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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
一章 ぼくがうっかり破壊神を目覚めさせてしまう話
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1-6 胸を張って、前を向いて

 ほんの一瞬、意識を失っていたらしい。

 気がついたときには、図書室の椅子に腰かけていた。


「……夢だったのかなあ?」


 ケープを織っているうちに居眠りしてしまったのだろうか。

 だとすれば納得できる。

 まさかぼくが、破壊神と渡りあうなんて――。


 しかし床に目をやれば、真っ黒に染まったケープが落ちていた。

 おまけにぼくの服は泥まみれで、なんとも言えない異臭が漂っている。


『ふ……ふなあぁ……』


 タイミングよくオーサのうめき声が頭に響いてきて、さきほどの大事件が夢ではないことを全力で訴えてくる。

 ていうか君、なんで苦しそうなの。


『ここじゃあ。はよう助けてくれ』


 泥まみれのケープがモゾモゾと動きだしたので、ぼくはぎょっとしてしまう。

 うわ、でっかい毛虫みたいで気持ち悪い……。

 とはいえ勇気を出して広げてみると、中から黒い猫ちゃんがこんにちは。


『むう。お前なんぞに力を使ったせいで消耗してしまったにゃ』


 腕で抱えられるサイズに戻ったオーサを見て、ぼくは苦笑いを浮かべてしまう。

 伸縮自在だなんて、さすがは破壊神。

 理解の範疇を軽く超えてくる。


『封印されている間に弱体化したようでにゃ。調子が戻るまでこの姿で力を蓄えておくべきやもしれぬ』

「ぼくもそのほうが嬉しいかな。ちっちゃくて可愛いし」

『そうであろうそうであろう。うにゃーっ!』


 彼女はとても破壊神とは思えない、甘えきった声で鳴く。

 簡単だなあ。悪人にコロッと騙されそうで逆に不安になるよ。


『というわけで休眠を取る。あとは好きにせえ』

「え? どうしろと」

『……』


 寝た。

 早いって。


「せめて今後のことを話しあうとかさあ」


 と声をかけてみるものの、オーサは黒い毛玉みたいになって微動だにしない。

 ぼくはケープにくるまった破壊神を抱えながら、途方に暮れてしまう。


「クラウンくんクラウンくん」

「うわっ! ……って、ハーレイ先生ですか」

 

 どうやら今になってぼくの様子を見にきたらしい。

 いきなり背後から肩を叩かれたので、驚いてしまった。


「驚いたのはこっちのほうだよ。まさか君が、破壊神を復活させてしまうとは」


 ハーレイ先生はそう言って、ぼくの腕の中で丸まったオーサを見る。

 いやそれほどでも……と返事をしかけたところで、ふと違和感を抱いて、


「この猫が破壊神だって、どうしてわかるんですか。さてはぼくの心を勝手にのぞきましたね」

「心というよりは記憶を、だね。ハハハ」


 さらっと言ってますけど、かなりヤバい魔法を使ってません?

 先生と話していると、自分が丸裸にされたような気分になってくる。


「というわけで大体のところは把握している。君がどのようにして破壊神を復活させ、そして立ち向かったのか。いやはや、感動的な見世物だったねえ!」

「他人の記憶を盗み見しておいて、罪悪感のカケラもなさそうな……」


『今さらじゃあないか』という表情をされたので、怒ったところで無駄なのだろう。

 どうせなら今後どうすればいいか、相談したほうがいいかもしれない。

 すると先生はまたもや心を読んでいたらしく、


「王都の地下水道にでも潜る予定がないのなら、今後のことを考えるよりも先に、泥まみれの服をなんとかしたほうがいいな。まったくひどい匂いじゃないか」

「確かにこのままだと、寮に帰りづらいかも……」

「君はドブネズミではないのだからね。私のほうで着替えを手配しよう。――おおい、パンジィ! こっちにおいで!」


 ハーレイ先生の呼び声に応じて、受付のほうから小さな動物がやってくる。

 幼児くらいの背丈で、白い毛にところどころ黒が混じったクマのような魔物。

 こいつは先生が使役している、使い魔(ファミリア)だ。


「さてとパンジィ、坊やに服を持ってきておくれ。それと風邪を引くといけないから、温かい飲み物もね」

「ズモーッ!」


 パンジィは奇妙な鳴き声をあげると、颯爽とどこかに消えていく。

 先生はその姿を見送ってから、ぼくとオーサをじっくりと眺めた。


「好きにしろと言われたのなら、飼ってみたらいいじゃないか。魔法使いのお供といえば黒猫は定番さ。君の場合は悪い魔女みたいになれるかも」

「ぼくは真面目に相談しているんですけど……」

「面白いと思うがねえ。偉大な魔法使いを志すなら、人ならざるものを従えるくらいの胆力は見せてもらいたいところだ」


 両手で抱えられる大きさの、世界を滅ぼす力をもった飼い猫。

 いくらなんでも無茶すぎるでしょ。


「魔物と絆を深めるのも悪い話じゃない。実のところ私も若かりしころ、悪魔の長を伴侶にしたことがある」

「先生が……魔皇と? それこそ無茶な話でしょ。寂しい青春を送ってきたからといって、ありもしない武勇伝をねつ造しないでください」

「ハハハ。案外やつらのほうが、情が深かったりするものさ」


 先生はそう言って笑うものの――ただの悪魔ならまだしも、その長、六柱の魔皇のいずれかとなれば、さすがにありえない話になってくる。

 どうせ不死皇帝と魔皇パンドゥーラのロマンスを拝借して、適当なホラを吹いているのだろう。彼が強大な悪魔と愛の契りを交わすことで、大陸を恐怖のどん底に陥れたのはあまりにも有名な話だ。


「まあ現実的な線で考えると、オーサを使い魔にするのがいいかな。学園の生徒なら、申請さえしておけば魔物の飼育は認められるし」

「それが一番かもしれませんね……。オーサが納得してくれるかはさておき」


 使い魔ってのはいわば魔法使いの活動をサポートする、ペット兼小間使いだ。

 しかしプライドの高そうな猫サマが、ぼくのお願いを聞いてくれるだろうか。


「君が口説いたのだからしっかり面倒を見たまえ。申請のほうは私から出しておこう。さすがに『破壊神』で登録するわけにもいかないから、種族は『猫妖精』でいいか」

「お手数かけてすみません、ハーレイ先生」

「かまわんよ。可愛い坊やのためだ。ただ……そうだな、これだけは言っておこう」


 先生は子どもみたいな笑みを消して、落ち着いた大人の表情を作る。

 だからぼくも授業を受けるように、背筋をピンと伸ばす。


「望んでそうしたわけではないにせよ、君はオーサを目覚めさせた。地下から掘り起こしたのは私であったが、本当のこの子を見出したのは他でもない――クラウンくんだ。だからある意味において、運命は君を選んだと言える」

「ぼくはそんな、大それたことをしたつもりはないんです。オーサはほとんど自力で、封印を解いたわけですから」


 ぼくがそう返すと、ハーレイ先生はぺしっと頭をはたいてくる。


「もっと胸を張りなさい。そして考えなさい。千年の呪縛を解くほどの魔法が、そのきっかけを与えるのが、オーサにとってどれほど価値ある行為であったかを」


 先生に言われて、あらためてオーサを見る。

 ケープにくるまれて、ぼくの腕に抱えられて、すやすやと眠っている。

 不思議な感じだ。

 オーサのほうがずっと強いのに。

 守ってあげなくちゃと、思ってしまう。


「君はオーサを呪縛から解き放ち、その在り方さえ変えてしまった。ケープに宿っていた優しさが――ささやかな感情が、破壊の神を打ち破ったのだ」


 いくらなんでも、大げさじゃないかとは思う。

 だけど先生に言われると、誇らしい気持ちが湧いてきた。


「しかし大変なのはこれからだよ。世界が優しくないことは、君はよく知っているはずだ。だから導いてあげなさい。その優しさでもって――オーサの力と、魂を」


 この猫を目覚めさせたのは、ぼくが考えているよりもずっと、とんでもないことのなのかもしれない。

 これからどうなるかわからないけど、自分なりにできることをしよう。

 先生の言うように。


 胸を張って――前を向いて。

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