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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
一章 ぼくがうっかり破壊神を目覚めさせてしまう話
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1-2 ぼくの優しい魔法

 放課後は、一人で行動することが多い。


 ガードナーとぼくは学園内の寮で暮らしているものの、彼は学費を稼ぐために外で働いているから、門限の時間になるまで帰ってこない。

 ぼくも学費を稼ぐために働いているけど、もっぱらケープを織る――つまりは内職なので、外に用事があるとき以外は、ほとんど学園に引きこもっている。


「うわあ、外が暗くなるのが早くなってきたぞ」


 窓の外を眺めながら、心細さをまぎらわせようと言葉を漏らす。

 今はちょうど短い秋が終わり、長くて寒い冬がいそいそと歩いてきたころだ。


「寮で作業できればいいんだけど。あそこはガヤガヤ騒がしいし、ぼくが編みものをしてると、からかってくるやつが多いんだよなあ……」


 だからわざわざ校舎の人気の少ないエリアに足を運んで、作業するわけだけど。

 それはさておき。

 うす暗い廊下ってどうしてこうも不気味なのだろう。


「ぼくはびびってないぞ。怖くない怖くない」


 だけど学園の歴史を知っていれば、歴戦の戦士とて震えながら歩くはずだ。なにせ今いる校舎は神話時代の遺物で、千年以上前に作られた巨大な魔力装置。ほんの百年前まで魔皇殿マハーカーラなんて仰々しい名前で呼ばれていて、悪名高き不死皇帝が根城にしていたダンジョンなのだから。


「なんでこんなヤバいとこ校舎に再利用しようと思ったの……。この学園の理事長って頭おかしいんじゃないか」


 理由としては常に膨大な魔力が充満していて、魔法の勉学に適しているから。

 利便性のために危険性を軽んじるところが、まさに魔法使いって感じ。


 なんて考えていたら目的地に到着したので、ぼくは年季の入ったドアを開ける。

 先には、インクで塗りつぶしたような闇が広がっていた。

 そこでいきなり、頭の中に声が響いてくる。


『おやおや、誰かと思えば可愛い妖精さんじゃあないか……』


 まるで地獄の底から――悪魔が囁きかけてきたような声。

 だけど相手が誰なのか知っているから、あえて怯えることもなかった。


『ちょうどお腹が空いてきたところでね……。さあさあ、こっちにおいで。そしてすこしだけ、君の頭をかじらせてくれないか……』

「あの、ハーレイ先生。早く灯りをつけてください」

『んん……? 今日はやけに勇敢だね……』


 来るたびに同じイタズラをされているのですから、さすがにぼくだって学習しますよ。

 それに先生が〈精神干渉〉の魔法が使えることも承知していますから、今さら心に囁きかけられたところで驚いたりしません。

 そうやって陰湿な嫌がらせばかりしていたから出世街道をぽいっと放りだされて、こんなところで蔵書の整理をやらされているんじゃありませんでしたっけ?


 ぼくがそう念じると、


『面白くないなあ。出会ったときのように、泣きわめいて命乞いをしておくれよ』

「あのときのことは忘れてください」


 声に出して強く告げると、周囲がパッと明るくなる。

 ハーレイ先生が魔法を使って、室内に灯をともしたのだ。


『――本の墓場へようこそ。小さな坊や』


 そう、ここは校舎の端にある、第三図書室。

 今や教師ですら思い出すのに時間がかかるような、学園屈指の穴場だ。


「できれば普通に喋ってください。あと小さな坊やって呼ぶのもやめてくれませんか? ぼくの名前はクラウンです」


 すると先生がもっさりとした足取りで、部屋の奥から姿を現した。

 丸みを帯びた顔は幼く見え、小さな子が身体だけ大人になったよう。

 おまけに地声は妙に甲高くて、


「ていうと君は道化師クラウンなのかい。それとも王冠クラウンのほう?」

「王さまに見えるのなら光栄ですけどね。いつものように部屋を貸してください」

「どうぞどうぞ。私は受付のところにいるからね」

「ありがとうございます」


 ぼくが奥の部屋に行こうとすると、先生は去り際に言った。


「今日も破壊神にお祈りかい」

「はい、内職のついでに」

「ゆめゆめ忘れるな。闇の境界はいつだって心の中にある」


 誰かが聞いていたなら、ぼくらは異端審問にかけられてしまうかもしれない。

 だけどこれは、ちょっとした冗談である。

 図書室にいる破壊神は小さくて害がなく、おまけにけっこう可愛いのだ。



 ◇



 部屋の隅にある椅子に腰かけて、ぼくはケープを織りはじめる。

 スラムにいた頃から必要にせまられて編み物や裁縫をしていたから、手先の器用さには自信がある。だけどありあわせの糸を使っているせいか、うっかりすると雑巾のように見えてしまう。とはいえ一応は魔法がこめられているので、毎日サボらずにやっていれば、月の学費が払える程度には稼ぐことができる。


 そしてこれが今のぼくが使える、ほぼ唯一といっていい実用的な魔法だ。


「どうせならもうちょっと便利なやつがよかったな。最初から素質があったのが、相手に安らぎを与えるアイテムを作るだけなんて……」


 そう、ぼくの作るケープはリラックス効果がある。

 正確には『なんとなくほっこりして、優しい気持ちになる』

 この魔法が使えるとわかったとき――ハニービーが「可愛い可愛い」と連呼しながら、めちゃくちゃ笑ったのは言うまでもない。


「だけど地味に売れるんだよ……。ちょっとした安らぎを求めている疲れた大人たちが多いから……」


 というわけで髪の毛をぷちぷち抜きながら、ケープに織り込んでいく。

 こうしないと魔法が宿らないため、ぼくは髪の毛を伸ばしておく必要がある。

 おかげで女の子に間違えられる要因の一つになっているし、カイトは「呪詛かけてるみたいで怖い」なんて言いだすので、ぶん殴ってやろうかと思う。


 ガードナーはなにも言わなかった。

 いや、一言だけぼそっと呟いたっけ。


『……お前は昔から、そういうやつだったな』


 あれはどういう意味だったのだろう?


 しばらく考えてから、今から三年前――メグが冬を越せなかった年に、彼女のためにケープを織ってやったことを思いだした。

 あのときもこうして、ケープに自分の毛を織りこんでいた気がする。

 毛糸が足りなかったから。

 というより、捨てられたボロ布をほどいて作っていたから。


 ぼくらに魔法の才能があるとわかったのは、それからしばらく経ってからのこと。

 だからあのとき織ったケープに、魔法が宿っていたかどうかはわからない。


 でも。

 それでも……もし。

 病気で苦しんでいたメグに、一時でも安らぎを与えることができたのなら。


「どうせなら、なんて言っちゃいけないよな……」


 ぼくはケープを織りながら、暗がりの中で呟く。

 彼女と過ごした日々を思い出して、ぴーぴー泣いてしまったけど。

 誰にも見られていなかったことは、幸いだった。

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