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ぼくの猫は破壊神 〜魔法学園の落ちこぼれ、最強の使い魔を復活させて成り上がる〜  作者: 芹沢政信
二章 禁呪を使ってしまったぼくが、先生に決闘を挑む話
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2-3 魔法使いの品格

 翌日の放課後。

 ぼくはキデック先生が待つ第二魔法実験室に向かう。


「なんだその青白い顔は。自習したときはイケそうだったのにゃろ?」

「今はどうかなって感じ……。もしかしたらやばいかも」


 弱気なぼくを見つめつつ、肩に乗ったオーサがふなっと笑う。猫サマのほうはさほど深刻に考えていないのか、気ままな様子で尻尾をぷらぷらと揺らしている。


「自信をもって臨めば、なるようになる。オーサは信じておるぞ」

「あ、そういうの逆にプレッシャーになるから」

「ではどう励ませばよいにゃ! めんどくさいやつめ!」


 オーサの言うことはもっともである。

 だけど不安なものは不安なのだから、どうしようもない。


「やれやれ。クラウン、ちょいと面を貸すにゃ」


 命令口調でそう言われたので、オーサのほうに顔を向ける。

 なんだかくすぐったいものが、ぼくの頬に触れた。


「特別サービスだぞ。これで多少はやる気が出るであろ」

「ん、今もしかして――」


 猫ちゃんにキスされたのでは? 

 ぼくが視線を向けると、オーサはふんと鼻を鳴らす。


「あはは。ありがと」

「おいこら待て、乙女のキスになんだその反応。顔を赤らめて照れるとか」

「どうして? 可愛いとは思ったけど」


 なにが気に入らないのか、オーサが不機嫌そうに睨みつけてくる。

 ていうか君、女の子だったのね。



 ◇



「遅かったな、クラウンくん。……言っておくが、私はよほどのことがないかぎり、君を不合格にするつもりでいる」


 しかし最初の一言で、早くも打ちのめされてしまった。

 キデック先生は時間ピッタリに来たぼくを見ようともせず、机上に積み重なった書類と格闘している。


「さすがに横暴ではにゃいか? お前は教師だろう」

「もうすこしで書類の整理が片づくから待っていろ」


 オーサの言葉は無視。いっそ清々しいほど。


『なあクラウン、こいつ滅ぼしていいか?』


 物騒な言葉が頭に響いてきたので、ぼくは無言で首を横に振る。


「……近頃は魔法使い同士のいざこざが多発していてな。ハクラム師が亡くなられたばかりで〈宮廷術師〉の座が一つ空いているからだろう。どいつもこいつも後釜を狙ってご苦労なことだ。おまけに暁の魔女団カヴンが出没しているという噂まである。これではなにも起こらないほうが不思議だよ」


 ひとしきりブツブツと呟いたあと、キデック先生はようやくこちらを見る。

 普段はローブのフードを深々とかぶり、真っ黒な布地から枯れ枝のような手足をのぞかせているけど、今はシャツ姿で、思いのほか若々しい顔をしているのがわかる。


「というわけで私は面倒を減らしたい。君のように手のかかる生徒が一人でもいなくなれば、余裕をもって数多の難事に対処できる。そうは思わないか?」

「ぼくは学園を去るつもりはありません。魔法の資質を持つものには平等に機会が与えられるはずではないのですか」

「私はその理念に賛同していない。魔法とは力であり、使い方次第では善にも悪にもなる。ゆえに資質だけでなく、品格によっても厳正に審査されるべきだ」

「スラム育ちの人間がお嫌いなのですね」

「否定はしない。ガードナーくんのように優秀なら目を瞑るが、君はどうにも出来が悪い。ならば早めに追いだすべきだ」

「なぜにゃ。クラウンは努力しているぞ」


 オーサが再び口を挟む。

 今度は先生も無視せず、静かに言葉を返す。


「だからなんだ。貧しい環境で育ったものは、心まで貧しくなる。それは汚れた身体を洗い流し、肌ざわりのよい服に着替えたところで変わるものではない」


 その声からにじみでているのは、差別意識とか嫌悪とか、そんな生易しい感情ではなかった。

 もっと激しい――純然たる憎しみだ。


「私はヒルズバック家の次男として、生まれたときから剣を握っていた。父は栄えある近衛隊長の名誉を預かっていたし、私自身もかつては王家の御前試合に招かれるほどの腕前だった。ところがあるとき――剣はこの身を裏切った」


 先生はそう言って、いきなりシャツの袖をまくる。

 その腕には、痛ましい刀傷が刻まれていた。


「スラムの乞食どもに背後から襲われたのだ。そのとき私は剣を携えておらず、逃げることも叶わなかった。やつらは無抵抗になった私を何度も傷つけ……今や利き腕を肩まであげることができん」


 ぼくはなにも言えなかった。

 言えるわけがなかった。


「金だけ奪っていけばよいものを、私はそれ以上のものまで奪われてしまった。とはいえその経験がこの心に火を灯し、魔法使いの資質を見いだしたわけだが」

「とはいえクラウンは関係なかろう。こやつはスラムの生まれかもしれぬ。しかし金銭のために他人を襲うような悪党ではないにゃ」

「……本当に? 私は彼のことをもっとよく知っているぞ」


 オーサが眉をひそめて、ぼくの顔を見る。


 泣きそうになった。

 だけど認めるほかない。


 なぜなら過去から逃げることはできなくて。

 ぼくは小さな友だちに、嘘をつきたくなかったからだ。


「先生の言うとおりです。ぼくは……ぼくとガードナーは、お金のために他人を襲っていました。資質だけでなく品格によって厳正に審査されていたなら、ぼくたちは魔法学園に入学することはできなかったでしょう」


 お願いだから。

 そんな顔で見つめないでくれよ、オーサ。

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