2-8 破壊の力
「オーサが手をくだせば、あんなクソ教師なんぞ瞬殺にゃ。しかしせっかくヘタレのお前が、あくまで自分の力で戦おうとしておったのだから――」
オーサは耳元でそう囁いたあと、しゅたっと地面に降り立つ。
そして眉をひそめるキデック先生に、こう宣言した。
「ちょいと手助けする程度にとどめよう。なあに爪のさきっちょくらいの力で十分にゃ。今からクラウンに魔法をかけるゆえ、虫けら同士、仲むつまじく爪牙を交えるがよい」
「ふん、舐めた口をきく使い魔め」
「ではとくと見よ。これぞ破壊の神であるオーサの力」
「……破壊の、神?」
げ、ポロッと正体ばらしちゃうし。
だけど次の瞬間、予想外のことが起こってうやむやになる。
どこからともなく、明るい感じの音楽が流れてきたかと思えば、
「イェ~エェエェェ…(こんき~ん、こぉん…)ヲィ~ヲィィ~イィィィ~(ィィィ…)だんだっ、だんっだ、だらららららっ! どぅっだだらだ、だんだっ、だららららっ! どぅっだだらだ、どらだった、どぅっだだらだ、どらだった(しゃらーら!) ゴォォ(ハッ!) ズズ(ハッ! ハッ!) ズズ(ハッ!)ゴォォ(ハッ!) ズズ(ハッ!)ずぅしゅるりるりるっ! だーった、たた、しゅぅ。ガー、だーった、たた、しゅぅ、きん、ガー、だーった、たた、しゅぅ、きん、ガー、がばっ!」
オーサが踊った。
うしろ足で立って。くねくねとリズムに乗って。
「……???」
キデック先生が困惑している。
ぼくも意味がわからなさすぎて、頭が真っ白になってしまう。
やあやあそいそいと踊る猫、この世のものとは思えない珍妙さがある。
「どうだ」
「ごめん。説明してくれない?」
「さあ戦え」
だから説明してよ。
全力でふざけているか、煽っているようにしか見えないじゃん。
そりゃキデック先生だって、問答無用で戦闘態勢になっちゃうよ。
ぼくが戸惑う中、先生は長々と詠唱して新たな魔法を使う。
「――高位術式、地霊の守護。物理的な攻撃を無効化する魔法の盾。今の私はふざけた投石はおろか、鬼族の戦斧をもはじき飛ばす。お遊びの時間は終わりだ」
ご丁寧に解説しながら、淡い光に包まれた先生が近づいてくる。
オーサに助けを求めるものの、なぜかまた距離を取って眺めている。
ちょ、あれで放置はないでしょ。
「こ、来ないで……!」
「生娘のような台詞を吐くな。しかしまあ、無抵抗の君をなぶるのも楽しかろう」
マズい、このままだとボコボコにされる。
火球をぶっ放されるよりよっぽど怖い。
「我が身に満ちる創世の力、世界を変える波紋となりて万物を貫きゅ……」
はじき飛ばされるのは承知のうえで、ていうか途中で噛んじゃったけど、ぼくは一縷の望みをかけて魔法を使う。
「唸りぇ! ――飛石弾!!!!!」
「ぬ……!?」
キデック先生が、戸惑いの声をあげる。
そして次の瞬間、すさまじい衝撃波が吹き荒れた。
「え」
爆発した? そう思った。
耳がキーンと痺れ、土煙がもうもうと巻きあがる。
呆然としたまま前を見れば、ぼくの立つところから線を引いたように地面が穿たれ、はるか先にぽつんと、ズタボロになった先生が転がっていた。
「これはいったい……」
「どうにゃ、すごいだろ」
君、なにかしたの?
ふよふよと近寄ってきた猫サマに、疑惑のまなざしを向ける。
「お前の魔法を強化したにゃ。石を飛ばす速度が増幅され神速の域に達した結果、周囲に衝撃波を発生させ地表ごと削りとる。これぞ破壊の力。やみつきになるであろ?」
いや、むしろ怖いってば。
石を飛ばすだけでこの威力なら、炎とか出したらどうなっちゃうの。
ていうか先生、まだ生きているかな……。




