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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第十八部

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 苦戦を強いられながらも、エレベーターホールを占拠していた教団兵は排除できた。けれど勝利の余韻を味わう間もなく、警告音が耳元で鳴り響く。視線を上げると、通路の奥から徘徊型兵器の大群が押し寄せてくるのが見えた。


 小型ドローン群は蜂の羽音を思わせる振動を伴い、空間そのものを揺らすかのように飛行する。床面が共鳴し、壁面パネルの内側では固定具が微かに鳴る。数の暴力を前提とした戦術で、音だけで異様な緊張感に苛まれる。


 すでに対処した経験のある攻撃だったことが救いだった。敵が構築していたバリケードを即席の防壁として利用し、射線を限定した迎撃へと切り替える。


〈自動追尾弾〉とハクの糸、そして殲滅力のある〈貫通弾〉を無駄なく叩き込んでいくと、ドローンの群れは通路の途中で爆散していった。その破片でローターを破壊された機体は制御を失い、壁や床に激突しながら爆発していく。通路は瞬く間に金属片と焦げた回路で埋め尽くされた。


 なんとか脅威を退けたものの、その代償は大きかった。上階から引き連れてきた〈アサルトロイド〉は、全機が機能停止もしくは完全破壊され、床には破壊された四肢と装甲板が転がっていた。


 しかし、ここで立ち止まっている余裕はない。ハクとジュジュの無事を確認すると、即座に移動を再開する。戦闘で残されていた教団兵のアサルトライフルや弾薬箱を回収する。銃身には射撃による熱の歪みと焦げ跡が残っていたが、弾倉には旧文明期の鋼材を用いた弾薬が詰め込まれていた。


 カグヤから送られてきたフロアマップを拡張現実で表示すると、銃火器や弾薬を大量に備蓄していたと思われる巨大な区画が確認できた。上階にある物資倉庫と同等、あるいはそれ以上の規模を持つ空間だった。すでに教団の手が伸びている可能性が高く、警戒しながら接近する必要がある。


 エレベーターホールを抜けると、空気が変わるのが分かった。汚れひとつない異様な通路が、目の前に真っ直ぐ伸びている。倉庫に隣接しているからなのだろう。壁面は白い鋼材で覆われ、継ぎ目が確認できないほど滑らかだった。照明は均一な白色光を放ち、影すらほとんどなく、徹底的に管理された場所だった。


 その通路をひたすら直進すると、やがて突き当たりが見えてくる。左に折れた先で足が止まった。巨大な隔壁が、通路の行く手に見えていた。


 鋼鉄製の隔壁は厚く、複数の装甲が重なり合う構造をしている。表面は冷たい光沢を帯び、外界を拒絶するかのように無機的だった。


 壁際には、教団が突破を試みた痕跡が残されていた。放置された多脚の重機、使い捨ての爆破装置、破壊を目的とした切断ツール。けれど隔壁そのものには傷ひとつなく、表層に焦げ跡が残っているだけだった。


 爆薬も重火器も、意味をなさなかったのだろう。この扉は、想定されるあらゆる侵入手段を防ぐことを前提に設計されていた。


 壁際に立ち、仰ぎ見るようにして巨大な隔壁を観察すると、上方に〈兵站局〉を示すホログラムが静かに投影されているのが見えた。


 弾薬庫が〈兵站局〉の管轄下にあることを示すその表示は、施設管理AIですらこの隔壁を制御できなかった理由を明確に物語っていた。軍事的備蓄を守るため、最高位の権限、あるいは複数の認証が必要とされる構造になっていたのだろう。


 それは不幸中の幸いだった。教団は地下施設を制圧することには成功したが、この隔壁の先――無数の兵器と弾薬が眠る備蓄庫には、未だ手を出せないでいた。この鋼鉄の扉は、彼らの侵略を食い止める最後の防壁として、今も機能し続けていた。


 隔壁を開放する方法を模索することもできたが、我々の目的は〈販売所〉の倉庫に侵入することではなく、教団の支配領域の中枢に到達し、〈レギオン〉が何を目的として動いているのか――その核心に迫る情報を奪取することにある。


 しかも〈兵站局〉の隔壁は、施設管理AIですら介入できない独立した権限層に属している。強引な突破を試みれば、膨大な時間と資源を浪費するだけでなく、確実に敵の注意を引き寄せる。少なくとも今は、切り捨てるべき場所だった。


 後ろ髪を引かれる思いを抱えながらも、その場を離れ、終わりの見えない通路を歩いていく。地下区画は想像以上に広大で、直線だけでなく複数の分岐と合流を繰り返していた。


 交差点に差しかかるたびに立ち止まり、カグヤから受信していたフロアマップを精査する。拡張現実上に浮かぶ簡略化された構造図の中で、〈レギオン〉の部隊と思しき動体反応が点滅していた。それらの移動パターンは統制が取れていて、無秩序な徘徊ではないことが分かる。明確な警戒網が、この階層全体に敷かれているのだろう。


 我々はそれらを避けるように進路を調整し、あえて広い通路を選択して進んだ。狭所(きょうしょ)での戦闘は逃げ場を失い、想定外の損耗を招く。それに余裕のある空間のほうが、ハクの戦術の幅を広げられる。


 その大通路を進むにつれて、この地下施設が単なる〝軍の備蓄倉庫〟ではないことが次第に明らかになっていく。閉ざされた扉の向こうには兵士用の訓練施設、車両設備の施設、そして機械人形を量産するための小規模な無人工場が並列的に配置されていた。物流、整備、製造、訓練――すべてが一体化した、完全な軍事インフラだった。


〈ジャンクタウン〉が巨大なクレーターの中心に形成された理由も、今は自然と理解できた。かつて、この地下施設を無力化するためだけに大量破壊兵器が投入されたのだろう。地中貫通型爆弾の多くは迎撃されるか、深部に届かなかったに違いない。それでも地上の構造物は完全に消し飛び、周辺一帯は瓦礫と放射線に覆われた。


 その結果として残されたのが、この地下施設と、その後に築かれた歪な集落だった。現在、我々は〈ジャンクタウン〉を取り囲む鬱蒼とした森林地帯の、はるか地下を進んでいる。この施設が都市の中心部にまでつながっている可能性は高い。


 文明が忘れ去られた間も、地下では戦争のための構造体が眠り続けていたのだろう。その静寂は、あまりにも重かった。


 思考を巡らせながら歩いていると、ハクが不意に立ち止まった。つぎの瞬間、内耳にカグヤの声が響く。どうやら教団兵が接近してきているようだ。敵の動体反応を示す赤い点が、散開しながらこちらへ向かっているのが見えた。


 すぐに壁面パネルを引き剥がし、通路の一角に即席のバリケードを構築する。露出した鋼材の断面が冷たい光を反射し、空気が張り詰めていく。地図上の赤点は、確実に距離を詰めていた。


 ふいに照明が落とされると、通路は瞬時に光を失い、視覚情報の大半が遮断された。拡張現実の補助表示もノイズに覆われ、距離感覚すら曖昧になる。


 ユーティリティポーチに手を伸ばし、高輝度ケミカルライトを複数本取り出す。殻を折り曲げると内部の化学剤が反応し、強い光が生じた。それらを床へ放り投げると、青と赤の光が転がり、無機質な床面に不規則な陰影を浮かべていく。


 その薄明かりの中で、〈光学迷彩〉を纏った兵士たちの輪郭が、幽霊めいた歪みとして浮かび上がる。完全な不可視ではなく、屈折率の差が生む微細な揺らぎが、彼らの存在を辛うじて示していた。


 教団兵は手慣れた動きで携行型バリケードを展開し、通路の要所を塞ぐ。複合素材の装甲板が床に固定され、その背後に潜むと、彼らは一斉に動きを止めた。カグヤのドローンが接近する飛翔体を捉えたのは、ちょうどそのときだった。


 投影された警告表示には、無数の微小な反応が映し出されている。蠅ほどの大きさの極小ドローン群だ。


 群体は高度に同期され、各機体から赤熱したナノワイヤーを展開していた。高周波振動によって切断力を増幅されたそれらは、通路全体を覆う格子状の殺戮領域を――まるでセキュリティ用のグリッドレーザーを形成するかのように迫ってきていた。視覚的には細い光の線に過ぎないが、触れれば装甲ごと断ち切られることが安易に想像できた。


 間髪を入れずに〈貫通弾〉を撃ち込み、渦を巻くような衝撃波で群体の一部を粉砕する。しかし、破壊された数以上のドローンが補充され、切断網は再構築されていった。さらに、バリケードの隙間から教団兵の制圧射撃が加わり、通路は殺意に満ちた圧力で覆われる。


 遮蔽物の陰に押し込まれながら応戦を続けるが、状況は膠着しつつあった。カグヤは周囲のセキュリティ装置を検索するが、この区画には警備用の機械人形を格納する〈保安警備システム三型〉も、侵入者を殲滅するための〈セントリーガン〉も設置されていなかった。


 すぐに頭を切り替え、遮蔽物から身を乗り出してフルオート射撃で銃弾を叩き込む。しかし埒が明かず、このままだと消耗戦になるだけだった。


 そこで太腿のホルスターからハンドガンを抜き、弾種を〈反重力弾〉に設定する。施設管理AIによる多数の警告表示が視界に浮かび上がるなか、銃身が多段構造に展開し、謎に満ちた旧文明期の制御ユニットが起動するのが見えた。


 銃身内部で幾何学模様の光が走り、銃口前方の空間が歪でいき、光すら飲み込むような密度を持った暗い領域が形成されていく。直後、カグヤの支援によって効果範囲が拡張現実で可視化されて視界に重なる。位置と距離を確認し、引き金を絞る。


 発射音はほとんど聞こえなかった。撃ち出されたのは紫色に発光する小さな球体状のプラズマで、初速は緩慢だったが、徐々に弾速を増していった。教団兵が潜むバリケードの手前で、ソレは静止する。そして金属同士を打ち合わせるような甲高い音が鳴り響いて、局所的な重力崩壊が発生する。


 兵士たちの身体は――まるで重力が奪われたかのように、ゆっくりと宙に浮かび上がり、極小ドローン群も運動を停止した。通路そのものが歪み、空間が引き延ばされるような奇妙な光景へと変わる。


 直後、甲高い音と共に凄まじい圧縮力が発生し、壁面パネルが引き剥がされ、散乱していた破片、宙に漂う黒煙までもが、その中心にある発光体へと引き寄せられていった。


 バリケードの装甲は悲鳴を上げるように軋み、内部構造ごと崩壊した。ドローン群は外殻を破壊され、制御不能に陥ったまま電光を漏らし、小規模な爆発を連鎖的に起こす。飛散するはずだった破片や煙は逃げ場を失い、紫色の球体に吸い込まれ、浮遊していたすべてが一点に向かって押し潰され、高密度の塊へと圧縮されていった。


 拳大にまで凝縮された塊は空中に留まるようにして、周囲の光を歪ませていたが、やがて床に落下した。鈍い衝撃音が通路に響き、再び闇に包み込まれていく。そこに残されたのは、異様な質量を持つ圧縮物と、微かな戦闘の余韻だけだった。

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― 新着の感想 ―
近く核は想像以上に広大は誤字 主人公は勢力旗や部隊にワッペン配布とかしないんですかね? 圧縮出来る質量の限界はどれくらいなんだろうか?あえて体積のデカイ化け物や高密度の鋼材を吸い込ませて圧縮限界量に負…
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