戦いのなかで
あたりには血のにおい、火薬のにおいが立ち込めている。ここは戦場。戦火はまだ収まらず、そこかしこで戦いの音が聞こえる。そんななか彼、イッシュは彼女と出会った。彼は傭兵という立場でこの戦いに参加していた。彼自身は自分のことを強いと自負していたし、実際ある戦いで敵将を単騎で落とすなどの戦果もあげていると強く、この戦いでも戦果を挙げるのは自分だと意気込んでいた。そして、あと少しで敵陣というところで立ちはだかったのが彼女だった。彼女は一人でイッシュの前に現れた。白く肩までかかる長い髪に地獄の業火より赤く暗い眼。彼女は自分を見ているようで見ていないような、まるで自分が勝つのは当然とでも言うような態度でこういった。
「なぜあなたはたたかうのですか」
理由なんてない。俺は傭兵だ。そう答えると、彼女はすごく悲しそうに眼を閉じた。その態度は今ここが戦いの場ではないような、まるで、期待していた答えではないものが返ってきて失望するかのような、そんな態度だった。たぶん俺はイラついていたんだと思う。その戦場にふさわしくない立ち振る舞いが。殺したくなくなるほどの整った顔立ちが。だから俺も問い返した、なぜ戦うのかと。彼女は眼と閉じたまま言う。
「ある人との約束のため。それが私の理由」
約束とは何か。そんなことを聞く場所は少なくとも戦場ではなく、かといって今から彼女と戦うこともしてはいけないような気がして、そしてなにより彼女のことをもっと知りたいと思ってしまった。たぶんそういう意味で俺は戦いに負けたのだろう。傭兵失格だなと思いながら、俺は彼女に問う。
「俺と二人でこの戦いを抜け出さないか。俺は君という人物をもっと知りたい。だから、どうか」
彼女は驚いたように、眼を見開いた。先ほどまでは暗い闇に覆われていた眼が、少しうれしそうに輝いた気がした。しかしその後すぐまた眼を暗くさせながら彼女は。
「私は呪いです。私に関わるとあなたは不幸になります。なので、関わらないでください」
そういって影のように消えていった。あらかた瞬間移動の魔法のたぐいを使ったのだろう。
また会えたなら、そのときは。そんなことを思いながら彼は戦いへ戻る。ここは戦場。戦いはまだ続く。