● 救出作戦(その1) ●
だいぶ長くなってますがもう少し続きます
◇◇◇
「大体の話は分かった。ならこのまま協力してくれるって事でいいんだよな?」
ゲイルの話を聞いてから、これからの行動について語る。
「もちろんよ!イヤと言ってもついて行くつもりだったワよ!!あの子を助けるまでは何があったって死ねないワ!!」
・・・話を聞いた時から思っていたが・・・
「・・・お前、なんかやたらとその子に入れ込んでるな?珍しくないか?」
普段のゲイルも熱は凄いが、その少年に関してはいつも以上に熱い気がする。
「・・・だってあの子だけだもの・・・人間の親友なんて。」
寂しく笑うゲイルを見て、その少年がどれだけ大切な存在なのか皆伝わった。
「・・・必ず助け出そう、そいつも。他の皆も!」
「ええ!!」
決意を新たに動こうとした時、リインが口を開いた。
「あ、でも・・・潜入はどうするの?入るのはよくても手配されてるからやっぱり危ないんじゃ・・・」
それを聞いてカイキはレイの方を振り向く。
「父さんはまだ魔力は・・・」
「あとちょい待って・・・(汗)」
レイは自分の顔の前で無理だと手を横に振った。
それらを見てゲイルが一際まばゆい笑顔を作る。
「それなら任せて!!」
バチーンッとウインクを決めながらどこかから何かのブラシを取り出すゲイルを見て、男子一同は嫌な予感しかしなかった・・・リインはなぜかキラキラした眼差しを向けていたが・・・
◇◇◇
「おや、初めて見る顔だね。家族で見学かい?」
市場に入ると、メインストリートが目の前に広がり出店のようなものもたくさん並べられていた。
そのうちの一つ、入り口に近い出店の主人が声をかけてきた。
「・・・あぁ、珍しいやつを仕入れたと風の噂で聞いてね。ちょうど新しい使用人も欲しかったし見に来たんだ。どんな子達がいるのか楽しみだよ。」
「そうか、ならちょうどよかったな。今日はその珍しいのが目玉として売り出されるそうだよ。奥の広場だ、行ってみるといい。」
「あぁ、ありがとう・・・」
今俺達は二手に分かれて市場に入っている。俺とカイキ、キリヤと・・・ゲイルの四人だ。無事に最初の関門も突破しこのまま進んでいく。
「・・・気づかれなかったね。」
「モッチロン!アタシの腕のお陰よね!!(バチン☆)」
「はいはい・・・」
ウインク決めてくるゲイルだが俺は聞き流す。
俺達は皆、ゲイルのメイクで全くの別人に変装出来ている。キリヤに至っては特殊メイクでれっきとした人間に見えるほど、その腕は一流だった。
「まさかお前にこんな才能があるとはなぁ・・・」
「あら、メイクは乙女の嗜みでしょ!?出来て当たり前じゃないの!」
「・・・ツッコミどころがいっぱいだよ!!」
ゲイルは・・・ムッキムキの男性に化けてなおかつこのキャラでこのメイク・・・他の皆へのメイクは上手いのになぁ・・・
そう考えていた時、ゲイルはキリヤをじっくり見ていた。
「・・・あなたの身体はあれだったから想像で顔は作ったけど・・・あなたも色男の匂いがするワ・・・!」
「ヒッ・・・!!」(ゾワッ)
すっかり怯えてしまったキリヤはカイキの背に隠れてしまった。俺は慌ててゲイルの首根っこを掴んで止める。
「襲うな襲うな!そいつは彼女いるからな!誰彼構わず狙うんじゃねぇ!」
「ブー・・・」
ぶすくれるゲイルを連れそのまま進んでいく。真っすぐメインストリートは広がり、その両側に出店が並んでいる。それらの間に小さな脇道があるがその先はどうやら住居が並んでいるようだった・・・この隔離された奴隷市場で暮らしている者がいるのだ・・・そして奴隷目当てにやってくる客も多い、ある意味予想通り、賑わっていた。
「・・・目玉の売り出しがあるって言ってたね。それがゲイルの言ってた子かな?」
移動しながらカイキがボソッと聞いて来た。それに答える前にゲイルが答えた。
「・・・間違いないワ、あの子の匂いがするもの・・・!」
「・・・売り出しまでまだ時間があるようだ・・・様子を見ながら仕掛けるぞ・・・!」
少しずつ、その広場に近づいていく・・・
◇◇◇
~ファレルサイド~
「・・・上手く入れたね。」
「・・・まさかこうも別人になれるとは・・・」
市場の門をくぐりメインストリートを少し進んだところにある小休憩スペースで休みながらゲイルの腕に感心していた。こちらはルイス達よりも後から中に入ったチーム。ファレル、レイ、リイン、クロウの四人だ。クロウに関しては変身せず、ファレルのフードの中に入っている。ファレルがフードを被り、その隙間にクロウが潜っている感じだ。
「・・・しっかしゲイルの奴・・・変身魔法で服装まで変えやがった・・・だったら別にめいくしなくてもよかったんじゃないか・・・?」
と、クロウがボヤく。
確かにゲイルは見た目に反して思った以上の実力の持ち主だ。この人数変身させるのも容易い事だろう。しかし、この質問を見越してかレイが説明を始める。
「魔法は使う範囲が広ければ広いほど魔力を探知されやすい。今回みたいな敵に気づかれないようにしたい時はこれぐらいの方がいいんだよ。それにこの地方は魔力がそれなりに満ちているほうだし、少しくらい魔法使っても気づかれないよ。そもそも着替える暇なんか無かったしね。」
「まぁ・・・確かに。」
その説明でクロウも納得したようだ。
今回の事件は被害者が沢山いる。なるべく全員を助け出せればいいのだが・・・
「ここで・・・奴隷を・・・」
リインは苦しそうに、賑わうこの市場を見回している。ここに入った時からルイス達とは別行動になっているので不安も少しはあるのだろう・・・それと同時に、怒りもあるのだろう。
「・・・ここにいる人達も・・・客って事だよね・・・こんな事・・・許せない・・・!」
怒りをあらわにするリインを、ファレルはいさめる。
「リイン、冷静になってください。顔に出ていますよ。気づかれてしまいます。」
その言葉に、ハッとなるリイン。思わず両手を顔に当てていた。
「・・・ごめんなさい・・・私・・・」
「・・・ま、気持ちは分かりますけどね。」
だからこそ、必ず助けなければならない。確実に成功させるために手分けしているのだ。
「・・・失敗は出来ません。ルイス達の合図を待ちましょう。」
周りに目を配りながら、静かに話す。
ファレル達はさらに深く潜入するチーム。閉じ込められているであろう他の奴隷達をすべて開放するために、目立たず、潜らなければならない。
「ルイス君達が暴れて警備が手薄になった時が合図だよね。」
改めて作戦を確認することに。
「えぇ。だから服装も動きやすく地味なのになってますよ。メンバーも潜入にはうってつけでしょう。」
結界を張れて治癒も出来るファレルとレイ。狭い所でも格闘できるリイン。クロウは変身しなければ小さくコンパクトだ。鼻も利くから被害者も探しやすい。
「・・・ま、問題はどっから入ってどっから残りの被害者探し出すかって事ですが・・・」
市場に入り込むまでは成功した。しかしこっちのチームはここからが問題だ。被害者は一人ではない、必ずどこかに奴隷を捕まえておく部屋があるはずだ。
「クロウ君匂いで分かんないの?」
「いやこんなうじゃうじゃ人間いる中で探せるわけないだろ!?せめてもう少し減ればなんとか・・・」
レイとクロウが話す。確かにこう客で賑わっていれば・・・けど大体のあたりは付けてある。
「・・・ま、すべては合図があってからですね・・・」
そうつぶやいた時だった。
「おい、なんか広場の方騒がしくないか?」
「あ、煙出てるよ!」
何やら客が指を指しながら騒ぎ始めていた。その見つめる先に振り向くと、何やらメインストリートの先、広場と言われる場所から確かに煙が上がっていた。まだ地響きのような音もする。
「うーん?あの塀があるとこが広場?なんか闘技場みたいな外観だねぇ・・・」
手を筒状にして目に当て眺めるレイ。見ると確かに高い塀がまぁるく続いているようだ・・・なるほど広場でさえ隔離されているらしい・・・だがこれは・・・
「・・・今ですね。」
ファレルの一言に皆が振り向く。周りの客達は興味本位もあってほとんどその広場の方に走って行っている。
「この流れに乗りますよ、レイ。」
「ん、りょーかい。」
動作を少なく、皆に指示を出しながら動き出す。このチームのミッション開始だ・・・!
◇◇◇
ファレル達が動き出す、
その、少し前・・・・・・
~ルイスサイド~
「人多いな・・・」
「・・・よっと、失礼。」
噂の広場にやって来た俺達。そこは闘技場のような形になっていて真ん中のステージを中心に客席が三階に分かれて広がっている。俺達はその入り口から順に入りステージが見えやすい三階の方に移動していく。
「いやん、もう狭いわね!」
「・・・静かにしろよ・・・」
ゲイルは俺の肩に手を置きながら進む。その後ろをキリヤとカイキが続く。程よいとこまで来た所で席が埋まって来たのでそのままそこに座り、皆も続く。
「ここならよく見えるね。」
「あとは時間が来るのを待つだけか・・・」
ここも客で賑わっている。まだステージに誰もいないが、人々は席を確保しながら噂の目玉商品が出てくるのを待ち望んでいるんだろう。
「・・・胸くそ悪いな・・・気持ち悪い・・・」
「カイキ君大丈夫・・・?」
苦しい顔をするカイキを心配するキリヤ。ゲイルはステージを睨みつけている。
「・・・匂いはするもの・・・必ずいる・・・!待ってて・・・!!」
ざわざわ賑わう客席が埋まろうとした時、中央ステージに向かって裏方から一人の男が現れた。その手にはマイクを持っている。
『さぁお待たせしましたー!今日はとっておきの商品、未来を視ることが出来る少年だー!!玩具にするもよし、先を視て金儲けするもよし!さぁあなたはどう使う!?』
その掛け声とともに手を差し向ける司会と思われるその男。男の手が向く先に観客一同目を向ける、すると司会の男が出てきた所と同じ所から鎖で繋がれた少年とその鎖を持って少年を引っ張ってくる男が現れた。少年はすでにボロボロで裸足でペタペタと歩いてくる。鎖を引く男の所まで歩くと、その後はじっと下を向いたまま動かなくなった。
—————— ワアアァァァァ!! ——————
観客の歓声で響き渡る広場。中には野次を飛ばす者もいたが。
「おいホントに未来視えるのかよー!」
「ハハッ!すでにボロ雑巾じゃないか!ちゃんと使えるのか!?」
「・・・こいつら・・・」
聞いてるだけで気持ち悪くなってきた。ここは闘技場のような形のせいで負の感情が塊のように集まり中心のステージに溜まっている。それはどす黒い魔力となって満ちていた。
「・・・酷いな・・・俺より年下くらいなんじゃないの・・・?」
口を押えながら呟くカイキ。確かにその少年は背丈がカイキより少し小さいようだ。そもそも酷い扱いを受けていたのだろう・・・全身ボロボロでかなり痩せている方だった。
—————— 五千・・・!六千・・・! ——————
いつの間にか一千万からの値が付いており、どんどん上がっていっていた。
周りは立ち上がる者も現れ、あの少年を自分が買おうと大いに盛り上がっている。その間、俺は彼の状態を確認しようと静かに見ていたら・・・・・・
彼はゆっくり顔を上げ、こちらを見たのだ。
「・・・・・・」
「っ!?」
こんなに大勢いる中、たった一人の俺を、確かに見たのだ。
「?ルイス君・・・どうし・・・」
そんな俺に気づいたキリヤが尋ねようとしたが、止まった。
「あれ・・・ゲイルさんは・・・?」
俺とキリヤの間に並び座っていたはずのゲイルの姿は、影も形も無かった。
「え・・・」
「はぁ!?」
思わず声を上げてしまったが、他の客達はステージに注目しているしこの騒ぎで全く気付いていなかった。
「・・・まさかあいつ・・・!」
その時、客達がどよめきだした。皆ステージに目を向けていて、俺達もそれに気付いて振り向く。
そこには、先ほどまで動かなかった少年がマイクを持つ男に向かって指を指していた。
「・・・ん?なんだなんだ?どうやらさっそくその力を披露してくれるようだぞ!」
マイクの男は上手く盛り上がる事を言う。しかし、少年が発した言葉は思いもよらぬものだった。
「・・・お前、あと五秒後に潰されるぞ。」
それを聞いてマイクの男だけじゃなく観客までも一気に固まった。
「・・・はは、面白い事を言うなぁ・・・まだ躾が足りないかぁ!?」
マイクの男はあくまで笑顔を絶やさないよう努めながら少年の胸ぐらを掴む。
それとほぼ同時だった。
「・・・ユウちゃんに・・・何すんのよーーーー!!!!」
マイクの男の上から、ゲイルが落ちて来た・・・
あの見失った時に空に飛びあがっていたらしい。男にめがけて見事なドラゴンキックを決めたゲイル、まさに男は潰されたのだ・・・
「グハァ・・・!!」
そのまま足蹴にするゲイル。男の体はぴくぴく震えていた。
ゲイルはそんな男に見向きもせず少年の方に飛びついた。
「ユウちゃーん!大丈夫!?痛いとこない!??もう心配したんだからーーー!!!!」
ギュっと抱きしめるゲイルの姿を、観客はぽかんと眺めていた。
俺は頭を抱えているが・・・
「あのバカ・・・」
「思いっきり行っちゃったね・・・」
「・・・どうする?」
その時に気が付いた。よく見るとぽかんとしていたのは観客だけではなかった。
「・・・ルー、なんでここに・・・」
ゲイルに抱きしめられているあの少年も驚いていた。ゲイルも気になったようだ。
「アラヤダ、ユウちゃんが未来視たんでしょ?アタシ来るの分かってたんじゃないの?」
「いや、オレが視たのはルーじゃなくて・・・」
その時、ゲイルに潰されたままだった男がようやく口を開いた。
「・・・ぐ、この・・・誰だか知らんが・・・いつまで乗っている!!」
力を込め一気に立ち上がった男によってよろめいてしまったゲイルは、少年を抱きかかえたまま一度飛び退いて距離を取った。
「おっと、意外と丈夫なのね。」
「ハァ・・・ハァ・・・悪いがそいつは大事な商品だ。邪魔しないでもらおうか。」
息を切らしながら男は話す。が、ゲイルは慌てる様子はない。顔に手を添えながら笑っている。
「アラ、本性出たワね。一体どうしてくれるのかしら?」
あからさまに挑発するゲイル。それを受け男は不敵な笑みを浮かべながら、何かの合図のように右手を上げた。
「・・・ハッ!いいだろう、見せてやる。ここに出たことを後悔させてやろう・・・」
その言葉に少年は警戒した。
「っ!あぶな——————」
これ以上待たせるわけにはいかないからな。
—————— ゴッ!!! ——————
「ガッ!!」
男が何か指示を出す前に、俺が踏みつけた。もう一度男は顔を地面に埋める羽目になった・・・
「・・・悪いな。少し黙っててくれ。」
「ルイスちゃん!!遅かったじゃない!!」
男を見下す俺を見てゲイルが一気にテンションを上げてきた。俺は男から降りて頭を抱えながら二人のもとに歩いて行く。
「・・・お前が勝手に飛び出したんだろうが!!」
「だってぇー!居ても立っても居られなかったんだもの!!」
ゲイルと話している間、少年はじっと俺を見ていた。
「ん・・・お前だな、ゲイルが言っていたのは。お前にはいろいろ聞きたい事もあるがまずは・・・」
その時、男が立ち上がった。
「・・・次から・・・次へと・・・!そうか・・・今日を選んだのはこの為か・・・ユウキィィィ!!!」
少年を睨みつけ噛みしめながら叫ぶ男。俺はゲイル達二人を庇うように前に立って言う。
「・・・悪いがこれ以上好き勝手はさせないぜ?」
そしてマントを翻しながら一瞬で変装を解く。本来の姿に戻った俺の姿を見て男は驚愕していた。
「っ!その剣・・・貴様・・・剣の破壊者か!!!」
「さすがに分かるか・・・さっきの奴らから聞いたか?」
俺のその姿を見て、少年が答える。
「・・・あんただよ、オレが視た未来は・・・さっきの時、あの男を踏みつけたのはあんただった。」
先程のゲイルの質問の答えだった。どうやらゲイルの執念が未来を少し変えたようだな・・・
「アラヤダ!アタシったらルイスちゃんのお株奪っちゃったのね!?」
ハッと口を押えながら話すゲイル。
「・・・お前はもうちょっと黙ってろ・・・」
ゲイルの様子に緊張感が抜けてしまう・・・まぁ、自然体で柔軟に動けやすくなるとでも言うべきか・・・
—————— ・・・おいおいせっかくのイベントが台無しだろー!! ——————
—————— 邪魔だー!どっか行けーー!! ——————
ステージに物を投げながら野次を飛ばす観客達。それらが俺達に近づいて来た時、キィンッ!とすべて弾かれたのだ。
「物投げるのはよくないんじゃない?」
弾いたのはカイキの鎖鎌だった。キリヤも後ろに続いて来ている。二人共下に降りて来ていたようだった。ちょうど男を挟んだ俺達の反対側から歩いて来ている・・・まだ変装しているままだけど。
「悪いな、二人とも。」
「これくらいチョロいって!いつ出ようか迷ったけど(笑)」
「ルイス君も出ちゃったからねー・・・正直客席は心細かった・・・(泣)」
・・・感情がこれほど対照的とは・・・
「・・・何なんだ・・・お前達は・・・!!!」
男は交互に俺達を見わたす。カイキ達の登場で観客も再び静かになった。
「・・・ハッ!」
俺は広場すべてに聞こえるように大声で叫ぶ。
「破壊者一行だ。お前等にやるわけにはいかない・・・このガキは・・・俺達が貰いうける!!!」
◇◇◇




