○ 二人の希望(のぞみ) ○
◇◇◇
「・・・てめぇら・・・」
現れた人物と目が合い互いに固まってしまった。
その人物、リヒトは、何かを探している様子だった。
「・・・あぁ、いつかのちっさい奴らか・・・」
「「誰がちっさいだこらーーー!!!」」
カイキとクロウがそろってツッコむ。すかさずレイがなだめた。
「落ち着いて二人とも・・・」
「落ち着けるかーーーー!!!毎度毎度、会うたびにチビチビ言いやがって!!今度という今度はぶっ飛ばしてやる!!」
「意見が合うな!たまには俺達で仕掛けるか!!」
「ストップ。」
今にも飛び掛かりそうな二人を制して前に出たのは、レイだった。
「待って二人とも、先に彼と話がある。」
そう微笑んでから少しずつ二人の前に出てリヒトに近づくレイ、その様子にカイキ達はぽかんとしている。
適度な距離まで進み止まってリヒトに話しかけ始めるレイ。リヒトは静かにその場で留待っていてくれた。
「・・・君だよね?俺をサグまで連れて行ってくれたのは・・・おかげでこうしてまた家族と会えて、新しい仲間まで出来た。ちゃんとお礼を言ってなかったと思ってね、本当にありがとう・・・」
そうして一礼するレイを見て、リヒトは目をまん丸にさせていた。
「・・・あんた頭おかしいんじゃないのか?」
「そうかな?いたってフツーだけど。」
リヒトは半ば呆れた様子で答えるがレイはケロっとしている。
「・・・ハァ・・・あんたが助かったのはそこの奴らとそいつらが抱える創世龍のおかげだろうが・・・それに、一応俺達は敵同士だろう・・・礼を言うのはそいつらにじゃないのか?」
顔を背け、腕を組みながら話すリヒトに対し、レイはずっとにこやかに話し続けた。
「それでも、やっぱり君がいてくれたから家族とも再会出来たわけだし。下手したら今もまだ洗脳されて戦ってたかもしれない・・・だからやっぱり“ありがとう”だよ!」
笑顔で答えるレイを見て、リヒトは再び目を丸くしそして固まってしまった。
その様子を離れて見ていたファレル達は集まってコソコソ話している。
「・・・あれ、照れてるんですかね?」
「・・・なんか、かわいい・・・(ほっこり)」
「父さんにかかるとなんでも丸くなるのか!?」
「・・・ある意味最強か?お前のおやじ・・・」
ファレルにリイン、カイキにクロウが話していると、いきなり目の前の地面が何かの力で小さくえぐれたのだ。その跡を付けた近くには黒い帯状の魔力が砂利を落としながら空中に漂っていて、その帯を辿ると、リヒトのもとに辿りつく。攻撃をしたのは、リヒトだったのだ。
「・・・そこ、うるさいけど。」
どうやらコソコソ話が聞こえていたらしい・・・話していた皆はサーっと血の気が引いていくのが分かった。そんな中、ユウキだけが真顔でジー・・・っとリヒトを見つめていた。
その視線に気付いたリヒトが、ユウキと視線を合わせたままレイと話す。
「・・・つーか、あんたらまたちび増えたのか。」
ちびと言われたのに、ユウキは反応せずただじっとリヒトを見つめ続けている。
「新しい仲間だよ。珍しい力を持っているし身体能力も高くてとても頼りになる子だよ。」
レイが説明している間に、ツカツカとユウキはリヒトの真正面まで近づいて来ていた。
「うぉっ・・・なんだよ。」
さすがのリヒトも少し驚いていたが、それでもじっと見つめるユウキの事が気になって尋ねていた。するとユウキはゆっくり口を開いた。
「・・・・・・毛玉。」
「・・・・・・・・・はっ?」
唐突な一言に、リヒトのみならずその場に居た誰もがキョトンとしていた。
◇◇◇
集合場所まで飛んで帰っている最中、突如背中に直撃した物体は・・・・・・
『・・・・・・毛玉・・・?』
あまりの衝撃だったので、レッカは発動したままゆっくりとルイスを地上に下ろしてから人形に戻りその物体を両手で掬い上げるように持っていた。
そのままルイスに向き直る。
『・・・生きてる?』
「・・・・・・背中が死んでる・・・」
ルイスはうつぶせのままピクピクしていた・・・
「・・・つーか、お前普通に持ってるな・・・重くないの?かなりの衝撃だったぞ・・・」
ゆっくり体を起こしながら話すルイスに、レッカはうーんと唸っていた。
『んー・・・あたしがこんな身体だからかな?重さはそんなに感じないよ?見た目通りのフワフワだし。』
「そか・・・これ、生き物・・・?ただの毛玉でないのは確かだよな・・・」
二人でそれにツンツンしたりモミモミしていると・・・
「・・・・・・おなか・・・すいたでしゅ・・・」
「『・・・・・・はっ!!?』」
突然、言葉を発したのだった・・・
◇◇◇
「・・・はぐはぐはぐ・・・んーーー!おいしいでしゅ!!」
「・・・あーそれはよかったなぁ・・・」
毛玉のような物体のそれは丸っこい手足を出して食べ物を掴み勢いよく口に突っ込んでいく・・・一体その体のどこにそれだけ入る胃袋があるのか・・・
『近くに木の実なっててよかったねー。』
「・・・俺が持ってた携帯食まで全部食っちまいやがったけどな!」
どんどん食べていく毛玉に怒りを覚えるルイス。しかし・・・
「・・・ふぅ!どうもありがとうでしゅ!おかげでおなかいっぱいになったでしゅ!たしゅかりましたでしゅ!!」
(お礼言った・・・!!!)
その光景に衝撃を覚えつつ、レッカはそれを優しく撫でながら本題に入った。
『ねぇ、君は何者なの?名前はあるの?一体どこから来たの?』
レッカのなでなでを受けていたら、それは質問には答えずに目がトロンとしてきていた。
「んー・・・あなたのおてて・・・きもち・・・いいでしゅ・・・ぽかぽかして・・・まるで・・・リヒトしゃまみたいな・・・ぷー・・・」
「『っ!!??』」
そのままそれは寝息を立て始めた。
あまりの衝撃の一言に、ルイス達は一瞬固まってしまった。
「・・・おい、今・・・お前なんて言った・・・『リヒト』って言ったか!!?」
『それって・・・あたし達が知ってる、あの人の事しかないよねぇ・・・?』
もう一度確認するために、ルイスはそれを両手で鷲掴みにして起こそうとした。
「おい!リヒトって言ったか!?お前あいつの知り合いか!!?何を知っている!!」
半ば強引にゆすりながら起こそうとするが、それは一向に起きる気配がない。
「ぷー・・・ぷー・・・ぷー・・・」
「起きろーーー!!!!」
そこでレッカはルイスの肩を掴んで止めたのだった。
『今はこの子連れて皆のもとに戻ろう!話はそれからだよ!!』
「そうだなっ!レッカ頼む!」
ルイスの声を合図にレッカは発動して身体を剣の羽にしてルイスの背中についた。
その時に気付いた・・・その毛玉の重さが、軽くなっていることに・・・
「・・・寝ているからか・・・?ほんと何者なんだコイツ・・・」
そうしてルイスは、正体の分からない毛玉を掴みながら再び飛び去っていったのだった・・・
◇◇◇
「・・・毛玉・・・が、頭についてるのが視える・・・」
「・・・・・・はぁ!?」
リヒトに向かって指をさしながら話すユウキが何を言っているのか・・・誰にも理解は出来なかった。
「ちょっと・・・ユウキ・・・?どういう意味です?どこにも毛玉なんてありませんよ?」
ファレルの言葉に、ユウキは顔を横に振る。
「んーん、違う。皆が思ってる物じゃない。オレが言ってるのは生きてるし。」
その言葉を聞いて、リヒトはハッとした。
「・・・おいちび、お前・・・もしかして過去とか視えるわけ?」
その言葉に、今度はレイが反応した。
「ん、どうして過去なの?」
「・・・多分、こいつが言ってる毛玉は、さっきまで一緒にいたやつだ。そいつを探してここまで来てたんだよ。だからかと・・・」
「あぁ、なるほど!さっきの感じはそういう事だったんですね!」
再会した瞬間の様子を、ファレルは思い出していた。確かに、何かを呼んでいるような言葉だったからだ。
「・・・って、生きてる毛玉ってなんだそれ?」
クロウが訝し気な表情で言う。
「俺も知らん、たまたま俺に落ちてきたから拾っただけだ。そしたらおいしい匂いがするとか言って急にどっかに飛んで行くし・・・面倒極まりないんだが・・・」
疲れたといった表情で思いっきりため息をつくリヒトを見て、レイはまたにこやかに言う。
「やっぱり!君は優しいじゃないか!」
「・・・はぁ!!?」
何言ってんだとリヒトが言い返そうとした時、ユウキが口を開いた。
「その毛玉、近いうちに消えるよ。」
その一言に、その場が一気に凍り付いた。今まで感じなかった殺気が一瞬で広がったからだ・・・リヒトから・・・
「・・・てめぇ・・・何言ってやがる・・・」
殺意に満ちたその表情はゆっくりとユウキを捕える。皆一斉に警戒するが、ユウキは気にすることなく話を続ける。
「オレが視るのは未来だけ、過去は視えない・・・そしていつ起こる事かも分からない、けどそう遠くない未来、その毛玉が傷つくことが起こる。」
話が終わらないうちにリヒトは左手でユウキの胸ぐらを掴んでいた。けれどもユウキはそのまま話を続ける。
「そしてその毛玉を守る為に、あんたが血だらけになってる。」
「・・・は?」
すでにリヒトが右手で握りこぶしをつくっていた時・・・声が、聞こえてきた。
「・・・・・・まー・・・・・・しゃまー・・・!」
だんだんとその声は大きくなり、皆がその正体を確認する時には、それはリヒトに向かって飛んできていた。
「リーヒートーしゃーまーーーーー!!!やっとあえたでしゅーーーーーーー!!!」
「ぶわ!!」
勢いそのままにリヒトの顔面に飛んできたそれのおかげで、リヒトはユウキを掴んでいた手を離していた。
「・・・っ!おっまえ!今まで勝手にどこ行ってた!!?」
顔面に飛びついた毛玉を片手で引き剥がして説教をするリヒトに、その毛玉はプルプル震えていた。
「ひーん!ごめんなさいでしゅーーー!!!」
その光景を見ていたファレル達は一か所に集まって和んでいた。
「あれが・・・探していた毛玉?」
「さっき視たやつだ。」
「え、魔物!?何あれ!」
「・・・やだ、カワイイ・・・!」
「・・・リイン好きそうだね・・・」
そんな中、レイはフムッと考え込んでいてクロウも何か感じている様子だった・・・
「この感じ・・・なんだ?」
その間もリヒトのお説教は続いていたが、その途中毛玉が気になる事を言っていた。
「それででしゅね!やさしいひとたちがいっぱいごはんくれたでしゅ!!なでなでしてくれたおててがぽかぽかできもちよかったでしゅー♪」
小さい手足を精一杯動かしながら嬉しそうに話す毛玉。
その言葉を聞いて、リヒトとファレルは一瞬で気がついた。
それが一体誰の事なのかを・・・
「・・・・・・チッ!」
苦々しくリヒトは舌打ちすると、毛玉を鷲掴みにしたまま来た道に振り返った。
「・・・・・・俺は借りは作らない。コイツが世話になっちまった代わりにいい事教えてやるよ。」
リヒトはそのまま体の向きは変えずに、右手を横に垂直に上げその先に人差し指を向けた。
「・・・この先に、片割れはいるぜ。どういう状態かは、自分の目で確かめればいい。やつが移動する前に間に合えばいいな?」
そう言うと、リヒトはこちらを見向きもせずそのまま歩き出してしまった・・・その後ろ姿を見つめながらレイはボソッと呟いた。
「・・・やっぱり君は、優しいよ・・・」
リヒト達の姿が見えなくなるまで、皆静かに見送っていた・・・
「・・・・・・さて。」
静けさが残る中、唐突にファレルが腕を組みながら話を切り出した。
「・・・さっきの毛玉について、何か気づいたことでもあるんですか?ルイス?」
「「え゛!」」
ファレルのまさかの一言に、その場にいた誰もが驚いていた。
名を呼ばれた本人は、物陰でギクッとなっていた・・・そして恐る恐る、ルイスはレッカとともにゆっくり出てきたのだった。
「・・・バレてたか・・・」
「アレでバレてないと思ってたんですか?恐らくリヒトも気づいていたと思いますよ・・・他は気づいてなかったみたいですが。」
そう言いながらカイキ達の方を見るファレル。それを受けカイキ達も反論する。
「いつ戻ってたの!?気づいてたなら言ってよ!」
「彼とあの可愛い子に気を取られてたからね~・・・」
さっきの出来事を思い出しながらリインは話す、それを聞いてファレルが話を戻した。
「それで?あの毛玉を連れて来たのはルイス達ですよね?一体なんなんですかアレは。」
「まぁ~・・・連れてかざるをえなかったと言うか・・・」
どう言おうか考えながら、ゆっくり話すルイス。
「・・・物凄い勢いで激突してきたんだよ・・・俺の背中に・・・」
「・・・・・・ん?」
「腹が減ったって言うから食い物やってさ、そしたらリヒトの名前呟いて寝ちまったから一緒に連れて来たんだよ。」
話に区切りが着いたところでファレルが尋ねる。
「なんか・・・重量感のある言い方ですね?あんなモフモフでしたけど・・・」
「・・・あぁ、これは俺の推測だけど・・・」
間を置いて、ルイスは話す。
「恐らくあれは、感情で重さが変化してるんだ。だから何故か懐かれてるリヒトは普通に持ててるんだろうな。それ以外はマジで何もわからん、聞く前に逃げられたし。」
「な、なるほど・・・?」
そして皆でうーん・・・と唸る。
「そして、あの身体は聖なる力・・・光属性で出来てる。だから本当に魔物かどうかも怪しいな。」
それを聞いてクロウがハッとする。
「なんか変な感じがしたのはそのせいか・・・」
「あ、クロウ君も気づいてたんだ。」
それにレイが反応した。
「あの毛玉が特殊なのは間違いない、それとさっきのユウキの予知もある。これからも気にしてた方がいいだろう。」
ルイスの言葉を聞いて、皆静かになった。
「結局、なんなんでしょうね?」
すると、空気を入れ替えるようにレイが明るく話し始める。
「ま、今はとりあえず休むことじゃない?せっかく皆揃ったしクロト君がいるって確証得られたじゃない。」
そう、リヒトが指さした方角はこれから向かう『リュー』と同じ方角で、片割れと言うのはクロトの事しか思い浮かばなかった。
「・・・そうだな。それだけでも前進だ。今は寝て、明日早めに出るか!」
その一言で、黒ファレルが発動してしまった・・・・・・
「ア・ン・タ・を!待ってたんですけどね!!!(にっこー)」
「・・・すんません・・・」
それからしばらくの間、ファレルの文句が続いたのだった・・・・・・
◆◆◆
「・・・なんでよりにもよってアイツの世話になってんだ・・・」
「ぷ?」
完全に日が落ちた森の中、とある木の上でポルンにご飯を与えながらリヒトは舌打ち混じりに呟いていた。
「・・・リヒトしゃま、あのひとたちのことしってるんでしゅか?」
「いつか倒す相手だ。」
食事が終わるのを座って待ちながら素っ気なく説明するリヒト。するとポルンは、食べカスを口の周りに付けながらパタパタとリヒトの膝の上に飛んできた。
「でも、やさしかったでしゅよ?」
「・・・とりあえず口拭け。」
そのまま自分の手でゴシゴシと少し乱暴に拭くリヒト。そして再び視線をポルンから外したのだった。
「・・・あいつらのとこが良かったらいても良かったんだぞ?」
「・・・ふぇ?」
その一言以降、黙ってしまったリヒトをじっと見つめるポルン。
あまりにも突然の一言で、ポルンには理解するのに時間が掛かってしまったのだ。
そしてようやく理解した時・・・
―――――― ズシッ!! ――――――
「っ!!?」
自身の重量を増やしたのだった。
「おっま!!急に重くなるんじゃねぇ!どけ!!」
膝の上に掛かる重量を急いで退けようとリヒトはポルンを掴むが・・・
「なんでそんなこというんでしゅか!!!」
「!?」
ポルンの言葉に、そのまま固まってしまった。
「ボクはリヒトしゃまがいいんでしゅ!みんなしゅきだけど、リヒトしゃまがいちばんでしゅ!リヒトしゃまとはなれたくないでしゅ!そんなかなしいこといわないでほしいでしゅーーー!!!」
目から大粒の涙をボロボロ流しながら叫ぶポルンを見て、リヒトは掴んでいた手を緩め、その手でゆっくり撫で始めた。
「・・・・・・わるい。」
「ぅ~!ぐすっ!!」
ポルンはしばらく泣き止まなかった・・・その間、リヒトはずっと撫で続けていた。
やがて泣き疲れたのか、ポルンはそのまま眠ってしまった。
そっと手を添えながら、リヒトは空を仰いでいた。
「・・・俺は、優しくなんかない・・・」
リヒトの言葉が、夜の帳に静かに響く。
「大事なものを守れなかった・・・せめて、こいつだけでも・・・」
いつの間にか、2人の姿は闇に紛れて消えていたのだった・・・・・・
◆◆◆




