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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
三章 校舎の地下に危険なダンジョンがあるという話
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3-11 魔皇殿

「正直あんまり信じてないけど、校舎の地下に魔物がいたら困るし隊列だけでも組んでおきましょ。先頭で戦うのは強化魔法をかけた私、真ん中のカイトがちびちび魔法で援護して、最後尾のクラウンくんは……ん、まあ周囲を警戒してて」

「俺たちは郊外のダンジョンを探索したことがあるからね。初心者のご主人さまはともかく猫ちゃんは雰囲気があるし、ハニービーとセットで前衛を任せても大丈夫かい」 


 オーサも異論はないようでうなずく。

 貴族のご令嬢と商家の息子、どちらも家の手伝いで冒険に駆りだされることがあるらしくて、ちゃちゃっと役割分担と配置をすませてしまう。

 結局、ぼくが一番のお荷物なのは相変わらず。まあいいけどさ。


「じゃあベル先輩を探しに行こっか。もし手に負えない魔物と遭遇したら、オーサにぜんぶ任せちゃって。これでかなり強いんだから」

「……君の猫ちゃんがねえ。学園の七不思議よりもよっぽど怪しい話じゃないか」


 狭苦しい通路を進みながら、緊張感のない会話を続ける。

 校舎の地下が危険かもしれないと考えているのはぼくだけ。それにしたっていまだ半信半疑で、せいぜい迷路みたいに入り組んだ構造になっていて、ベル先輩は中で迷子になっているのだろう、くらいの認識だ。

 噂どおりダンジョン化していたとしても学園の敷地内だし、生息しているのは低級のゴブリンあたりのはず。

 オーサどころかカイトやハニービー、石を飛ばす魔法しか使えないぼくだって、なんとか退治できるレベルの魔物である。


 用心のために腰のベルトに引っ掛けておいた封呪の杖を手に持ち替えながらも、しょせんは学生の、度胸試し程度の感覚でいたことは否めない。

 だから文字どおり、足元をすくわれてしまった。


「あら」


 先頭を歩くハニービーが急に変な声を出して、同時にカチッと音がする。

 うす暗い通路の中だけあって、さすがに張り詰めた空気が漂う。


「なんだい今の音」

「もしかしてだけど……トラップ?」

「しかし作動する気配がないにゃ。さては扉の封印と同様、すでに壊れておったか」

「あはは。びっくりさせないでほし――」


 最後まで言えなかった。

 落ちたから。


「おおおおおおああああああああああっ!!」 

「クラウンくん!?」

「声はするのに姿が――げえ、落とし穴じゃないか!!」

「お前が引っかかるにゃああ!?」


 ぼくは真っ逆さまに落ちていき、みんなの声が遠ざかっていく。

 早くなんとかしないと、野いちごのジャムになってしまう。

 ……こんな死に方はいやだ! 

 理解が追いつくと恐怖も遅れてやってきて、必死の思いで魔法を使う。

 あらかじめたっぷり魔力を充填しておいた杖を構えると、


「奔放なる風精霊よ、我が祈りに応えこの身の羽となれ! ――飛翔!!」


 ダメだった。

 飛行魔法を補助する箒なし、おまけに閉所だから大気を制御する力がうまく働かなくて、落下の勢いこそ弱まったとはいえ、飛ぶどころか宙に浮くことさえできない。


「ひぎゃんっ!! ううううう……」


 お尻をしこたま打った。

 あまりの痛さにしばらく悶絶するものの、まだ生きている事実に感謝する。

 だけど起きあがって周囲を見まわすと、再び恐怖がやってきた。


「みんな、どこ? ていうかここって」

 

 カランと渇いた音がしたのでぎょっとして振り返ると、白骨化した死体が横たわっていた。

 悲鳴をあげてのけぞったら、頭上からばたばたばたっとコウモリが羽ばたいていく。


 うわあ、ぼくが想像していた魔皇殿。

 まさにこんな感じ。



 ◇


 

 みんなとはぐれたのは大問題だけど、向こうにはオーサがいるから心配はいらない。

 ひとまず合流してから、迷子になっているかもしれない先輩を探すとしよう。

 首に巻いたケープを握りしめ、魔法の効果で心を落ちつかせたぼくは前向きに考える。


 だけど傍らの白骨死体を確認したところ、学園の制服を着ていたので恐怖がぶり返してしまう。

 行方不明になった生徒がいるという噂もやはり真実で、つまり生きて戻れない可能性があるってことだ。

 いや……落ちたときに死んだのかもしれないし、危険な魔物が徘徊しているとはかぎらない。罠に注意して進めば大丈夫のはず。

 ぼくはできる。やればできる子なんだ。


「ウウウウ……オオオォオオオオォーーーンッ!!」


 なんて考えたそばから、異様な鳴き声が聞こえてくる。

 我ながらほっこり魔法の効果はたいしたもので、ケープのおかげでパニックに陥らずにすんだ。とはいえ迫りくる危機に対処するには、戦う力が必要だ。

 バタバタバタ……と騒々しい足音が近づいてくる中、ぼくは覚悟を決めて杖を構える。


「ウウウウウッアアアアアッ!」

「なんだこいつ、いきなり飛びついてきたぞっ!?」

「オオオオアアアアアア!! お願い殺さないでエエアアア!!!!」


 魔物が喋った。

 ていうか逆に命乞いされた。


「は?」


 暗がりでよーく目を懲らしてみれば、鼻水を垂らしたベル先輩が抱きついている。

 てことは今の鳴き声、じゃなくて泣き声だったわけ?

 ひとまず首に巻いていたケープをかけてあげると、怯える獣と化していた彼女も人間らしさを取り戻していく。

 今なら会話が通じそうだなと判断したところで、

 

「さては先輩も落ちたんですか、落とし穴の罠で」

「……じゃあ貴方も? ていうか助けにきてくれたの?」

「まあそうなりますね。なんにせよ無事でいてくれてホッとしました」  


 思いのほかあっさりと見つかったものだから、ぼくは先輩に抱きつかれたまま地べたに座りこんでしまう。

 で、そのまま詳しい事情を聞いたところ、ガードナーの予想はほぼ正解だった。


「ごめんなさいごめんなさい……あたしどうかしていたわ。校舎の地下にグリフディリオンなんてあるわけないのに。でも軽い気持ちで探索してみたらいきなり落とし穴にハマるしここもすごいヤバそうな場所だし、ひぎゃあ! 今なんか変な音しなかったこわいこわいこわい。ねえお願いだから見捨てないでなんでもするからあああ!」


 昨日からずっと白骨死体が転がるダンジョンをさまよっていたベル先輩は、見ていて可哀想になるほど怯えていた。

 自業自得といえばそれまでなんだけど……飛行魔法レースで、というよりガードナーに負けたくなくて、伝説の遺物を求めてしまう気持ちはわからなくもない。

 誰だって力は欲しい。前々から思い詰めていたなら、なおさらだ。

 ぼくだってインチキみたいな力はいらないと偉そうなことを言っていたくせに、キデック先生と決闘したときだって、今日こうして先輩を探しに来るときでさえ、オーサに手助けを求めてしまっている。


「反省しているのはわかりましたから、落ちついてください。ほかのみんなも来ていますし、合流できればなんとかなります。ふたりでがんばって地上に戻りましょう」

「ほんと? ふえええん! よがっだあああ!」

「ああ……また鼻水が垂れてますよ」


 ぼくが端布で作ったハンカチをあてると、ベル先輩は豪快にちーん!と鼻をかむ。

 見ればいつもつけている髪留め(雑貨屋の新商品)をどこかで落としたらしく、ご自慢の二つ結びがぐしゃぐしゃに乱れていて、お母さんにようやく見つけてもらえた幼女という感じ。

 出会ったときから主導権を握られっぱなしだったのに、今じゃ完全に立場が逆転。

 涙目の彼女をどうにか立たせると、ぼくを先頭に暗い通路を進んでいく。


「まったく、甘えんぼさんなのは先輩のほうじゃないですか」

「……誰かにこのことを話したら、許さないから」

 

 ようやく元気が出てきたのか、ぽかりと頭を小突かれる。

 でも同時にぎゅっと手を握りしめてきて――自分ひとりだけなら怯えていただろうに、彼女を守らなくちゃって思うと、不思議と勇気が湧いてきた。

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