結『どうか』
ベッドからやっとの思いで這い出てカーテンを開ける。
いい天気だ。
時計を見るとすでに十二時を回っていた。
千佳が消えてから、三日。
僕の生活は堕落しきっていた。
すぐに仕事に復帰するつもりだったけど、社長にもうちょっと休んでいなさいと仕事禁止令をだされてしまった。
やることもないものだから、答えも出ないようなことを、ずっと考えていた。
そのおかげかはわからないけど、少しは前向きになれたと思う。
立ち直れたか? といわれれば、うんなんてとても言えないけれど、少なくとも悲しむのは止めた。
僕は千佳が言ったように、千佳は別の世界で生きていると信じることにした。
千佳が言うんだから間違いないだろう。
だから父さん母さん、悪いけど千佳はまだそっちにはいかない。
とはいってもやはり寂しい気持ちは隠せない。
本棚からアルバムを取り出して、ぱらぱらとめくる。
たくさんの笑顔がそこにあった。
昨日夜遅くまでかけて整理したかいがあったな。
例え顔が違っても、間違いなく千佳の笑顔だ。
どこかはわからないけれど、こことは違う別の場所でこの笑顔をふりまいてるに違いない。
そう思うと、少しは寂しさが紛れた。
さぁ今日は家の掃除をしよう。
ずっとしてなかったから、相当埃がたまっていることだろう。
それに明日からは仕事だ。
生活リズムをなおさなければ。
部屋から出ようとノブに手をかけたところで気づく。
しまった、今日はまだあれをやっていなかった。
あわてて引き返して、部屋の中央に移動する。
その場に跪いて胸の前で両手を結び、そっと、呟いた。
「どうか、今日も千佳が笑顔で過ごせますように」