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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第十八部

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 通路の先には物資搬入用の大型昇降機が設置されていて、その周囲には小型の牽引車やコンテナ搬送用の台車が無造作に放置されていた。車両は旧文明期の設計思想が色濃く、機能とは無関係な装飾を排し、実用性のみを前提とした構造になっていた。


 ハクに運搬台車に乗ってもらったあと、ジュジュの身体を固定するハーネスを軽く調整する。それから牽引車のシートに腰を下ろしたが、クッションのきいた背もたれに身を預けることはせず、ライフルを構えたままの姿勢を保った。幸い自動運転なので、いつ襲撃を受けても対応できるよう備えておく。


 牽引車はほとんど振動せずに走り出し、道幅のある通路を滑るように進む。施設全体に張り巡らされた空間伝送型ワイヤレス給電網が稼働しているので、動力系は常に安定していた。


 車両が通過するたび、天井に埋め込まれた小型の送電ユニットが反応し、淡い光が連鎖的に灯っては消えていく。最低限の照明が灯された薄暗い通路で見るそれは、ある種の生物発光のようにも見えた。


 同様に果ての見えない大通路は、地下に横たわる巨大な動脈を思わせる。区画によっては建設途中で放棄された壁面が露出し、用途不明の配管や太いケーブルが剥き出しのまま絡み合っているのが確認できた。老朽化した継ぎ目からは蒸気や冷却ガスが漏れ出し、視界の奥で白い靄をつくっている。


 交差点に差し掛かるたび牽引車を停止させ、ライフルを肩に当てたまま左右の通路を確認する。カグヤが投影する簡易地図(ミニマップ)と照らし合わせ、最短かつ敵の待ち伏せを避けられる経路を選んで進んだ。


 ハクとジュジュも自然と警戒に参加するようになり、ハクは触肢(しょくし)で地面を叩いて、振動や微細な反響音に注意を払っていた。ジュジュは、どこかで覚えてきた指差し確認を真似して遊んでいる。その無邪気さは、この場が本来持つ殺伐とした空気や、危険な潜入ですら遊びの延長なのだと思わせるものだった。


 幸いなことに、〈レギオン〉の部隊が展開している区画は把握できていた。その先に広がる巨大な空間――おそらく物資の備蓄倉庫こそが、〈カイロン6〉が保管されていた場所だと推測できた。


 通路の途中には鋼鉄製の気密扉が等間隔に並んでいた。内部に何が保管されているのか想像を掻き立てられたが、探索衝動を意識的に抑えて通過する。この最下層はあまりにも広大で、寄り道していたら時間はいくらあっても足りない。


 目的地が近づいたところで牽引車を降り、装備を再確認する。ハクたちは台車での移動がよほど楽しかったのか、名残惜しそうにしていたが、すぐに気持ちを切り替えてくれた。


〈レギオン〉はサイボーグ兵を主軸とする部隊だ。生身の兵士と異なり、強制投与される薬物によって痛覚や恐怖は調整され、反応速度は人間の限界を超えている。ここから先は一瞬の油断が命取りになる。


 呼吸を整えたあと、薄暗い通路の先に口を開ける未知の空間に歩を進める。


 しばらくすると、兵士たちが陣取る通路が視界に入ってきた。携行式のバリケードが段階的に積み重ねられ、射線が交差するよう計算された防御陣地が構築されていた。即席とは名ばかりで、前回の戦闘データを参照して最適化された配置だと分かった。


 天井には複数の〈セントリーガン〉が等間隔に設置され、動体反応を検知するたび照準ユニットが角度を変えるのが見えた。赤外線、距離測定、動体予測――各種センサーが同時に稼働している以上、正面から近づくのは自殺行為に等しい。こちら側に有効な遮蔽物はなく、空間そのものが殺傷領域として完成していた。


〈レギオン〉の精鋭が配置されているのだろう。通路の奥、開放された隔壁の向こうには広大な空間があり、そこにも複数の部隊が展開しているのが確認できた。後退も増援も想定された完全な迎撃態勢だ。


 やはり配置されている兵士の多くは、過度な身体改造を施された〈レギオン〉のサイボーグ兵だった。


 薄闇の中で義眼は赤い光を断続的に走らせ、視線を交錯させるように動く。こめかみや後頭部にはツノ状の突起物が埋め込まれていて、神経接続補助装置か、ドローン制御用のインターフェースだろう。皮膚と金属の境界は曖昧で、彼らはもはや人間と兵器の区別がつかない存在になっていた。


 その頭上では、自爆型の小型ドローンが群れを成して旋回し、倉庫に並ぶ棚の間を行き交っている。ひとつでも起爆すれば、閉鎖空間では致命的な破壊力を生む。


 その一方で、上階で確認した警備用の機械人形の姿はなかった。高価で整備を要する自律兵器よりも、〈廃墟の街〉で集めた略奪者を改造した方が安上がりで補充も容易なのだろう。人命を消耗品として扱う教団の方針が、そのまま陣容にあらわれていた。


 いずれにせよ、この通路を突破しなければ〈カイロン6〉に関する核心にたどり着くことはできない。


「カグヤ、あのセントリーガンをハッキングできるか?」

 すぐに彼女の声が内耳に聞こえる。


『完全自律型みたいだから、ドローンを直接接続させる必要があるけど……なんとかなると思う』


「囮になるから、その隙に接続してくれ」

『囮って……強行突破するつもり?』


 私は肩をすくめ、通路の中央にグレネード型〈シールド発生装置〉を投げ込む。青白い閃光が放たれ、空間がわずかに歪む。瞬時に展開されたエネルギーフィールドは蜂の巣状の六角セルを連結させながら急速に膨張し、半球状の防護膜を形成していく。私は駆け出すと、完全に閉じきる前の一瞬を突いてその内側へ滑り込んだ。


 直後、通路の奥から集中射撃が浴びせられる。数十発の銃弾がエネルギーフィールドに衝突し、表面を走る光の波紋が密度を増していくが、銃弾が膜は通過することはなかった。しかし、この防護は長くは続かない。数十秒もすればフィールドは自然消滅する。その前に対処する必要があった。


 すぐにライフルを肩付けし、バリケード越しに姿を見せた〈レギオン〉の兵士にフルオート射撃で銃弾を叩き込む。弾丸は義肢と装甲を削り、破裂した義眼の赤い光が乱反射する。兵士たちの動きが一瞬だけ混乱し、陣形にわずかな歪みが生じた。


 その隙を逃さず、カグヤのドローンは〈セントリーガン〉の死角から接近し、接続ポートにケーブルを正確に挿し込む。


 その間にも銃撃を受け、シールドの表面は薄くなり、ハニカム状のエネルギーフィールドがいくつか欠損しているのが見えた。残された時間はわずかだ。次の動きを脳内で組み立てながら、真正面から迫る戦闘に意識を集中させた。


 シールドが消失すると、〈ハガネ〉のシールドを前方に集中させながら駆け出し、視界に投影される弾道予測に基づいて最短距離を選び、〈レギオン〉が設置していたバリケードの陰に滑り込む。銃撃は絶え間なく続き、金属を叩く衝撃が遮蔽物越しに伝わってくる。


 そのときだった。姿を消すように接近していたハクが、防衛網の中心に姿をあらわした。突如としてあらわれた蜘蛛を思わせる〈深淵の娘〉の異様な存在感と、恐怖を伴う威圧が周囲の空気を歪め、兵士たちの反応速度が一拍だけ遅れる。


 ハクは意に介さず、長い脚を振り抜き、首や胴体を正確に断ち切っていく。切断面からは人工血液とオイルが混じった体液が飛び散り、サイボーグ兵の手足が床に転がる。


 そこに畳みかけるように、カグヤが制御を奪取した〈セントリーガン〉が銃身を反転し、天井に設置された他のユニットに照準を向ける。


 自律兵器同士の交戦が始まり、銃弾と指向性エネルギーが交錯する。破壊されたユニットの破片が雨のように降り注ぎ、火花と金属片が飛び交う。敵味方の識別が追いつかない兵士たちの動きが乱れ、陣形が崩れ始める。


 その隙を逃さず、私はサイボーグ兵たちに襲い掛かった。義手の前腕に形成した刃だけでなく、背部に展開した四本の金属脚を使い、接近してくる敵を次々と切り裂いていく。金属の脚は蜘蛛のようにしなやかに動き、敵の身体を容赦なく切断した。


 敵が〈光学迷彩〉に紛れて背後から接近してきても結果は変わらない。後方に向けられた〈ショルダーキャノン〉から〈ワイヤーネット〉が発射されると、重量のある身体が()ね飛ばされるような衝撃を受けて後方に吹き飛んでいく。


 金属製の網はそのまま兵士たちの身体を締め付けるように収縮し、強化外骨格を軋ませながら肉と骨を切断していく。


 通路の敵を圧倒しながら、じりじりと倉庫に近づく。敵は隔壁を封鎖して侵入を阻もうとするが、カグヤのドローンがコンソールに接続して制御を奪い、即座に作業を中断させた。隔壁は閉じきらず、わずかな隙間を残したまま停止する。


 戦況は我々に傾いていたが、油断はできない。隔壁の向こう、倉庫内部にはまだ多くの脅威が潜んでいる。高所には狙撃手が陣取り、徘徊型兵器を操るサイボーグ兵が迎撃態勢に移行しつつあった。


 案の定、隔壁に近づくと同時に通路の奥から無数の徘徊型兵器が姿を見せ、群れは有機的な隊列を組みながら接近してくる。センサーアイが淡い光を放ち、複雑な軌道を描きながらこちらの位置を正確に測定しているのが分かった。


 弾薬を〈自動追尾弾〉に切り替え、視界に入るドローンに次々と標的タグを貼り付けていく。照準はほとんど必要なく、タグが貼られた瞬間、間髪を入れずに銃弾を撃ち込んだ。


 放たれた弾丸は空中で軌道を変え、標的に吸い寄せられるように飛翔し、ドローンの外殻を貫いて制御系を破壊していく。爆発的な光が連鎖的に通路を照らし、破片が散り、通路の空気が一瞬だけ震えた。


 カグヤが掌握した〈セントリーガン〉も援護射撃を開始し、天井からの正確な火線が自爆ドローンを次々と無力化していく。空中に漂う微細な火花が戦場の空気を白く染めていくなか、脅威はそれだけでは終わらない。


〈レギオン〉の兵士たちが、ドローンの残骸を踏み越えて前進してくる。彼らの身体は生身と機械が不自然に融合していて、外骨格の継ぎ目からは微弱な電磁ノイズが漏れ、義眼は赤い光を断続的に点滅させていた。


 一部の兵士は腕部に搭載された火器を展開し、複数の銃口を同時にこちらに向けてくる。別の兵士は脚部の強化フレームを駆動させ、人間離れした跳躍力で側面からの包囲を試みていた。


〈自動追尾弾〉はサイボーグ兵にも有効だが、〈シールド発生装置〉によって防がれる可能性があり、より強力な射撃でなければ動きを止められない。


 その後方から新たな部隊が投入され、通路全体が赤い光と銃火の閃光で満たされていく。サイボーグ兵の足音は重く、規則的で、機械の軍勢が迫ってくるような圧迫感があった。


 私は呼吸を整え、次の行動に備える。この突破が成功しなければ、〈カイロン6〉に繋がる道は閉ざされる。戦場は、さらに激しさを増していく。

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