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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第十八部

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 増援の兆候がないことを確認すると、カグヤの偵察ドローンに先行してもらうことにした。すでに制御下に置いた複数の〈アサルトロイド〉も彼女の指示に従い、整然と通路を進んでいく。


 人型を模した機械群は、赤いセンサーアイを一定の周期で明滅させながら、破壊された壁面パネルや死体を踏み越えて進む。床に転がる教団兵に生存者がいれば、感情を介在させない正確な動作で止めを刺し、完全に息絶えたことを確認していく。


 通路には、焦げた金属の刺激臭と人工血液特有の甘ったるい臭いが濃く漂っていた。溶解した壁材は冷えて固まり、床や壁に歪な痕跡を残している。照明は一部は破損し、非常灯の青白い光が断続的に明滅していた。


 何をするでもなく破壊された通路を見つめていたが、やがて戦闘によって消耗した装備の点検に取りかかる。


〈ハガネ〉のタクティカルスーツは、すでに自己修復用のナノマテリアルを循環させ、装甲表面の傷や亀裂をゆっくりと塞いでいた。焦げ跡も液体金属に包み込まれるように均され、数分も経たないうちにほとんど新品と変わらない外観を取り戻していた。


 内部フレームや補助筋力機構の診断結果もすべて正常値を示していて、神経接続の遅延もない。人造人間との戦いを思えば、驚くほど被害は軽微だった。


 視線を巡らせると、ハクが教団兵の死体に囲まれるように立ち、触肢を擦り合わせているのが見えた。体毛に付着した血液や金属片を落とすために、身づくろいしているのだろう。その背に乗っていたジュジュも無事で、怪我をしている様子もない。


 小さな昆虫種族は、死体と機械の残骸が散乱する光景を前にしても恐怖を示さず、むしろ好奇心に満ちた複眼を忙しなく動かしながら周囲を観察していた。


 その場にしゃがみ込むと、教団兵の死体をひとつずつ調べ、使用可能な装備や弾薬を回収していく。多くの兵士は〈サイバネティクス〉による身体強化を受けていて、義肢や人工眼球、脊椎に直結された装着式骨格強化システムが露出していた。


 身体改造の方向性は各々で異なっていたが、戦闘服だけは例外なく統一されていた。〈光学迷彩〉の機能を備えたポンチョや黒いボディアーマー、知覚拡張に対応したヘルメット装着型ガスマスク――物資の供給体制が整っていることが分かる。


 やはり教団は、ただ傭兵や略奪者を雇用しているのではない。思想と恐怖、あるいは強制的な精神操作によって、過激な思想を持つカルト兵を量産しているのだろう。


 以前、〈大樹の森〉で暮らす部族が洗脳装置のようなもので支配されていたことを思いだす。脳神経に直接干渉するインプラントか、精神を侵食する特定周波数の電磁波か――その手段は依然として不明だが、断片的な情報は確実に繋がりつつあった。


 思考を巡らせていると、ふと視界の端で動きがあった。暇を持て余したのか、ハクが教団兵の死骸をひっくり返して、装備品を漁っているのが見えた。


 光沢のある金属部品や用途不明のデータチップを器用に集める様子は、光り物を好んで集めるカラスの習性に似ている。可愛らしくもあるが、放置すれば荷物が増え、行動に支障をきたすのは目に見えている。私はそこで思考を切り上げ、彼女の行動を制止することにした。


 それから、カグヤから送られてくる情報によってリアルタイムに更新されていく地図を確認する。拡張現実で立体的に表示された通路には、教団兵を示す複数の点が確認できたが、すでに一時的に安全を取り戻している区画もあった。そのなかで、リスクの低い経路を選択し、目的地に進むことを決めた。


 歩きながら死体から回収していたライフルを手に取り、注意深く観察する。外見は旧式のソビエト製アサルトライフルに酷似している。直線的なレシーバー、無骨な木製ストックを模した外装、時代錯誤とも言えるアイアンサイト――けれど、それらはすべて〝意匠〟に過ぎなかった。


 表面の摩耗や打痕は人工的に付与されたもので、経年劣化を再現した痕跡だった。分解してみると、その予感は確信に変わる。内部機構は完全に別物で、可動部には旧文明期の兵器に見られる機構が用いられ、木目調の外装も軽量合金に立体プリントが施されているだけだった。


 無人工場で設計から製造、検査まで完結するラインで生産された〝レプリカモデル〟なのだろう。教団は、あえて旧文明期以前の象徴的な兵器の外見を纏わせることで、武器そのものに思想的意味合いを付与しているようだ。


 弾倉を抜いて装填されていた弾薬を確認する。弾頭には旧文明期由来の高密度鋼材が使用されていた。


 カグヤのドローンがいないので簡易的なスキャンしかできないが、成分比から見れば重金属を含む合金で、貫通力と運動エネルギーを最大化する設計になっていた。通常の弾薬よりも初速は抑えられているが、その分、装甲や強化骨格に対する破壊力は桁違いだった。


 サイボーグ兵の内部骨格や機械人形、あるいは〈シールド発生装置〉を前提とした兵器だった。このライフルが量産され、標準装備として支給されているという事実は、周辺一帯の戦力均衡がすでに崩壊していることを如実に物語っていた。


 残念ながら試射に割く時間はなかったが、拠点に戻ったら、ペパーミントに解析を依頼することにした。もしこの弾薬とライフルを再現できれば、各拠点の防衛力を飛躍的に強化できるはずだ。


 教団の人造人間が再びあらわれる可能性を考えれば、慣れない武器を実戦投入するのは賢明ではない。ライフルを〈収納空間〉に放り込んだあと、通路に潜んでいる教団兵の襲撃に警戒する。


 その直後、どこからともなく激しい戦闘音が聞こえてきた。カグヤから受信する振動解析が示す波形は、エネルギー兵器と実体弾の混在を示していた。〈アサルトロイド〉の部隊が、教団兵と接触したのだろう。


 拡張現実で表示された地図を確認し、教団兵の背後に回り込む経路を選択する。照明の落ちた通路を静かに進み、遮蔽物の影から銃口を突き出すと、躊躇うことなくフルオート射撃で銃弾を浴びせた。


 人工血液が白く飛散し、破壊された義肢や内部フレームが床を転がった。〈アサルトロイド〉のレーザーが前方から圧力をかけ、退路を断たれた兵士たちは数分ともたずに崩れ落ちていった。戦闘が終わると、死体から使える装備を回収し、再びカグヤのドローンを先行させて次の接敵に備えた。


 交戦のたびに数体の〈アサルトロイド〉が破壊されるが、カグヤは〈保安警備システム三型〉の端末へ侵入し、壁内部や床面に格納されていた警備ユニットを起動させることで戦力を補充していった。システム全体の完全な掌握は困難でも、端末単位での局所制御は可能だった。


 こうして前進と戦闘を繰り返すうちに、通路は次第に死体と金属片で埋め尽くされていく。照明は損傷の影響で断続的に点滅し、赤い警告表示が壁面に投影されるたび、戦場の緊張が視覚的に強調された。


 そうしてついに、階下へと続くエレベーターホールに到達する。階下には教団の支配領域が広がっているはずだった。すでに侵入を察知されている以上、ここから先は苛烈な戦闘が予想される。


 カグヤによって制御された〈アサルトロイド〉が隊列を組むようにしてエレベーターに乗り込むのを見届けたあと、我々も階下に移動することにした。教団の人造人間に遭遇しなかったことが気がかりだったが、頃合いを見て別のエレベーターに乗り込む。


 ハクは緊張しているのか、しきりに触肢を擦り合わせていたが、一方のジュジュは状況を理解しているのかどうかも分からない。胸元で淡く明滅する〈アスィミラ〉の小箱に向かって口吻を小刻みに動かして、話しかけるような仕草を見せている。その無垢さが、かえってこの場の異常性を際立たせていた。


 しばらくすると、階下から微かな音が聞こえてきて、やがてそれは明確な破壊音と振動へと変わっていく。すぐにエレベーターを緊急停止させ、カグヤの偵察ドローンから送られてくる情報に意識を向ける。


 視線の先に表示された映像には、破壊された〈アサルトロイド〉の残骸が映し出されていた。装甲は引き裂かれ、関節部から露出した配線と電子部品が床に散乱している。


 映像が切り替わり、エレベーターホール全体を俯瞰すると、生き残った機械人形と教団兵が至近距離で交戦している様子が確認できた。教団兵は即席のバリケードを構築し、遮蔽物から身を乗り出すようにして攻撃していた。完全に待ち伏せを想定した布陣だった。


〈ショルダーキャノン〉を頭上に向け、エレベーターの天井に〈貫通弾〉を撃ち込む。金属板が裂け、焦げた臭いが充満する。ハクと共にエレベーターの上部に移動し、落下しないよう注意しながらしゃがみ込むと、カグヤに再びエレベーターを動かすように頼んだ。


 目的の階層に到着すると、予想通り激しい攻撃にさらされた。エレベーターの扉が開く前に数えきれないほどの銃弾が撃ち込まれ、火花が散り、空気が震えるような衝撃が走る。もし内部に立っていたなら、あの集中砲火を浴びていたに違いない。


 すぐに〈アサルトロイド〉が制圧射撃を開始し、敵の注意を逸らす。赤いセンサーアイが瞬き、連射される高出力のレーザーがバリケードを焼き、火花と破片を飛散させた。その一瞬の隙を突いてエレベーター内に飛び降りて、正面に立つ兵士たちにフルオートで銃弾を撃ち込んでいく。


 通路は赤い警告表示に染まり、バリケードの背後から放たれる弾丸が空間を切り裂いていていく。破壊された機械人形の残骸が床を覆い、血液めいたオイルが流れ出し、赤黒い液体が光を反射する。焦げた金属とオイルの臭気が混じり合い、呼吸するだけで戦場の緊張が肺を満たしていくようだった。


 敵兵は遮蔽物の背後から射撃を続け、〈光学迷彩〉を纏った者が通路の影を滑るように移動していた。〈アサルトロイド〉の制圧射撃が火線を作り出すと、その間隙を縫うように前進する。タクティカルスーツのシールドが銃弾を受け止め、衝撃によって無数の波紋が生じるのが見えたが、構うことなく前進する。


 戦場は混沌としていた。赤い熱線が飛び交い、破壊された機械人形の残骸が火花を散らし、人工血液が通路を染めていた。敵の待ち伏せは周到だったが、我々の突入の勢いを止めることはできなかった。

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