第24話
「あっ、斎藤さん。」
いつもの日課のように図書館にやってきた途端のことだった。
私の姿を見つけてこともあろうか館内で走り寄って来た。
「・・・何か御用でしょうか、駒井先生?」
最悪・・・なんで一人になりたいときに会っちゃうんだろう。
というか、確実に待ち伏せしてた感じよね。
「この前の件、考えてくれた?今日までに提出なのよ。」
あからさまに困ったような大きなため息を吐く先生・・・
この人何を言っているの?
「ほら、やっぱり婚約者の顔はたてたいじゃない?」
困ったように首を傾げ、にっこり微笑む先生
・・・聞きたくないそんな話。
「誰が、婚約者だって?」
駒井先生の言葉にショックを受けているといきなり男の声が聞こえた。
「あっ、織田先生。知らないんですか?生徒達の噂話。私たち、もう長いこと付き合っていて結婚間近なんですって。とってもお似合いっていわれてるんですよ?ねぇ、斉藤さんもそう思うでしょ?」
嬉しそうに言う駒井先生を尻目に私の目の前に立ちはだかる信一さん。
「そんな事実は過去にも未来にも全くない。斎藤、悪いが席を外してくれるか?」
私の肩にポンッと手を置き、私は小さく頷きその場を離れようと踵を返した。
「駒井、お前なんためにここに来た?授業の予習はおろか、レポートすら出さずにしまいには生徒にバカなことを聞く始末。いくら後輩でも、俺はそのままを報告するからそのつもりでいるように。」
私がその場を離れることを確認することなく信一さんは駒井先生をまくし立てていた。
しかし、私の頭にはそんなことよりも信一さんがはっきりと駒井先生と関係ないと言ってくれたことが嬉しかった。
そのことを知ったところで現状がかわるわけじゃないことぐらい知っていたが・・・
「斎藤、放課後授業のノートを集めて社会科室まで持ってくれ。」
授業が終わるなり信一さんがそう言った。
日直でもない私がなにもなく名指しで言われるなんてことはなくて、きっと昼休
みのことだろうとノートを集めだした。
「昼は悪かったな。この前、お前がはっきり言ってたから大丈夫だと思っていたのだが・・・」
社会科室に入るなり、私の為に用意してあったお茶を手渡した。
・・・この前って
「近くにいらしたんですか?」
なら、止めに入ってくれてもいいのに・・・と言う視線を信一さんに投げ掛けた。
「止めに入ろうと思ったらお前がはっきり言ったんだよ。」
苦笑いをしながら、私からノートを受け取った。
「ヒメ・・・」
私の足が 止まった。
今なんていった??
「由姫のキは ヒメって字なんだな。」
授業ノートの一番上にある私のノートを見て言う。
「まるで 濃姫みたいだな。」
気が付くと 涙が頬をつたっていた。
「おいっ・・・斉藤どうした!!」
私は溢れ出てきた涙を手で拭い去り
「なんでもないです。」
すぐにそこから立ち去ろうとした。
しかし、信一さんが手を思いっきり引っ張り出来なかった。
「ごめんなさい。・・・こんなにもあなたは普通なのに・・・あなたの中に私はいないのよね・・・?」
私の言葉に固まる信一さん
「もう限界・・・サヨナラ」
最後の言葉は小さくて聞こえなかったのかもしれない。
でも、それはそれでかまわない。
信一さんが混乱するだけだから・・・
身をもって知るとはこのようなことなんだ・・・
何もかも覚えていない信一さん
そんな信一さんを見るのは限界だった。
それからというもの私は結局何もできずに過ごしていった。
もうすぐ、信一さんと出合って2年になる・・・




