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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第十九部

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 ルインから受信していた量産型機動兵器の詳細な仕様を確認していると、拡張現実のスクリーン越しにペパーミントがこちらに歩いてくるのが見えた。


 半透明の情報パネル越しに映る彼女の輪郭は、薄暗い照明の中でぼんやりと揺れている。どうやら目的の部品は無事に調達できたらしい。彼女の背後には、無数のコンテナボックスを積み上げたカーゴドローンが静かに追従していた。


 四脚で移動するドローンは、倉庫内での搬送や整備を前提に設計された機体なのだろう。重量物を積載していても重心を柔軟に調整できるよう多重関節になっている。積載スペースには規格化されたコンテナが何段にも固定されていたが、機体の動きは驚くほど滑らかだった。


 ペパーミントはいつもと違うハクの様子に気づくと、わずかに眉をひそめた。ハクは後ろ脚で腹部を掻きながら、落ち着かない様子で周囲を見回している。その視線の先に〈生体甲冑〉があることを確認すると、彼女は小さくうなずいた。理由を察したのだろう。


 あの兵器が発する気配は、人間よりも感覚の鋭い生き物にとって、よりハッキリと脅威に感じ取れるのかもしれない。


「目的の兵器は見つけられたみたいね」

 ペパーミントはスクリーンを一瞥し、表示されていたデータの一部を指先で拡大するが、つぎの瞬間には険しい表情を浮かべる。


「とても強力な兵器だけど……訓練なしで扱うには危険な代物ね。まずはシミュレーターでの訓練が必要だけど――」


『訓練装置なら、こちらに』

 ルインの声が内耳に響くと、足元の床面に拡張現実の矢印が表示された。


 淡い光のラインが通路を横切り、倉庫の一角へと続いている。どうやらすぐ近くに機動兵器の訓練装置があるようだ。ハクに声をかけたあと、眠るように佇む〈生体甲冑〉のそばを離れた。


 矢印が示す先にあったのは、球形の構造体だった。直径は三メートルほど。表面は継ぎ目のほとんどない滑らかな金属外殻で覆われ、鈍い銀色の光沢を帯びている。


 外殻の至る所から無数のケーブルが伸び、床や周囲の端末に接続されていた。太い電源ケーブルだけでなく、細い信号線や光ファイバーの束も混じっている。絡み合うそれらの線は球体全体を包み込むように広がり、遠目には巨大な繭のようにも見えた。


 内部には、搭乗者の身体動作を読み取り、機動兵器の操作系を模擬的に再現する装置が組み込まれていた。シートに固定された操縦者の神経信号や筋肉の微細な動きを検知し、それを仮想の機体へと変換する仕組みだ。


 近づいて観察すると、全天周囲モニターとして機能する壁の一部に、微細なスリットが並んでいることに気づく。そこにはセンサーや投影装置が組み込まれているのだろう。訓練時には内部の搭乗者を完全な閉鎖空間へ収容し、視覚や平衡感覚を人工的に再現する仕組みになっているはずだ。


 さらに機体が受ける衝撃や重力変化、視覚情報も同時に再現することで、実機に近い操縦感覚を生み出すのだろう。旧文明の操縦体系には神経接続を前提としたものも多い。この装置は、その接続を安全に模擬するための中間装置でもあるはずだった。


「これを持ち帰るのは大変そうね」

 ペパーミントは腰に手を当て、球体を見上げながら小さくため息を漏らした。


 確かに、この巨大な装置を運搬するのは容易ではない。重量も相当だろうし、接続されているケーブルも複雑に張り巡らされている。整備施設ごと切り離さなければ運べないように見えた。


 その言葉に反応したのか、ルインが空中をなぞるように指を動かした。すると訓練装置に絡みついていたケーブル束が次々と外れていく。端子は自動的に解放され、床へ落ちることもなく整然と巻き取られていった。内部のリール機構が作動しているのだろう。数十本はあったケーブルが、わずかな時間で外殻の内部へと収まっていく。


 続いて球体の下部がわずかに持ち上がった。外殻の一部が開き、内部に折り畳まれていた四本の脚がゆっくりと展開される。脚部は多関節構造で、先端には小さな接地パッドが取り付けられている。重量を分散させながら歩行できるよう設計されているらしい。


 球体はわずかに姿勢を揺らし、バランスを確かめるように四脚を床へ接地させた。訓練装置は――理由は分からないが、自ら移動する機能を備えているようだった。まるで別の装置に組み込まれることを前提としているようにさえ見えた。


 四脚でこちらに近づいてくる姿は、どこか奇妙な生物にも見える。その様子にハクは興奮して腹部を震わせ、ベシベシと地面を叩いたあと駆け寄っていく。


『これ、あたらしい、なかま?』

 ペパーミントは苦笑し、首を横に振る。

「違うわ。でも、遊び相手にはなるかもしれない」


 その意味をどこまで理解しているのかは分からない。けれどハクは嬉しそうに腹部を震わせ、訓練装置にそっと脚を伸ばした。球形の装置はわずかに姿勢を調整し、その接触を避けるでもなく、受け入れるでもなく、ただ静かに立ち止まっている。


『整備済みの訓練装置が八基ほど用意できています。空間転移装置で拠点に転送できるよう、現在準備を進めています』


 ルインの報告は淡々としていたが、思ってもみない成果だった。倉庫の管理システムが機能しているとはいえ、途方もない年月のあいだ放置されていた施設から、実働可能な訓練装置がこれだけ確保できるとは考えていなかった。


 彼に感謝したあと、量産型機動兵器についても同様の転送準備を依頼する。訓練用として数機確保する程度であれば、倉庫の自動管理システムにとっても難しい作業にはならないはずだ。


 ルインは即座に承認し、倉庫内の搬送ルートやカーゴドローンの割り当てを調整し始めた。拡張現実のスクリーンには、いくつもの工程が同時に処理されていく様子が表示されていた。


〈生体甲冑〉に関しては、焦りは禁物だった。あれは単なる兵器ではない。構造の一部が生体組織で構成され、未知のエネルギー循環を利用して自己維持を行う存在だ。旧文明の技術者たちがどれほど研究を重ねていたとしても、その全容を完全に理解していたとは思えない。


 性能試験を行うにしても、まずは安全性の確認と制御系の解析が必要になる。装甲構造、生体素材の反応、神経制御系の挙動などを慎重に調べなければならない。あの兵器を扱うには、時間と準備が不可欠だった。


 それから我々は、小火器など携行可能な兵器が保管されている区画に移動する。ハクは四脚の球体が歩く様子が、よほど気に入ったのか、訓練装置のそばを離れるのを惜しんでいた。けれど新しい探索場所があると分かると、すぐに興味の対象が変わり、軽い足取りでこちらに駆け寄ってくる。


 その背中では、ジュジュがハクの体毛を掴み、振り落とされないよう慎重に体勢を保っていた。急な動きに不満を漏らすように口吻(こうふん)を鳴らしていたが、それでもハクのそばを離れようとはしなかった。


 棚が並ぶ通路に足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わったような感覚がした。そこはまるで、戦争という概念そのものが凝縮された空間だった。


 通路の両側には高い収納棚が整然と並び、無数の格納ユニットが規格化された配置で収められていた。弾薬ケース、小型ミサイルの発射筒、交換用エネルギーパック、兵器用電源ユニット――それぞれが厳密な管理コードに従って配置され、棚の表面には半透明のホログラムタグが浮かんでいた。


 タグには整備履歴、製造番号、保管数、点検周期といった情報が細かく表示されている。倉庫の自動管理システムは今もそれらを監視し続けているらしく、どの装備も保管状態は驚くほど良好だった。


 収納ラックの一角には、小型追尾ミサイルの格納ユニットが並んでいる。細長い発射筒の内部には誘導装置付きの弾体が収められていて、発射後は自律誘導で目標に向かって飛ぶ設計になっている。外装には〈ナノスキン〉処理が施され、長期保存でも燃料や誘導装置が劣化しないよう工夫されていた。


 そのとなりには〈超小型核融合電池〉の密閉容器が整然と並んでいた。手のひらに収まるほどのサイズのカートリッジが、厚い保護容器の中で固定されている。理論上は数十年単位で安定した出力を維持できる電源だ。機械人形や高出力兵器のエネルギー源としては理想的だが、取り扱いを誤れば周囲の設備ごと破壊しかねない危険な代物でもあった。


 さらに奥へ進むと、個人携行用の火器が並ぶ区画に入った。レーザーライフル、実体弾式火器、電磁加速式ライフル――いずれも旧文明の軍用規格に基づいて製造された兵器だ。銃身は長期保存のための保護膜(ナノスキン)で覆われ、内部機構は完全に密封されている。


 近くには、兵器搭載型の小型ドローンも格納されていた。折り畳まれた銃身と軽量装甲を持つ機体で、偵察や近距離攻撃を行える設計になっている。機体表面の保護膜はほとんど劣化しておらず、整備ログも定期的に更新されていた。倉庫の管理AIが自動的にメンテナンスを続けているのだろう。


 棚に表示された数値を眺めていると、その備蓄量に圧倒されてしまう。弾薬、電源、火器、ドローン――どれも膨大な数が保存されている。部隊単位どころか、都市規模の戦闘を何度も継続できるほどの物量だ。倉庫の奥まで見渡しても、同じような棚が延々と続いている。


 それでも、ひとつ気になる点があった。宇宙軍が使用していた秘匿兵器――重力制御兵器や高指向性エネルギー兵装などの、未知の原理に基づく装備の類は見当たらない。棚に表示されるリストを確認しても、その種の装備は登録されていなかった。


 おそらく、この倉庫に保管されているのは宇宙軍の主力装備ではないのだろう。むしろ宇宙軍で不要になった旧式装備を、地球軍に譲渡するために集積されたものだ。宇宙規模の戦場では通用しなくなった兵器でも、地球上の防衛戦力としては充分すぎる性能を持っている。


 地球軍にとっては戦力強化になり、宇宙軍側にとっても装備の廃棄や解体にかかるコストを削減できる。大量の装備を眠らせたままにしておくより、防衛力として配備したほうがはるかに有効だ。いわゆる過剰防衛装備品供与というやつなのかもしれない。


 今後、我々が宇宙で遭遇する脅威を思えば、もっと強力な兵器が欲しいのは事実だ。異星生物や未知の文明の存在を考えればなおさらだ。それでも、ここにある装備があれば〈廃墟の街〉に点在する拠点を守ることができる。


 火器の数、弾薬の備蓄、エネルギー源の供給能力――これだけ揃っていれば、教団が抱え込む小規模な軍隊どころか、〈大樹の森〉で発生するかもしれない混沌の勢力による大規模な襲撃にも対応できるはずだった。


 拡張現実の端末を操作し、ペパーミントと相談しながら必要になりそうな装備を順に選び出していく。〈大樹の森〉に展開するテアの部隊も装備を必要としていたので、それらも考慮しつつ、過剰にならない範囲で選定を進めていった。

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― 新着の感想 ―
宇宙軍と地球軍では天と地ほどの装備の差があるんですね。 宇宙ではR-typeのように重力兵器やレールガン、核ミサイルで異星生物と殺りあっているのでしょうか。
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