● 騒乱パニック ●
◇◇◇
「事件って・・・一体何があった・・・」
話を聞こうとした時、コルスが何かに反応し外に目を見やる。
「っ!待て・・・何か・・・来る!」
その言葉とほぼ同時に、部屋にレゾルトの部下が大慌てで入って来た。
「た、大変です!!この町に三台・・・車が向かって来ています!!」
「なんだと!!?」
レゾルトが慌てている。
車・・・?・・・・・・まさか・・・!!
「お前達は奥の部屋に行っていろ!決して出てくるんじゃないぞ!」
そうレゾルトは告げると、部下を連れて急いで表に出て行く。俺はレゾルトの言うとおりに皆を奥の部屋へ連れて行く。
「ちょちょっとルイス・・・何が起こってるんです!?」
「しっ!・・・そこに窓があるな・・・こっそり覗くぞ。」
皆慌てているが、俺の指示通り静かにしてその部屋にある窓を囲むようにしゃがみ込んで外の様子を覗いた。
ちょうどレゾルト達も外に出て、こちらに来ているその車を迎えに行っている。町の皆も不安そうに眺めていた。
・・・向かって来たのは、俺が予想した通りの奴らだった・・・
「・・・チッ・・・タイミングが良いというか・・・」
俺は思わず舌打ちしてしまう。
そして車は署の前で止まる。レゾルト達は険しい表情をしながら敬礼をした。
車から降りて来たのは・・・政府軍の奴らだった・・・・・・
◇◇◇
「その後変わりはないかな?」
「えぇもちろん!報告している通りですよ!」
三台の車から二、三人ずつ、計七人降りてきてスタスタ署の方に進んでいく。奴らはレゾルトと会話しながらも一度も目を合わさなかった。そのまま話しながら署の中に入ってくる。俺達は窓から体を離し入って来た扉の方に静かに移動し聞き耳を立てる。
「今日は一体どのようなご用件で・・・」
レゾルトは席を勧めながら話を切り出すが奴らは見向きもせず座ろうとはしなかった。
一人は壁にもたれかかったり一人は窓の外を眺めたり・・・各々自由にしていた。その内の一人が、レゾルトに何やら紙を差し出す。
「・・・今日は手配書が更新されたので持ってきたのだ・・・新たに二人、クロウ・シージュレインとルイスだ。残りは変わらず、そのまま捜索を続けるように・・・この二人だけは生きたまま捕らえよ。」
「「!!!」」
・・・聞いていた俺達も愕然とした・・・
レゾルトは恐る恐る問う・・・
「・・・他の者は・・・死んでもかまわない・・・と言う事でありますか・・・?」
「・・・ハッ!」
奴らは鼻で笑う・・・
「まさかかわいそう、とでも思っているのか・・・?奴らは逆賊、情などかける必要は何処にもない!」
「・・・あまり肩入れすると、貴殿も逆賊とみなされますぞ・・・?」
「・・・っ!!!」
・・・レゾルト達は言葉が出なかった・・・
今までの事を聞いていたカイキ達も、怒りをあらわにしている。
「・・・なんなんだあれっ(ムグッ!)」
カイキは叫びそうになったから急いで口をふさいだ。
「(落ち着け!!今気づかれると俺達もレゾルト達もヤバいんだ!!)」
「フガッムググー!(でも、あいつらー!)」
「(手配書って・・・私達も!?)」
「(まぁ・・・捕まってたところから逃げ出してるからねー・・・)」
その時だった・・・・・・
「・・・そこ、何かいるな・・・?」
政府軍の一人が、こちらに気が付いたのだ・・・
「「!!」」
俺もレゾルトも息が止まる。
そしてその一人は、コツコツとこちらに近づいてくる。
「ちょっと待・・・!!」
レゾルトが急いで止めようとするが、奴らは聞く耳を持たない。
「おや、やましいことが無ければ開けて構いませんよね?」
「・・・まさか我等に見せられないものがあるのですか・・・?」
「ぐ・・・!」
これ以上止めれば、確実に敵とみなされる・・・レゾルトもその部下達も、言葉を飲み込みもう動けなかった・・・
そうしているうちに、政府軍の一人は俺達がいる部屋の扉の前まで来ていた。今にも扉に手をかけ開けようとしている。
「(お前ら!とりあえず下がれ!!)」
「(下がれっつったって何処に・・・!)」
皆必死に小声にしていたがパニックになっているのは明らかだった。こうなりゃ戦うか・・・と武器を構えようとした時・・・
「・・・仕方ないか・・・」
ボソッとレイが呟き、指をパチンとならす。
状況を理解しようとしたと同時にそれは変化し、そして扉が開いた。
—————— ガチャッ!! ——————
「・・・・・・」
扉を開けたそいつも一緒に覗いてた他の政府軍の奴らも、固まっていた・・・
その部屋にいたのは・・・
「・・・二、ニャー・・・?」
「ワンッ!」
部屋にいた俺達は、犬や猫の動物になっていたのだ。
「猫・・・と、犬?」
「鳥もいるぞ・・・」
政府軍の面々は皆キョトンとしていた。見るからに戸惑っている。そんな中、そいつらの後ろで思案中だったレゾルトが思いついたように声を上げた。
「あーーー!!っと!すみませーん、うちの部下に動物好きがいましてね?ついつい迷い動物を拾って世話してしまうんですよ~・・・それでちょうどこの部屋を使っていまして、もしあなた方に飛び掛かってケガさせてはまずいと思い黙っていたのですが・・・」
とっさに思い付いたにしてはナイスな嘘!ここから見てもレゾルトが冷や汗流してるのが分かるが、作り笑顔は絶やさないようにしている。
「チッ!紛らわしい・・・おい、戻るぞ!」
舌打ちしながら踵を返す政府軍の面々は、レゾルト達も押しのけぞろぞろと外へ出て行く。コツコツと大きく革靴をならし、そのまま元来た車に乗ってエンジンをふかしながら勢いそのままに町の外へ出て行った。車が見えなくなるまで、しばらくレゾルト達はその姿を見送った。
「ハアアァァァァ・・・おい、塩まいとけ!!」
「あ、了解!!」
レゾルトは巨大なため息をつきながら部下に指示を出し、そのまま署内に戻っていく。
俺達はというと・・・・・・
「つ、疲れた・・・」
「緊張で気持ち悪い・・・・・・」
ダラーンと倒れていた・・・
「・・・というか、なんで俺達動物になってるの・・・?」
「俺なんか鳥なんだけど!!!?」
キリヤは逆に尋ねてくるが、クロウは怒りながら飛び回っている。
その時、外にいたレゾルト達が戻って来ていた。
「・・・話せるってことは、やっぱりお前達なんだな?」
「ど、どうやって動物になったんですか・・・?」
腕を組みながら話すレゾルト、その後ろで部下が恐る恐る尋ねた。
「いや、俺達も何が何だか・・・」
犬になっていたファレルが言う。しかしそれと同時にボンッ!!と音がなり、俺達は煙に包まれた。
「うわっ!?」
「え、なに!!?」
レゾルト達は当然、当の俺達も驚いていた。
だんだんと煙は晴れていき、俺達の姿が見えてくると・・・
「・・・あれ?」
「もど・・・てる・・・?」
俺達は、元の姿に戻っていた。
カイキはすぐに原因に気が付いていた。
「ちょっと父さんでしょ!!?身体大丈夫!?魔力無いんじゃなかったの!!?」
カイキは父親のレイに掴みかかっていた。
それを聞いていた皆は驚きながら振り返っていた・・・まぁこの中で魔法を使えるのは限られているしな・・・
「今回は仕方なかったでしょ?それに変身魔法はそれほど魔力使わないし時間も短いからそんなに負担になんないって。おかげで気づかれなかったっしょ?」
カイキに説明するレイ、さすが魔導士・・・ホント助かった・・・
ポカーンとしているレゾルト達の後ろから、ひょっこりコルスも出て来た。
「ほう?なんとか無事だったようだねぇ・・・」
「!?」
レゾルトも不意を突かれて驚いていたがそれは俺達もだ・・・
「コルス!?おっま、今までどこ行ってた!?」
さっきのごたごたで確認する余裕が無かったが、いつの間にかコルスだけ部屋からいなかったのだ。
「どこって・・・探知されない地面と同化し退避していたに決まっているだろう。」
シレッと何食わぬ顔で話すコルスに対し、さすがに少しイラっとした・・・
「おま・・・だったら俺達も隠してよ・・・」
「この大人数動かせばさすがに気づかれるだろうよ・・・そもそも他を動かせんしなわしは。」
「ぐぬぬ・・・」
これ以上何言っても無駄だったので言葉を飲み込んだ。
「ま、もともと大気中に魔力が漂っていて助かった・・・お前さんの魔力が多少回復したのも、気づかれなかったのもそのおかげでもあるようだ・・・」
「あははー」
レイは笑って返していた。確かにここは、あのカグナ遺跡ほどではないが魔力が満ちている方だった。その魔力がフィルターの役割を果たして奴らに変身魔法の魔力に気づかれなかったんだろうな・・・
「はぁ・・・あ・・・レゾルト、さっき奴らが持ってきた手配書見せて?」
「あ、あぁ・・・これだ。」
俺は思い出して政府軍が持ってきた手配書を見せてもらう。他の皆もその言葉に反応してようやくこちらに集まって来た。
「そういえば!手配書って言ってた!!俺達手配されてんの!?」
「まぁ・・・そうだろうなぁ・・・レイに関しては手回しが早いと思うけど・・・」
「だね・・・」
カイキは慌てていたが、俺とレイは落ち着いている方だった。リイン達もアワアワしていたが、ファレルは口に手を当てて固まっていた。
「・・・俺の手配・・・これ、あの町から・・・?」
「・・・結局最後まで信用されなかったって事か・・・報告しないとヤバい事になるから・・・のどっちかだろうな・・・」
「・・・まだ後者の方がマシですね・・・」
ファレルの故郷、あの町には魔物と戦える武器は置いてきたし話もしたけど・・・最後まで好意的ではなかったからな・・・
その時、リインが尋ねて来た。
「・・・あれ、なんでルイス君とレイさんだけ更新されてるんだろう・・・私達とずっと一緒にいるのに・・・」
「確かに・・・俺なんか息子なのに!」
ちょっとカイキが嘆いていた・・・まぁおそらくだが手配書の違いの理由は分かる。
それを話そうとした時、コルスが話を遮った。
「ちょっとそこまで、疲れている所悪いが今すぐ向かってほしい所がある。」
「って今からーーー!?」
カイキはさらに落胆した・・・しかしコルスがこんな事言うのは珍しいな・・・
「・・・政府軍が来たから話が途中だったが、地図に印をつけていた所があっただろう?そこに潜入してほしいんだ・・・」
いきなりハードそうなミッションだな・・・
「潜入って・・・そういえば、警部さん達が調べている・・・みたいな事言ってましたね・・・何があったんですか?」
ファレルが尋ねる、これでようやくもともとの話に入れそうだ・・・
そしてレゾルトが話を始める・・・
「・・・我々もまだ中には入ったことがない・・・入れないんだ・・・だから確証はないんだが・・・中にはおそらく、女子供が奴隷のように捕まっているみたいなんだ・・・」
◇◇◇
「・・・あ・・・」
また、夢を見た・・・これがいつ起こる事なのか・・・オレには分からない・・・
「う・・・ぅ・・・」
「グスッ・・・うー・・・」
暗い檻の中、鎖に繋がれた様々な年齢の女達が泣いている・・・オレも、その中にいる。
「・・・・・・」
ここに捕まって、もう何日たったのか分からない・・・でも、ずっと同じ夢を見る。
「・・・あいつは、ちゃんと逃げられたかな・・・」
捕まった時に分かれた友に思いを馳せる。唯一の親友・・・
「・・・・・・」
彼女達にかける言葉が見つからない・・・それでも・・・オレは待つことに決めたんだ・・・
「きっと・・・来るから・・・」
今はただ、夢でしかない言葉を・・・彼女達の希望になるように唱えるだけだった・・・
◇◇◇




