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次期伯爵の情報収集

初めてルナリエラとあってからしばらく経った。

あれからクリストファーとルナリエラは伯爵に許可をとり、時折学内で意見交換をしている。もちろん未婚で婚約者がいるルナリエラに配慮しているし、彼女も2人きりにならないように侍女を連れている。




今日はこれからルナリエラと会う予定になっている。すると、コンラッドとシリルがやってきて、クリストファーの寮部屋で話をすることになった。



「俺らの調べてきたことの報告だ。」


「ありがとう。ずいぶんかかったね。」


「さすがに自国ならともかく、帝国内だと情報網がまだ狭くて。待たせて悪かったね。」


シリルが首を竦めた。



コンラッドが話し出す。



「このあと会う予定があるっていうから、手短に。

ルナリエラ嬢の婚約者はディーレード侯爵家の長男、フリードリヒだ。

侯爵家は王都の南方に領地を持っている。結婚したら侯爵家の持つ爵位を一つ譲られて、いずれ侯爵を継ぐそうだ。金には困らないな。ただ、フリードリヒ本人が婚約者のルナリエラ嬢がいるにもかかわらず、他の女を連れて夜会に出ているらしい。」




「婚約者としての義務は全く果たしていないらしいよ。最近はエスコートどころかダンスすら踊らないと。才能あふれる彼女が気に食わないらしい。結婚してもあっという間に妾を連れ込むタイプだなぁ。

ただ、侯爵と伯爵が結んだ正式なものであるから、今からフリードリヒが爵位を継ぐでもない限り、フリードリヒもルナリエラ嬢も覆すのは難しいみたい。結婚したら退学して、学問の道は諦めることになっているそうだよ。」


濃い金色の髪をかきあげながらシリルが言った。




「こんな女と結婚しなければならない俺は不幸だとあちこちで言っていると。」




「ふぅん。」


(だからあんなにも萎縮しているのか。いらないなら彼女をさらっていっても文句ないよね)


「クリス、悪いこと考えてるだろ」


「まぁね。」


コンラッドに指摘され素直に肯定した。


「クリスの一目惚れだもんねぇ。」


頬杖をついたシリルがのんびりと言った。


「あんな才媛をここで潰すなんてそんなこと許されないじゃないか。でも、婚約者がいる状態でアタックしても、彼女はきっと僕をみてくれないだろうなぁ。」



「彼女の才能が欲しいのか?」


「いや、才能は彼女の一部だ。僕は彼女の全てが欲しい。」


そう。あの瞳に囚われたのだ。初めて目があった瞬間に、欲しいと思ってしまった。すぐにでも抱きしめたいと思った。きっとこれを一目惚れというのだろう。


話をしてみて、さらにルナリエラに恋をした。そこらの女性とは違う、自分の芯をきちんと持ち、意見を持っている。中身のない話はしない。話し方の端々にその教養がにじみ出ていた。

クリストファーはクリストファーと並び立てるだけのものをもった彼女がいいのだ。



「じゃあ、国に連れて帰る?」



シリルが意地悪げにきいてくる。



「もちろん。でも、正式に婚約してるから、ちょっと厄介だなぁ」



「それならさぁ、逆にあの婚約者なら簡単だと思うよ…」


そうして、クリストファーとシリルはしばらく今後についての話し合いをした。それを呆れたようにコンラッドが見ているのはいつものことだ。この2人の悪巧みに首は突っ込まないほうがいいことを嫌というほど学んでいる。






















「お待たせしました、ルナリエラ嬢」


ルナリエラが黒く真っ直ぐな髪をさらりと揺らし立ち上がる。



「いえ、私も先ほどきたところです。」



ルナリエラは初めて会った時のようにクリストファーを見て挨拶をした。


クリストファーの努力によって、前よりも顔を上げてくれるようになった。さらにたまにだが笑顔までみせてくれる。クリストファーを虜にしたあの紫色の瞳が真っ直ぐに彼を射抜く。



「ルナリエラ嬢、よかったら今日は少し散歩しませんか?東の庭なら人もほとんど来ませんし。」


「ええ。喜んで。」



ルナリエラをエスコートし、クリストファーは歩き出す。少し離れたところからルナリエラの侍女が見守っているが、話している内容までは聞こえない位置にいる。この数ヶ月でだいぶ信用されているらしい。もちろん、クリストファーが持てる限りの愛想と紳士的態度を駆使したからだ。



2人は庭を散策しながら様々な話をした。自分の故郷のこと、今取り組んでいる研究のこと、これからやりたいこと…





サワサワと木々の葉を揺らしながら風が渡る。そろそろ葉が落ち、冬支度が始まる季節になった。


落ちてきた葉がルナリエラの髪についた。



「ルナリエラ嬢、葉が髪に」



そう言って黒く輝く髪に手を伸ばし、さりげなくさらりとした髪の感触を楽しんで葉を取った。


ルナリエラはキョトンとして、しばらくしてからぶわりと顔を赤くした。



どうしたらルナリエラに意識してもらえるか、天才と言われる頭をいろいろひねってはみたのだが、少ない人生経験の中からは何の有益な攻略法を捻り出せず、いつもは頼りになる友人たちのアドバイスは全く役に立たず、苦肉の策として、「ちょっとした接触」

と言うものになった。たまたま触れてしまった際の赤くなるルナリエラの顔があまりにも可愛かったのもある。あまりあからさまだとモンドール伯爵に報告がいくかもしれないので、偶然を装い、ごく短時間。

今は、ほんの少し、意識してくれればいい。

彼女にはまだ名目上の婚約者殿がいるのだから。




(早く連れて帰りたいなぁ。)



普段の会話から、彼女にとってこの国は息苦しいのだろうと伝わってきた。

ルナリエラ本人が直接言ってくるわけではないが、女性であると言うだけで制限されることがあまりにも多く、聡明な彼女にとってはもどかしいことが多いようだ。



それももう少し。



彼女を自分の片翼とすべく、やるべきことをやるだけだ。

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