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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第十二部 紛争地帯 re

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488/918

488 処刑隊 re


『レイ、大丈夫?』

「ああ、〈ハガネ〉のおかげで助かったよ」


 カグヤに返事をしながら、黒ずくめの集団に視線を向ける。戦場に姿を見せた処刑隊は、真っ黒な戦闘服に黒いタクティカルハーネスを身に着け、頭部はガスマスクとタクティカルヘルメットで完全に覆われていた。


 その姿は威圧的なだけでなく、軍用規格のサイバーウェアによって身体能力が強化されているのか、彼らは人間離れした跳躍力を駆使し、崩壊寸前の建物に次々と侵入していく。


『処刑隊の装備はどれも高品質なものだけど……あれは旧文明の販売所でも入手できる代物だよ』


 カラスから受信していた映像で処刑隊が手にしていた武器を確認する。すると自動小銃が赤色の線で縁取られて、〈データベース〉経由で詳細な情報が確認できるようになる。


 彼らが所持していた装備は〈販売所〉で入手可能なものであり、〈秘匿兵器〉のように極めて強力なものではなかった。しかし、それでも処刑隊が手にしていたのは、〈廃墟の街〉で一般的に流通している旧式のアサルトライフルではなく、しっかりと整備された装備だった。そしてそれが脅威であることに変わりはない。


「狙撃に使用したライフルは、教団から入手したモノじゃなかった……」と、側頭部に触れながら言う。「だからこの程度の傷で済んだ」


 頭部に受けた銃弾は、〈ハガネ〉によって形成されたフルフェイスマスクの表層を凹ませていたが、貫通することはなかった。もしも狙撃に使用された武器が〈秘匿兵器〉のように強力なモノだったら、これだけのダメージでは済まされなかっただろう。


『でも油断はしないで』と、カグヤは言う。『処刑隊だってバカじゃない。対策もなしにレイとハクの相手をするはずがない』


「対策か……」ハクの体毛を撫でながら言う。「そうだな、充分に注意して連中の相手をしよう。ハク、もしも危険だと感じたら、躊躇(ためら)わずに後退しよう」


『ん、わかった』


 敵が潜む建物に接近すると、ハクのタクティカルゴーグル越しに見えていた八つの眼がぼんやりと発光するのが確認できた。そのレンズが徐々に曇り、真っ赤な眼が見えなくなると、ハクは勢いをつけて集団に向かって飛びかかった。


 処刑隊は不意をつかれたが、冷静に小銃を構え、ハクに向かってフルオート射撃で銃弾を浴びせた。しかしハクは銃弾に怯むことなく突進し、崩落していた壁に向かって数人の戦闘員を()ね飛ばし転落させた。そしてそのまま脚を振り抜き、鋭い鉤爪で彼らの身体を切断していく。


 処刑隊はサイバーウェアで強化された身体能力を駆使して抵抗するものの、ハクの動きは素早く、長い脚が振り抜かれるたびに戦闘員たちの身体は切り刻まれ、生々しい真っ赤な鮮血が噴き出した。


 戦闘が始まると、崩れた壁やガラスのない窓枠から数人の戦闘員が室内に飛び込んでくるのが見えた。彼らは建物を支える柱の陰に身を隠すと、ハクに銃弾を浴びせながら接近してきた。その新手の集団のなかには、ロケットランチャーにも似た見慣れない長筒を肩に担いでいるものたちの姿もあった。どうやら彼らの狙いはハクだったようだ。


 その戦闘員に対処するため、彼らに向かって前進しながら銃弾を撃ち込み、容赦なく射殺していった。引き金を引くたびに乾いた銃声が室内に響き、肩に軽い反動が伝わる。それでも戦闘員は冷静だった。


 仲間が銃弾を受けて倒れたことを確認すると、こちらに制圧銃撃を続けながら、負傷した仲間を片手で引きずるようにして物陰に隠れる。彼らの表情は見えないが、ガスマスクのレンズ越しに見える目には、生に対する執念のようなものが宿っているように感じられた。


 物陰から飛び出してきた戦闘員に対して銃口を向けたときだった。ふいに建物の外から狙撃を受けてしまう。一発目の銃弾は紙一重のところで外れるが、すぐに二発目が飛んでくる。


 しかし、私の意思とは無関係に狙撃に反応した〈ハガネ〉は、まるで磁場に反応する磁性流体のような動きを見せながら、瞬時に大盾を形成し、大口径の狙撃ライフルから放たれた銃弾を受け止めた。


〈ハガネ〉の反応には驚いたが、それに意識を向けることはできない。動きを止めたことで敵の一斉射撃を受けることになる。〈ハガネ〉の金属繊維で補強された戦闘服は鋼鉄のように硬化し、攻撃を耐え抜いていた。義手を変形させて形成された大盾にちらりと視線を向けると、盾の裏側が変化し、その先の景色が透けて見えるようになる。


 これも〈ハガネ〉のフルフェイスマスクを装着しているからこそ可能なのかもしれない。そしてその視線の先に、ロケットランチャーを拾い上げる戦闘員の姿が見えた。


 大盾に蓄積されたエネルギーを一気に放出し、凄まじい衝撃波を発生させて周囲の戦闘員を吹き飛ばした。敵の多くはその衝撃波によって内臓に深刻なダメージを受け、柱や壁に叩きつけられて命を落とすことになったが、ロケット弾はすでに発射されていた。 


 ハクに向かって真直ぐ飛んでいったロケット弾は、空中分解すると、鋼鉄のワイヤーと金属製のおもりからなるネットを吐き出した。それは処刑隊と戦闘していたハクの身体に絡みつき、ハクの動きを拘束する。金属ネットを切断しようとしてハクは暴れるが、立て続けに金属ネットを撃ち込まれ、ついに身動きが取れなくなる。


 ロケットランチャーを構えていた戦闘員に対して、優先的に攻撃用の標的タグを貼り付けると、左肩に形成した〈ショルダーキャノン〉から〈自動追尾弾〉を撃ち出して殺していった。それが終わると、ハクに向かって出鱈目(でたらめ)に銃弾を撃ち込んでいた集団に向かって駆けた。


 戦闘員はすぐに私に反応して、こちらに銃口を向けた。けれどカグヤが彼らのサイバーウェアに侵入すると、すぐに義手の操作権限を失くして、指が硬直して引き金が引けなくなった。


 義手に生じた異変に気が付いて困惑する戦闘員に向かって駆けると、タクティカルベストからスローイングナイフを抜いて、その首元にナイフを深く突き刺した。戦闘員は驚いたように目を見開くが、声を出すことなく倒れる。


 首元から引き抜いたナイフからは、粘度の高い血液が糸を引いていたが、少しも気にすることなく、突進してきていた別の戦闘員に向かってナイフを投げつけた。


 しかし義手の操作権限を取り戻していた戦闘員は、両腕の前腕を変形させ、そこから伸びた刃を使ってナイフを弾き飛ばした。そして、そのまま私に向かって刃を振り下ろそうとしたが、〈ハガネ〉の装甲から伸びた鋭くて太いトゲのような突起物に胸を貫かれる。


『まだだよ!』


 カグヤの声に反応して戦闘員の手元に視線を向けると、手榴弾のレバーが飛んでいくのが見えた。〈ハガネ〉は驚いたように液体金属を震わせたあと、すぐにトゲを引っ込め、身体全体を覆う盾を形成して爆発を防いだ。〈ハガネ〉の大盾には爆散した戦闘員の内臓と体液がへばりつくことになった。


 けれど安堵している暇はない。立ち昇る粉塵の向こうから無数の銃弾が飛んでくる。処刑隊はまだ諦めていないようだ。


 柱の陰から姿を見せた数人の戦闘員が、こちらに向かって雨のように銃弾を浴びせながら接近してくる。すると大盾の表面が変化して、液体金属がうねるように動くのが見えた。つぎの瞬間、盾の表面から無数のトゲが伸びて、接近してきていた戦闘員たちの身体を貫いた。彼らは串刺しにされたまま動かなくなり、床に大量の血液をこぼしながら息絶えた。


「ハッキングができるのなら、もっと早く手伝ってほしかった」

 私がそう言うと、カグヤは溜息をつきながら言った。


『残念だけど、〈接触接続〉を行わずに遠隔操作だけで処刑隊のサイバーウェアに侵入するのは難しい。今やってみせたみたいに、一時的にしか動きを封じることはできないんだ』


 周囲に展開していた部隊が後退していくのを確認すると、ハクの側に駆け寄る。ハクは金属ネットに苛立っているのか、壁や柱に身体をぶつけて強引にネットを引き剥がそうとしていた。


「サイバーウェアも上等なモノを使っているな……厄介な連中だ」

 ハクの身体に絡みついていた金属製の網には、どうやら旧文明期の特殊な鋼材が含まれているようだった。


「ハク、すぐにそいつを外してやるからな」

 暴れていたハクは急に大人しくなると、こちらにパッチリした大きな眼を向ける。


 液体金属が溶けだすように義手から流れ出ると、ハクに絡みついていた網に覆い被さり、金属を熔かしながら取り込んでいく。


『動物捕獲用、あるいは暴徒鎮圧用の装備だと思っていたけど……人間を捕らえるのに、こんなに強度のあるワイヤーは必要ないよね』と、カグヤが言う。


「変異体を捕えるための装備なのかもしれないな……」

『というより、〈混沌の領域〉からやってきた生物を捕えるためのものなのかも』


「いずれにせよ、旧文明の装備品だな」

『うん。それは間違いないよ』


 あと少しで網を取り除ける段階まで来ると、騒がしい通知音と共に視線の先に無数の警告が表示される。


『レイ!』

 カグヤの言葉に反応するように、ハクは私を抱えて横に飛び退いた。


 すると我々が先ほどまで立っていた場所に向かって、無数の小型ドローンが飛んできて次々と爆散していった。その破壊力は凄まじく、崩壊しかけていた建物に大きなダメージを与え、瞬く間に崩壊させていった。


 ハクは私を抱いたまま崩壊する建物から逃れると、となりの建物の屋上に静かに着地した。


『徘徊型自律兵器だよ』カグヤが言う。『注意して、あれは標的に接触した瞬間に自爆するように設定されている』


 百メートルほど先の通りに視線を向けると、数え切れないほどの自爆型ドローンで構成された機械の群れが、まるで水中を泳ぐウミヘビのように飛んでいるのが見えた。


「あれはどこから来ているんだ?」

『カラスに探してもらう。レイとハクはとにかく逃げて』


「了解」


 空高く舞い上がったドローンの群れは、一定の高度に達するとピタリと動きを止め、そしてパラパラと落下を開始した。それはやがて凄まじい速度で飛行し、私とハクに向かって真直ぐ飛んできた。ライフルと〈ショルダーキャノン〉を使って接近してくるドローンを撃ち落としていくが、数が多くてすべてを処理することはできなかった。


 強酸性の糸を吐き出していたハクもドローンの迎撃を早々に諦めると、私を抱えて、次々と建物に向かって跳躍し、ドローンの自爆攻撃を間一髪で避けながら移動していく。


『見つけたよ!』


 ドローンが立てる騒がしい炸裂音の合間にカグヤの声が聞こえると、カラスから受信していた俯瞰映像が視界の先に表示される。


 そこには見慣れないコンテナを積載した大型多脚車両と、その周囲で何かの作業をしている戦闘員の姿が映し出されていた。その鉛色の巨大なコンテナから、小型ドローンが次々と射出されている様子もハッキリと確認できた。


 戦闘車両のそばで作業していた戦闘員の近くには、無数のコンテナボックスが積み上げられていて、彼らは弾薬を装填するように、箱に入っている自爆型ドローンを大型コンテナに補充していた。


「あのコンテナを破壊しない限り、ドローンからの追跡は止まりそうにないな」

 そう言って周囲に視線を向けると、真鍮色の派手なモジュール装甲を装着した多脚戦車〈サスカッチ〉の姿が見えた。トゥエルブが指揮する部隊が〈人擬き〉の群れと交戦しているようだ。


「トゥエルブ!」ドローンの炸裂音に声をかき消されないように声をあげる。「俺が目標を指定するから、あの大型ヴィードルを黙らせてくれ!」


 専用のパーツで〈サスカッチ〉の車体に接続されていたトゥエルブの本体が回転すると、赤紫色のレンズで覆われたカメラアイをこちらに向けるのが一瞬だけ見えた。〈サスカッチ〉は重機関銃の掃射で〈人擬き〉を行動不能にすると、巨大な脚で化け物を踏み潰しながら、受信した情報をもとに大型多脚車両に接近する。


 そして、多目的センサーモジュールを使用して標的を捉えると、空気を震わせる特徴的な射撃音を響かせながら閃光を放った。


 発射された高出力のビームが無防備だった大型多脚車両の車体を貫通すると、攻撃を受けた箇所を起点に赤熱しながら膨張し、一気に爆散した。その衝撃は凄まじく、周囲で作業していた戦闘員を巻き込むほどだった。


 その破壊の衝撃は自爆型ドローンを満載したコンテナボックスにも伝播し、ドローンが次々と爆散していき、最終的には巨大な衝撃波を伴う大爆発につながった。


 トゥエルブは射撃の結果に満足せず、そのまま攻撃を継続した。手足を失くし、火だるまになっていた戦闘員たちに銃弾を撃ち込んで容赦なく殺すと、建物上階に潜んでいた処刑隊や、我々のことを執拗に追いかけていた自爆ドローンにも矛先を向ける。


 処刑隊は地上の〈サスカッチ〉にロケット弾を撃ち込むようになっていて、その数は増える一方だった。トゥエルブは多連装ミサイルランチャーのコンテナを空に向け、小型ミサイルを次々と発射した。白い煙の尾を引いて飛んでいくミサイル群は、建物に潜んでいた処刑隊や無数のドローンを正確に捉え、次々と爆発を引き起こした。


 ハクは建物屋上に着地すると、周囲の安全を確認しながら風に流されていく煙の筋に視線を向けた。私は追跡してきていた残りのドローンを撃ち落としたあと、接近してくる無数の人影に注意を向けた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ……旧文明には、混沌の勢力からの生物達を捕らえて研究するほどの余力があったって事か? なら尚更気になるなぁ? それだけの余力がありながら、地球丸ごと滅びる何かがあった訳で。まあ、それ…
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