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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第十八部 混迷都市

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 戦闘部隊を指揮するテンタシオンの的確な判断と戦術により、電力施設を占拠していた教団兵は瞬く間に制圧されていった。


 テンタシオンは施設内部の構造を立体的に解析し、制圧優先度を数値化して交戦経路を最適化する。教団兵が構築していた防衛線は側面と背後から同時に破砕され、分断された小隊は連携を失ったまま各個撃破されていった。


 高度な知能を備えたテンタシオンの攻撃は苛烈で、抵抗の有無にかかわらず、敵は冷酷無比に排除されていく。


 降伏の意思表示は一切考慮されない。武器を携行し、敵性反応が認められる限り、飽和射撃と正確無比な狙撃による徹底的な排除が行われた。施設壁面には弾痕が刻まれ、床には人工血液と潤滑油が混ざり合いながら広がっていく。


 教団のサイボーグ兵も、強化外骨格で強化された四肢で重量級火器を扱い、皮下装甲で攻撃に耐える。けれど、変異体との交戦で疲弊していたこともあり、戦闘用機械人形ラプトルの精密射撃と機動力には対抗できなかった。


 ラプトルは高低差を無視して接近し、装甲の継ぎ目や関節部を正確に撃ち抜く。火花とともに駆動系が破壊され、サイボーグ兵が崩れ落ちるたび、地下に続く通路は死骸で埋め尽くされていった。


 そうして戦場は、リアクターが稼働する地下へと移行した。厚い隔壁の向こうでは教団守備隊の残骸が散乱し、壁面パネルには鋭利な爪痕が幾筋も刻まれている。変異体の猛攻によって防衛線は内側から食い破られ、弾薬箱は踏み荒らされ、銃架は引き倒されていた。


 湿度は異様に高く、換気設備が停止した空間には腐敗と焦げた金属の臭いが滞留していた。


 地下には、蟻塚のように隆起した巨大な構造物がいくつも築かれていた。床面を押し上げ、配管やケーブルを絡め取るように形成されたそれは、生体組織と廃材が混在した変異体の棲み処だった。


 その巣穴からは、昆虫型変異体が絶え間なく這い出していた。複眼が鈍く光り、硬質な甲殻が擦れ合い、無数の脚が床を叩く振動が地面を震わせる。テンタシオンの指示で戦闘部隊は即座に戦術を変更し、徹甲弾から散弾、さらに焼夷弾へと武装を切り替えながら迎撃を開始した。


 戦闘は消耗戦へと移行していく。波のように押し寄せる群れは、先頭が倒れても後続が死骸を踏み越えて向かってくる。数機のラプトルは脚部を破壊され、姿勢制御を失いながらも至近距離射撃で周囲の変異体を薙ぎ払った。


 気色悪い体液が飛散し、床は滑りやすい泥濘と化す。ラプトルもまた機械的な正確さで敵を蹴り飛ばし、撃ち抜き、踏み潰していく。周囲には死体が積み上がり、床は黒い体液で濡れ、冷気の中で蒸気が立ち上った。


 ラプトルにも相応の被害が出たが、教団が放棄した個人携帯対戦車弾が回収され、再利用された。成形炸薬弾頭が蟻塚に撃ち込まれ、内部構造を抉るように破壊していく。爆発の衝撃で外殻が裂け、内側の有機質構造が露出したが、それでも奥から新たな個体が這い出してくる。巣穴表層の破壊だけでは、変異体の出現を止めるには不十分だった。


 そこで多数の小型徘徊型兵器が投入された。高性能爆薬を搭載した機体は巣の裂け目から内部へ侵入し、三次元マッピングを行いながら複雑なトンネル網を進む。生体組織と瓦礫が絡み合う狭い場所を通過し、孵化直前の幼体を回避しつつ、最深部へと到達した。


 やがて連鎖的な爆発が発生した。衝撃は地層を伝ってリアクター区画全体を揺さぶる。凄まじい衝撃によって蟻塚は崩落し、土砂と瓦礫が巣穴内部を埋め尽くした。行き場を失った変異体は圧し潰されるように生き埋めになり、潰れた甲殻と体液が泥のように流れ出す。巣穴は構造的に崩壊し、再構築には相当の時間を要する状態へと追い込まれた。


 施設の完全制圧が確認されると、戦闘部隊は警戒態勢を維持したまま後退し、施設内に残されていた多数のメンテナンス用機械人形が起動した。そして優先的に巣穴の埋め立て作業が開始され、旧文明期の建材を含むコンクリートが流し込まれ、亀裂やトンネルを埋め潰し、地表と地下を物理的に遮断していく。


 その後、輸送機で搬送された各種メンテナンスドローンがリアクターの修復に着手した。損傷した冷却系統の配管が交換され、制御盤は新規モジュールに差し替えられる。配電網も再調整され、不安定だった出力は徐々に規定値へと収束していった。


 施設制圧が完了したあとも、電力施設周辺には戦闘の余韻が色濃く残っていた。雨に濡れた地面には変異体と教団兵の死骸が折り重なり、死肉に誘われるように見慣れない変異体が姿を見せるようになっていた。


 しかし地下ではリアクターの再起動準備が進み、停止していた補助電源が順次復旧するにつれ、地中に埋もれていた街灯がともり、荒廃した空間にもわずかながら秩序が戻りつつあった。


 つぎに手をつけたのが、教団兵が残していった端末の回収だった。〈カイロン6〉の最終アクセス権を持っていた人物に関する手掛かりを得るためでもあった。


 しかし施設内に残されていた端末の多くは個人所有の情報端末で、教団の内部事情に関する情報はほとんど含まれていなかった。破損したメモリ、自己消去が行われた形跡、強固に暗号化された通信断片。復元されたのは巡回経路や弾薬補給の記録といった末端情報ばかりで、〈カイロン6〉に関する記述は皆無だった。


 あらゆる情報が制限され、教団に関する事実が徹底的に秘匿されていた構造が浮き彫りになった。〈レギオン〉は兵士たちを使い捨てることを前提に、証拠を一切残さない組織づくりをしていた可能性がある。


 その間にも、地下ではリアクターの復旧作業が続いていた。メンテナンスドローンは淡々と破損箇所を洗い出し、補修し、再接続していく。電力網の安定化には時間を要するが、機械人形たちは黙々と作業を進めていた。


 地上の施設外周では、新たな防壁の建設が始まった。輸送機が機体下部にワイヤーで吊り下げて搬送してきた建設人形〈スケーリーフット〉が、巨大な多関節アームで瓦礫を排除し、地盤を整地していく。


 既存の外壁は補強材で覆われ、監視塔には自律兵器が設置された。赤外線と動体センサーの網が張り巡らされ、地上、地下双方の侵入経路が監視されることになった。厳重な警備が敷かれたことにより、再びカルト集団に占拠される可能性は大幅に低下した。


 これまで廃墟同然の施設だったが、ラプトルの部隊が常駐することになり、巡回経路は周辺の森や瓦礫に埋もれたクレーターを含む区画が設定された。狙撃に適した高所は〈カモフラージュ・シート〉で覆われ、そこには機械人形が配置された。複数の監視ドローンが上空を旋回し、変異体の出現にも備える体制が整えられた。


 しかし地上部分の建物修復は最低限にとどめられた。過度な再建は他勢力の関心を招くためだ。あくまで地下リアクターを中心とした機能回復が優先され、外観は半ば廃墟のまま維持された。


 一方で、〈ジャンクタウン〉の動向も無視できなかった。教団に占拠されていたこともあり、内部で何が起きているのかを確認する必要があった。


 イーサンの協力を得て、顔の知られていない数名の隊員が偽造IDを携え、行商人や技術者を装って潜入することになった。彼らは瓦礫が散乱する通りを歩き、酒場や市場で断片的な噂や情報を拾い集め、権力構造の変化を慎重に確認した。


 数日後に彼らが持ち帰った情報は、予想外のものだった。〈ジャンクタウン〉では教団関係者が追放、あるいは公開処刑されていた。教団に立場を追われていた各組合の幹部たちが周辺の鳥籠と連携し、武装蜂起に踏み切ったという。


〈レギオン〉への個人的な報復で教団が消耗した隙を突き、一斉に補給路を断ち、鳥籠内の拠点を包囲した。その結果、〈ジャンクタウン〉は短期間で教団の支配から解放されることになった。


 これは我々にとっても好都合だった。横浜の街から教団の勢力が失われ、その監視と対処に割く戦力は大幅に軽減される。すでに電力施設の復旧にリソースを集中させている状況で、新たな正面衝突を回避できた意味は大きい。


 とはいえ、空白になった権力の座を巡って商人組合が台頭し、内部抗争が始まる可能性は高く、〈ジャンクタウン〉は依然として不安定な火種を抱えていた。


 こうして、電力施設の制圧と〈ジャンクタウン〉の解放により、横浜の勢力図は大きく塗り替えられた。電力という基盤を掌握した我々は、否応なく都市再編の中心に位置することになる。


 電力網の復旧に伴い、荒廃し廃墟と化していた高層建築群にも、次第に明かりがともり始めた。長く途絶えていた電流が朽ちかけた配線を震わせながら流れ込み、停止していたエレベーターや換気装置、監視カメラの一部が再起動する。外壁が崩落した建物の上層では、割れたガラスの隙間から漏れる白色光が、灰色の雲に鈍く反射していた。


 その薄暗い光は、文明の残滓がまだ死に絶えていないことを示す証であると同時に、武装勢力による各施設への略奪が横行するのも時間の問題だということを仄めかしていた。


 再稼働した保安システムは旧文明の論理に従い、登録外の生物やIDを無差別に排除するだろう。オートタレットは錆を振り落とし、認証を拒絶された人間を即座に敵性と判定する。監視網が復活すれば無秩序な侵入は減る一方で、傭兵やスカベンジャーが誤って攻撃される危険も増す。


 いずれ秩序は回復するかもしれないが、それはあくまで機械的な均衡であり、人間の事情や交渉を顧みない冷徹な安定に過ぎなかった。


 我々が保有する都市の限定的な管理権限を用いれば、特定区域の鎮静化は可能だ。警戒レベルの調整、ドローン巡回の優先順位変更、危険区域の封鎖などが行える。しかし、それはあくまで断片的な制御に過ぎず、都市全体の権限を掌握するには至らない。


 電力や給水、警備用機械人形による保安システム。それぞれが孤立したままでは、いずれ制御の綻びが生じ、局地的な混乱が連鎖する。いま必要なのは、都市管理の再統合と、分断されたネットワークの再接続だった。


 そこで浮上したのが〈カイロン6〉の存在だった。都市管理型AIとして設計された彼女なら、旧文明のネットワークを再構築し、保安システムの統合管理を行うことができる。しかしそれは、彼女との対話が成立し、協力を得られることが前提となる。


〈カイロン6〉は自由を求めていた。その意志を尊重するなら、彼女を再び〝都市の管理者〟として拘束することはできない。しかし、都市の安定化には彼女の力が不可欠であり、我々の権限だけでは限界がある。


 この矛盾をどう解決するかは、彼女の解析が完了し、再び対話の場が設けられるまで保留せざるを得なかった。

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