3-15 遺物の呼び声
「ああ、もうっ! 次から次へと出てくるからイヤになってきちゃう! キュートな乙女のハジける拳! 一撃粉砕☆脳漿をぶちまけろ! ――聖鉄爆裂掌ッ!!」
「相変わらずひどい詠唱文句だなあ……。勇ましいのは結構だけどハニービー、あんまり前に出ないでおくれよ。クラウンくんの魔法でも、熱線で受けた傷は治せないらしいからね」
「しっかし攻撃に回復、なんでもできるんだから呆れるわよ。あとでクラスのみんなにも教えてあげなくちゃね。でもそのためにはまず地上に戻らないとっ!!」
身体強化の魔法で鉄壁のごとく硬くなったハニービーが駆動兵を素手でぶちのめしたかと思えば、カイトがタイミングよく鈍化の魔法をかけ、横から忍び寄る新手の動きを止める。
ぼくらと合流する前もこうやって校舎地下を進んできたらしいし、その間とくにオーサは力を貸さなかったというのだから、本当にすごいのはふたりのほうだ。
おかげで頼りにされると胃がキリキリと痛んでくるのだけど、気を抜けば全滅してしまう可能性がある以上、指をくわえて見ているわけにもいかない。
「名もなき精霊たちよ、獣の四肢に枷を、旅人に安息を与えたまえ! ――蛞蝓床!!」
「今よ、クラウンくん! さっきの魔法をぶっ放して!」
カイトが先頭集団の歩みを鈍らせたおかげで、後続の駆動兵が詰まり群れが密集する。
直線的な通路、しかも幅が狭いとあって、まとめて吹き飛ばすなら絶好のタイミングだ。ぼくはすぐさま詠唱し、オーサの力で強化された魔法で石ころを飛ばす。
「――唸れ、飛石弾!!」
移動中に微量ながら封珠の杖に魔力を充填し、自力で使うぶんに上乗せしたおかげで衝撃波はさらに凄まじい威力を発揮し、駆動兵の群れを木の葉のように吹き飛ばす。
耳をつんざくような轟音が去ると、通路に残ったのは――無数の残骸。
やっぱり……強すぎて怖いな。
今のぼく、下手すりゃ王都の騎士団をまとめて吹っ飛ばせちゃうかも。
「にゃはははは、爽快爽快。一撃で駆逐してこその魔法よな」
「痛いってば! 尻尾でぼくの肩をぺしぺしするのやめてくれる!?」
とはいえ今の戦闘で駆動兵はあらかた片付いたようで、その後は何事もなく進み、やがて大きな広間に行き着いた。
さすがに疲れていたのかハニービーがお行儀悪く中央の祭壇に腰を落とし、ぼくらもあえて相談せず休憩を取る。
すると合流して以後、妙に静かだったベル先輩が、
「うう、迷惑をかけてごめんなさい。カイトたちにはちゃんと謝ってなかったし、ていうかビンタしたのに助けにきてくれたし、初対面のスティングス家のお嬢さんも親切だし、ぜんぶあたしのせいなのに、戦うときもわたわたしているだけだし」
「先輩、また泣きそうじゃないですか……。いや、反省しているのはわかりますけども」
「ベル嬢が情緒不安定なのは昔からだけど、今回はとくにひどいなあ。俺たちは気にしてないし、ハニービーにいたっては遊びにきたくらいの感覚じゃないか」
「そそ。ていうか謝られるよりお礼を言われたほうが嬉しいかも」
「ありがとう……。でもほんと、なんでこんなことしちゃったのか、自分でもわからなくて。言い訳をしているみたいだけど、ここに来るまでの記憶が曖昧だし、グリフディリオンなんてあるわけないのに、おばかさんはあたしのほうよ」
ベル先輩の懺悔を、ぼくは黙って聞いていた。
気が強いくせして逆境に弱いし、思いこみだって激しそうだけど、彼女の無謀すぎる今回の行動は、なんとなく違和感がある。
それほどまでに追い詰められていた、と考えれば納得できるとはいえ――。
「あるいは呼ばれたのかもしれぬ。ここにあるという、遺物とやらに」
「え、どういうこと?」
「言うなれば運命の導きというやつにゃ。強い力と願いにはそういうことがあるゆえ」
唐突に威厳を醸しだしてきた猫サマは、そこでぼくの頭に直接、
『たとえばオーサとお前のように、にゃ』
わかるような、わからないような。
その話がもし本当なのだとしたら、グリフディリオンは今も魔皇殿のどこかで、ベル先輩に見つけてもらうのを待っている、ということになるのだろうか。
「遺物のほうが持ち主を求めるなんておかしな話だけど、なにせ魔法の力が宿った道具だしありえないことではないかもな。ロングレッド王家の祖先だって、辺境の洞窟で謎の声に導かれて、岩に突き刺さった宝剣クレバースを引き抜いていたはずだし」
「カイトってその手の英雄譚が大好きだよね……。でも今のところ、出てくるのは物騒な駆動兵だけだし、お宝がありそうな気配が全然しないんだけど」
「んにゃ。そうでもないぞい」
オーサがそう言うので、一同はきょとんとする。
もしかして、あったの? お宝の気配。
「他の区画はがらんとしておるのに、ここだけ変なやつらが湧いてきたのがそもそも不自然であろ。クラウンの話だと警備用らしいが、なぜああも大量に配置しておるにゃ?」
「つまり……なにかを守っている、ってことかい」
カイトがたずねると、オーサは「しかり」と答える。
「なら賭けに出てみるのもありかな。俺は索敵系の術式が得意でさ、周辺の魔力を感知して怪しげなものがないか探すことができる。ただ……消耗が激しいから地上に戻るまでの間、ほとんど魔法が使えなくなっちまう」
「問題なかろう。魔物が出てきてもクラウンが掃除するにゃ」
え? ぼくに丸投げ?
でも大変な思いをして地下をさまよっているわけし、手ぶらで帰るよりはお宝を見つけたほうが、ずっといい気分になれるはずだ。
伝説級の遺物がそう簡単に出てくるとは思えないけど……飛行魔法レースで得意げにシュレーターを駆るガードナーに、ベル先輩が一泡吹かせるところはぜひ見たい。
よし、この際だし探してみようかという話になったところで、カイトがさっそく感知の魔法を使う。
見ためは地味だけどかなり大がかりな術式らしく、額にじわじわと汗を垂らしてうんうん唸ったあと、やがてふうと大きく深呼吸をした。
「猫ちゃんの言うとおりだったよ。しかも、この広間にありそうな気配」
「グリフディリオンが!?」
「お目当てのものかはわからないけどね、というわけでハニービー」
「……私?」
当事者のベル先輩の横で、油断していたのかあくびをしていたお嬢さまが変な声を出す。
カイトはスカートめくりをするやんちゃ小僧みたいな顔で、
「お尻をどけてくれないかい。君が座っている祭壇、たぶん宝箱だ」
いきなりそう言われたので、ぼくらは揃って顔を見合わせてしまう。
ハニービーの体温でぬくもった宝箱をおそるおそる開けてみると――真っ赤に塗られた柄と、同じ色のゴワゴワした刷毛をつけた箒が収納されていた。
「いかにもそれっぽい雰囲気だな。とんでもない魔力を帯びているし」
「じゃあこれ本物なの?」
ベル先輩が引き寄せられるように手を伸ばすと、真紅の柄が一瞬だけ燃えあがったように光を放ったあと、何事もなかったように沈黙する。
見た感じ持ち主に選ばれたっぽいし、あとは地上に戻ればいいだけなのかな。
探すぞ! おーっ! みたいな雰囲気で盛りあがりかけていただけに。
あっさりと見つかりすぎて反応に困るんだけど、グリフディリオン……。




