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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
三章 校舎の地下に危険なダンジョンがあるという話
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3-3 魔法学園の七不思議

 王都市街区の片隅にある、ヴィレパン雑貨店。

 生活用品から魔法道具、さらには出所不明の呪物まで――とにかくなんでも仕入れる節操のないその店に、ぼくはお手製のほっこりケープを卸している。


「どれも丁寧に編んであるし、君の魔法って評判がいいのよねえ。あとはもうちょい上等な毛糸を使ってデザインにもこだわれば、ボロ儲けできると思うのだけど」

「あー、次から考えてみます。……ってオーサ! お店のもの勝手に食べちゃダメ!」

「ほんひゃほおおひはれてもはあ」


 いや、なにを言っているのかわからないから。

 ひとりで雑貨屋を営んでいるという若いお姉さんは、それを見てあらあらと笑う。


「なんか今日やる気でねーし、クラウンちゃん遊びに来てくれたし働くのやーめた。ねね、さっき猫ちゃんが食べたお菓子の代金いらないから、お姉さんとちょっちお茶しない?」

「相変わらず自由だなあ……。ぼくは構いませんけど」


 というわけで、雑貨屋のお姉さんと世間話をする。

 朝早くに出たからか、オーサはすぐさまテーブルのうえで丸くなって、


「すぴー……すぴー……」

「このところ食べるか寝るかしかしてないな、この猫」

「うーん可愛い-! なでなでなで。君もされたい?」

「けっこうです。ていうかこのお茶、すごく美味しいですね」

「あ、わかる? が独自に配合したやつで今月の新商品なの。あとはこれ、今つけてる髪留め。クラウンちゃんにもきっと似合うと思うわよ」

「どう見たって女性用でしょそれ。でも普通に学園で流行りそう」


 ぼくがそんな感想を言うと、お姉さんは「よいしょ」とオーサを膝にのせつつ、


「魔法学園なつかしいなー。この歳になると青春ってのが超まぶしくてネ、たまに通ってたころの夢とか見てめちゃくちゃ死にたくなるの。そうだ、恋バナしようぜ」

「そういえばお姉さんも卒業生でしたっけ。でもすみません、色恋沙汰には縁がなくて」

「えええー! きゃわいいのに君。野郎どもがほっとかないでしょ」

「だからぼく男ですってば」


 呆れてそう返すと、お姉さんはぷうと頬をふくらませる。

 二十歳そこそこっぽいのだけど、ハニービーより幼く見えるときがある。


「んじゃなんだろ。生徒の間で定番の話題といえば、怪談?」

「それならいくつか知っていますよ。魔法学園の七不思議とか」

「お姉さんが通っていたころと同じやつかしらん。音楽室から響く殉死した騎士団の呪歌、ギョロリと目が動く不死皇帝の肖像画、心に囁きかけてくる図書室の悪魔などなど。出くわしてしまった生徒は大概死ぬ」

「当事者が死んでいるのになんで話が伝わっているの? って定番のツッコミを入れたくなるアレですね。ていうか最後の噂だけはちょっと心当たりがあったりして」

「でも一番盛りあがるのは地下にあるダンジョンの噂よネ。ええと確か、学園のどこかに怪しげな扉があって――」


 お姉さんの話を聞きながら、ぼくもその噂を思いだす。


 知ってのとおり魔法学園の校舎は大陸を血に染めた暴君にして魔法使い、不死皇帝が根城にしていた魔皇殿を再利用している。

 そのため地下には侵入者を拒むダンジョンが残されており、彼が研究していた生物兵器の試作品や、戦乱で命を落とした兵士の亡霊がさまよっているというのだ。

 だからか肝試しで地下へ向かった生徒がそのまま帰ってこなかった、なんて事件が過去に何度もあったとか。

 好奇心は身を滅ぼす――そんな教訓とともに語られる、とくに人気の高い噂話である。


「ダンジョンの奥には帝国戦乱期の魔法道具や、神話時代の遺物が手つかずのまま眠っている。それをもし見つけることができたなら、君は大いなる力を手にするだろう……」

「あれ? ぼくが聞いたやつは普通に死んで終わりですし、お姉さんのころと若干オチがちがいますね」

「そういうのもこの手の噂の面白いところネ。クラウンちゃんもいっちょ探検して、伝説級のアイテムをげっとしてみたら? 高く買い取るわよ」

「そんな勇気ありませんってば」

  

 なんて笑うものの、噂で語られている遺物とやらを、ぼくはすでに手にしているのかもしれない。

 だってハーレイ先生が地下で見つけた猫の置物こそ、今お姉さんの膝のうえでいびきをかいている破壊神サマなわけだし。





 雑貨屋を出たあとは予定どおり、目を覚ましたオーサと市街区をまわる。

 お店の中より外がいいという破壊神サマのどーぶつらしい要望にお応えした結果、屋台の串焼きやら路面店のお菓子やらを買ったあと、区画の境目にある噴水広場にて試食会。


「ほひゃああわさお、おせえああおう!」

「だからなに言っているのかわからないから。でも気にいったみたいでなにより」


 オーサは肉より魚、魚より甘いものがお好きなご様子。

 しかもぼくがよく食べる魔法で派手な色をつけた安い綿菓子より、市街地でもとくに値の張るマカロンのほうがお気に召したらしく、


「今度また買うにゃ。お前のベッドで寝ながら食いたい」

「シーツ汚れるからやめてね? お土産にしたいのはわかるけど」

「しかしお前はみみっちく食うにゃあ。メシに時間をかけていると戦場で生き残れんぞ」

「なんだか、もったいなくってさ。スラムにいたころはまず食べられなかったし」


 盗むのでなく残飯を漁るのでもなく、骨が折れるほど殴られたりお腹を壊して死にかけることもなく――自分で稼いだお金を使って、穏やかに食事をする。

 それがどれほど得がたいことか知っているから、メグに食べさせてあげたら泣いて喜ぶだろうにと、つい考えてしまうから。

 ぼくはいつもこうして、ゆっくり味わうことにしている。

 

「まあよい。お前が食い終わるまで待つとするにゃ」

「今日はもう予定ないし、ここでのんびり――」


 と言いかけたところで、ぼくらが腰をおろしているベンチの反対側、噴水広場から居住区へ向かう出口の手前あたりから、若い男女の言い争う声が聞こえてくる。


「だから放っておいてって言っているでしょ!!!」

「待ってくれよ。俺はただ君がさあ」

「し・つ・こ・い! あなたのそういうところ昔っから変わんないわねっ!!」


 男のほうに見覚えがあって驚く。

 あれ、カイトじゃん。

 オーサも気づいたのか「ほう」と呟いてニヤリ。

 よくないことだとは思いつつ、興味津々で遠くから眺めていると。

 ビターン!! と気持ちのいい音。


「うわお、平手打ち……」

「にゃはは! フラれとるフラれとるわ!」


 結局、女の子のほうは怒って去っていくし、カイトは追いかけもしないで別方向に歩いていくしで――のんびり昼食を取っていたのに、水を差されてしまった感じ。

 ぼくはオーサが食べ残したべリグ魚の串焼きを手に持ったまま、


「うーん……女の子のほうもどっかで見たことあるような」

「とりあえず明日、ほかのやつらに言いふらすとするか」

 

 かわいそうだからやめてあげて。


 

 ◇



 で、夜。

 同じ部屋を使っているガードナーの帰りを待っていると、寮長のグレイソン先輩が大量の紙束を抱えてやってくる。

 なんでも寮生に配られているはずの回覧板が、ぼくらのところにだけ回っていないことに気づいたのだという。


「すまなかったなあクラウンくん。どうせまたゴランカどもの嫌がらせだろう。あいつらになにかされたらすぐ俺に言え。ボコボコにしてやるからな」

「余計に話がこじれるんでやめてください……」


 そうでなくてもガードナーが一度叩きのめしているのだから、これ以上ほかの寮生に恨みを買うのは避けておきたい。キデック先生みたいに学園から追放しようとしないだけマシではあるし。

 なんて思いつつ回覧板をめくると、頭に乗ったオーサが一枚のチラシを尻尾で指して、


「建国祭とはなんぞや。見たところ祭事のようだが」

「おう、そいつは王都で毎年この時期に開かれる催しだ。市街区のほうでパレードやら出店やらで賑わうし、最後には俺たち魔法使いにとっちゃ目が離せないアレがあるぜ」

「はて、祭壇に生贄でも捧げるのか」

「さらっと血なまぐさいこと言うのやめて。……飛行魔法レースだよ。箒に乗って王都の上空を飛んで、誰が一番速くゴールにたどり着けるか競うの」

「そして去年の、というより毎年ぶっちぎりで優勝する不動のチャンピオンこそ、魔法学園が誇る最速の女王、ベルクレア――人呼んで〈流星のベル〉だ」


 グレイソン先輩の言葉を聞きながら、ぼくはチラシに描かれている一枚の絵をまじまじと眺める。……なるほど、見覚えがあると思ったわけだ。


 箒を掲げて得意げに笑う、飛行魔法レースのチャンピオン。

 カイトにビンタをかました、あの女の子だ。

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