第17話
「えっ・・・記憶がない・・・?」
命をとりとめた信一さんは目を覚ました。
丸1日寝た後何事もなかったように・・・
しかし、安堵するのもつかの間だった。
「正確には、記憶の一部ですね。生活するには多少は困るでしょうが、ほとんど言っていい程支障はないでしょう。ただ・・・」
医師が私を見てすぐに目を逸らした。
えっ?
と、一瞬不安が襲う。
「婚約者さんとのことを覚えてないようです。ご両親や友人のことはわかっておりました。・・・失礼ですが婚約者さんはなんらかの生徒さんで?」
私は医師の言葉に目の前が真っ白になった・・・
「えーぇ。彼女は信一にとって生徒でもありますが??覚えていないって?」
よろけそうな私をしっかり支えてくれるお母さま
「そうですか・・・生徒さんということはぼんやりとですが、わかっているようですね。ただ、なぜここにいるのかがわからない様子でした。」
同情するような視線で医師は私を見てすぐにお母さまへと視線を移した。
「中に入られますか?」
医師は一度頷き、お母さまや菜々子さんと一緒に私が病室に入ろうとするとゆっくりと私の元へやってきた医師
「婚約者さんには申し訳ないが本日は会わないでもらえますか?」
医師からの唐突な言葉・・・しかし、そんな予感はしていた。
信一さんは、目を覚ましたばかりでしかも、私との記憶がない。
私と会ってしまうと絶対に混乱してしまう。
私はなにも言わず病院を後にした。
普段神様なんて信じていないくせにこんなときばかりあてにしてしまう。
信一さんの記憶を・・・私との思い出を返してください。
これは罰なのだろうか
素直にならなかった私への・・・・神様からの・・・
「えーっと、3年の斉藤だったかな?」
翌日、学校帰りに病院へと寄った。
病室に入ると信一さんは少し驚いてそういった。
「信一、由姫ちゃんはあなたの・・」
ベットの脇に座っていたお母さまが口を挟んだ。
しかし私はお母さまの言葉を遮るように口を開いた。
「はい。副任なんですから、覚えててくださいね。今日は、クラスの代表してお見舞いに来ました。でも、疲れちゃいけないでしょうからもう帰りますね。」
私は信一さんにニッコリと微笑みお母さまにクラス中のカンパで買った花束を渡し、出ていった。
やっぱり1日そこらじゃ無理よね・・・
信一さんから『ヒメ』と呼ばれることのを少しでも期待していた自分が恨めしかった。
現実は名前すらきちんと覚えられていないの・・・
「由姫ちゃんっ!!」
病院から早々と帰ろうとロビー付近で後ろから名前を呼ばれた。
「お母さま・・・」
振り返るとお母さまが心配そうな顔でやってきた。
「言わなくていいの?」
お母さまはそれだけを言った。
なんのこと?どう聞かなくても、何のことかはすぐにわかった。
「はい。きっと言っても、混乱するだけ・・・それにお見合い相手としてじゃなく一人の女として見てもらいたいから・・・もう一度、初めからやり直したいんです。」
お母さまに、一礼し走って信一さんのマンションに向かった。
私の荷物を全部運び出し信一さんに元の生活に戻ってもらう為に・・・




