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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
四章 ぼくが君を助けるために、王都の上空でドラゴンと戦う話
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4-3 醜悪な模造品

 ぼくらの間に、重苦しい沈黙が漂う。

 嫌な感じだった。全貌がまったく見えないのに、とんでもない失敗をしでかしたのだと告げられたような、張り詰めた空気。

 埃がちらちらと舞う第三図書室にオーサの穏やかな寝息だけが響く中、ハーレイ先生は神妙な表情のまま、奥の暗がりに消えていく。

 やがて戻ってくると、装丁の色あせたぶ厚い本を抱えていた。

 前に見せてもらった魔法生物の設計書によく似ている。

 だとすればあの本も、帝国の戦乱時に作られた研究資料に違いない。


「雷光のごとき速さで空を駆ける、深紅の箒。古の時代より空を制すことは戦いを制すことに等しいがために、亜人族の侵攻に対してもかの箒の影響力は絶大だった。ゆえに当時の不死皇帝は、グリフディリオンを量産しようと考えたわけだ」

「そんなこと、できるものなんですか? だって元々は神話時代の遺物なわけでしょ」

「君の言うとおり、グリフディリオンは今より千年以上も前に古代種の長の手によって生みだされ、その直系の末裔である魔皇パンドゥーラに受け継がれた。ただでさえ尋常ならざる力を秘める遺物の中でも上位の、まさに伝説級の代物だ」


 早口でまくしたてたあと、ハーレイ先生は肩をすくめる。


「魔皇より伝えられし古代の叡智があるにしても、グリフディリオンの力を再現する試みは無謀だったといえる。その証拠にほら、当時の資料を開いてみれば、試行錯誤のすえに生みだされた数多の試作品が、何ページにもわたって記されている。……ああ、開発者の涙ぐましい努力が伝わってくるねえ。血の気の多い支配者からの無茶ぶりだ、量産なんて不可能だと匙を投げるわけにもいくまいし」


 ハーレイ先生は邪悪な魔法使いさながらの口ぶりで、お気に入りの玩具を選ぶときみたいに目の前の資料について解説してくれる。

 このひとは興が乗ると早口でぺちゃくちゃ喋るけど、ぼくが聞きたいのはベル先輩の手元にあるグリフディリオンが――いや、古代の遺物とそっくりの魔法道具が、いったいどんな代物で、そしてどんな問題を抱えているかについてだ。


「焦る気持ちはわかるが、もうすこし話を聞いてくれたまえ。結論からいえば量産計画は頓挫し、研究そのものも凍結された。あとに残されたのはグリフディリオン・レプリカと呼ばれる、性能がはるかに劣る失敗作や重大な欠陥を抱えた危険物の数々さ」

「ぼくたちが見つけたのは、どっちなんですか……?」

「あえて聞かずとも、君はもう気づいているだろう。好奇心は身を滅ぼす、まったくありがたい教訓じゃないか。わざわざ出向いて、忘れ去られていた負の遺産を持ち出してしまうとは」


 先生はシミだらけの天井を仰ぎ「よりにもよって、これか」と、続ける。

 ぼくは開かれたままのページをのぞいてみるけど、魔法関係の研究者がよく使うぐちゃぐちゃした古代文字で記されていて、とてもじゃないけど読めそうになかった。

 だけど横に添えられている図案は、校舎地下で見つけた箒そのものだ。


「しかし今なら間に合うかもしれない。あれがもし、眠りについたままだとしたら」

「なにが……?」


 箒、のはずだ。

 古代の遺物を模して作られた、魔法道具としても。

 しかしハーレイ先生はこう語る。 


「そもそもグリフディリオンはただの遺物ではなく、意志を持つ箒、いわば魔法生物の一種だ。古代種の長たちが生みだした存在だけに、その本質は竜や悪魔に近い」


 なにを言わんとしているのか、ぼくは先に理解してしまった。

 レプリカもたぶん、同じものを素材としたのだ。

 つまり――竜や、悪魔を。


「グリフディリオンの醜悪な模倣物のひとつ、エーヴドゥルカ。あれは朽ちた竜の亡骸を用いて作られた生物兵器であり、その柄には飢えた魂が宿っている。だから喰ってしまうのさ。所有者の魔力を、やがては肉体そのものを」

「そんな……!? じゃあレースがはじまる前に、ベル先輩に知らせないとっ!!」 


 早く戻って、あの箒を使うのを止めなくては。

 彼女の魔力を糧として、朽ちた竜の魂が目覚めてしまう前に。  

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