここにつれてきてほしいって。」
思いがけない美夜子からの言葉に私は固まった。えっ・・・??信一さんに・・?
「朝、先生に呼ばれたでしょ?その時にここにつれてきてほしいって・・・」
美夜子の言っている意味を理解しようと必死に頭を働かせた。幹事の方を見ると、信一さんにマイクが渡っているのが見えた。美夜子の言葉に、呆然としたまま立ちすくんでしまった私。
「みなさん、卒業おめでとう!!実は、私事ではありますがこの場を借りて報告したいことがあります。」
私は、信一さんを見つめていた。そして、目が合った・・・・・気がした・・・信一さんは、優しく微笑み口を開いた。
「実は私には、結婚を約束した人がいます。」
信一さんのいきなりの告白に大概の女子生徒は叫んだ・・・
「と、言っても親の決めた結婚なんですけどね。」
この言葉で会場がガヤガヤしてきた。
「でも、私は相手に自分の気持ちを伝えることが出来ず9月に婚約を解消しました。彼女が望むならとも思っていたのですがまわりの人たちが どうも納得してくれなくて・・・」
あははは・・・と乾いた笑いをする信一さん。・・私のこと??
「今回、彼女の友人にお願いしこの会場に来てもらいました。私・・・いや、俺の気持ちをちゃんと伝えた上できちんと結婚を申し込みたいから・・・」
はっきりとそう言い、信一さんは呆気に取られている私のほうをじっと見た。
「2年前、俺たちは初めて出会った。今は偶然にも生徒と先生という立場になってしまった・・・それも今日で終わりだ。由姫、俺と結婚してくれ。」
会場がわぁーと盛り上がった。担任の先生はさすがにびっくりしたらしく開いた口が塞がらないようだ。
「ほら、由姫。先生のところへ行きなよ。」
自分のことかのように嬉しそうにしている美夜子に背中を押され、信一さんとの距離を縮めた。
信一さんも一歩ずつ私との距離を縮めた。
「な・・・なにを考えているんですか!?それに・・記憶・・・・」
私はそこまでしか言えなかった。言いたいことはたくさんあるハズなのに、涙が邪魔をする。
「そんなことよりヒメ、返事がほしい。本当はあの日に言うハズだったんだ。」
あの日とはきっと事故にあった日だ。信一さんから差し出した手には、あの日海さんが持っていた小さな箱があった。私は、自ずとその箱を受け取りコクンッとうなずいた。そんな私を見た信一さんは満足そうに微笑み、私を抱きしめた。私も、自然と信一さんを確かめるように抱き返していた。
「ありがとう。」
抱き締めていた腕を離し、溢れ出る涙をそっと手で拭ってくれた。そして持っていたマイクの電源を、入れ口を開いた
「と、言うことで私と斉藤由姫はぬけさせていただきます。」
そういいマイクをその辺の生徒に渡し私の手を取り引っ張っていった。




