幕間② 円卓会議
◇◇◇
さっきまでクロウさんを休ませていた部屋に戻り、円になって座り皆で会議を始める。ただしカイキだけは部屋の隅で頭にタオルをかけて縮こまっている・・・
「カイキー・・・お前もこっちに来いよー」
「・・・ここで聞こえるからほっといて・・・」
龍のクロウがぷかぷか浮きながらカイキを呼ぶが、カイキはまだ恥ずかしがっているらしい・・・
仕方ないからこのまま会議を始める。
最初に口を開いたのは、クロウさんだった。
「さて、それじゃあどこから話した方がいいかな?カイキと一緒に捕まっちゃったのは知ってるよね・・・?」
「えぇ。その後からお願いします・・・あなたが出会った人の事も・・・」
「・・・本当に、君達は・・・同じなんだね・・・」
そうしてクロウさんは、ゆっくりと語りだした・・・・・・
◇◇◇
—————— あの時、俺はカイキと引き離され窓のない部屋に押し込められたんだ。たった一人の見張りを置いて・・・ね。その子は君と同じ・・・存在なんだろうね、気配が一緒だ。顔は隠してたからほぼ見えなかったんだけどね・・・その子と俺は・・・ある賭けをしたんだ。 ——————
「・・・賭け、ですか・・・?」
「あぁ。さっき君も感じたんだろう?戦闘になる前・・・意識が戻ったあの時だよ。」
「っ!!」
やはり・・・か・・・・・・
—————— 彼との賭けは、『殺されることもなく息子と会えるか』というものだったよ。俺が勝てば、彼がかけたまじないが発動する仕組みだったんだ。それがあの時ってわけだよ・・・さっき目が覚めた時も声が聞こえてね・・・彼はずっと、俺を助けてくれてたんだ・・・・・・ ——————
「・・・・・・ちょっとストップ!!!」
突如部屋の隅に居たカイキが叫びながら飛び出し静止した。
「・・・どうしたの、これからいいところなのにー。」
ぶーっと口を尖らせて唸るクロウさん。そんなことは気にもせずカイキはクロウさんに詰め寄る。
「何なのその賭け!あの部屋は魔法が使えなかったんだよ!!?無理すぎるでしょ!!」
思ったことをそのまま叫び続けるが、それをクロウさん自身がぶった切る。
「でもま、こうして生きてるわけだしね。」
「うっ・・・」
ようやくカイキが固まったところでクロウさんが種明かしをした。
「勝算が無かったわけじゃないんだよ。そもそも俺の身体に傷は付けられないんだ。あのエギルでもね・・・」
そう言いながらクロウさんは右手で自分の服をペラっとめくり上げる。
「っ!・・・それは・・・」
クロウさんの腹部に、丸く魔方陣が光っていた。
「術式だよ。もともと自己防衛の為にだいぶ前からかけていたんだけどね・・・おかげで自分でも忘れていたんだけど・・・まさか今発動するとはねー・・・人生、何が起こるか分かんないもんだ・・・」
「ってしみじみ言ってる場合じゃないんだけど!?いつの間にかけてたの!?俺すら知らなかったんだけど!!」
「うん、だから忘れてたの。自分に危害が及ぼうとする時に発動するんだ。どんな攻撃でもね。発動したら十年は解けないよ。かけた本人でも。」
その言葉で皆驚いていたけど、一人だけ・・・
「あ、の・・・もう服・・・下ろしてください・・・」(かぁーーー)
「わー!リイン!!」
リインはクロウさんの向かい側に座っていて、もろに裸を見てしまったようだ・・・顔を赤くして両手で覆っている・・・キリヤが慌てていた。
「あ、ゴメン。」
そう言ってクロウさんは手を離し服を下ろした。ようやく裸が見えなくなってゆっくり両手を下したが、まだ顔は赤く下を向いていた。
「この術式をかけたのはあの結界が張られた部屋に入る前だから、消えることもなかったんだ。だから発動した。さすがのエギルでも手は出せなかったんだけど・・・・・・」
「・・・でも、洗脳には対応できなかった・・・傷を付けるわけではないから・・・」
ボソッと俺は口に出していた。それを聞いてクロウさんは辛そうに笑ったんだ。
「まぁ・・・ね。そういう事になるね・・・というか・・・あれはなんというか・・・」
「?クロウさん・・・?」
彼は上を向いて、少し考えこんでいるようだ。
「・・・あれはそもそも・・・俺じゃどうすることも出来ない力だったんだよね・・・少なくとも俺が知らない力だったから・・・・・・」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと!どういう事ですか!?」
思わず俺とファレルが聞き返していた。
「うーん・・・俺も最初は分かんなかったから、調べてたんだよねーこっそり。あの魔導式ネットで。」
「・・・ん!?それってあのパソコン・・・みたいなやつですか?」
ファレルが恐る恐る聞き返す。まぁ少し調べた張本人だし。
「うん。俺が作った。」
自分を指さしながらドヤ顔で話すクロウさん。さすが天才科学者だ・・・
「まぁほとんど操られていたから覚えているだけでもほんの少ししか調べられなかったんだけどね。一部は指示された魔力を吸収するための術式を固定し維持するための画面、そして他にも魔力が豊富な土地がないか調べていて・・・んで、気づかれないようにわずかに残ってた俺の意識で少しずつエギルの事を調べていたんだ。俺にかけた力の正体とか、奴自身が何者なのか・・・まぁ、詳しい事は何も分からなかったけどね・・・少なくとも、この世界には無い存在って事は確かだよ。」
「それ・・・って・・・」
皆驚きを隠せなかった。
「それって、エギルはこの世界の人間じゃないってことですか!?」
「・・・そもそも人間かどうかも怪しいね・・・それに、君達と会って分かったけどエギルは龍でもないよ。ほんとに、この世界には無いはずの力。見た目は人だけど、細胞組織自体違うと思う・・・そうだな、例えるなら・・・あの魔物の中に見つけた違う遺伝子・・・みたいな。」
「・・・ん?じゃあ、最初の魔物がエギルと同じだと?」
「いや、今のは例えただけだ。気配自体違うからエギルは魔物ではないよ。でも、この世界の奴じゃない・・・って事だよ。それに、その最初の魔物の候補は一応見つけているんだけど、多分だけど俺をここに連れてきた子じゃないかな。」
「・・・・・・ん!?」
再びクロウさんは、何か気になる事をサラッと告げた。
「ちょちょ、ちょっと待って!ここに連れて来たのってクロトやエギル本人じゃないんですか!!?」
俺は慌てて尋ねる。クロウさんが自我を取り戻したあの瞬間、あいつの魔力を感じたあの時。あいつがここに来てたと思ってたんだが・・・・・・
「クロト・・・あぁ、俺を助けてくれた子か・・・ううん、ここに連れて来たのはその子じゃないよ。なんか・・・これまた黒い服を着た子で、なんかずっとニヤニヤしてたかな。あのエギルに口利いて俺をここまで連れて来てくれたんだ。」
・・・リヒトだ・・・奴しかいない・・・けど、何のために・・・・・・
そう考えてた時、ファレルがボソッとささやいた。
「・・・カグナ遺跡で、リヒトは贈り物があると言っていました。それがクロウさん、で間違いないようですね・・・」
「・・・そうだな・・・」
奴の意図が・・・分からない・・・
「・・・リヒトの事を、調べに行く。」
急に俺が宣言したからか、皆一様に俺を見て固まった。
「・・・どうしたんです?急に・・・確かにエギル同様危険な相手ではありましたが・・・」
「ん?そうなの?」
ファレルが尋ねた言葉にきょとんとしたクロウさんが聞き返していた。そういえばクロウさんはリヒトとは会っているみたいだけど戦ってるところは知らないのか・・・
「・・・多分、これから進むにつれて必要なことだ。と、思う・・・というか、気になる事があってな・・・」
「気になる事・・・?」
ファレルが再び尋ねる。俺は目線を合わせず、考え込んだまま答える。
「・・・もしかすると、あいつとは戦わなくて済むかも・・・しれない・・・難しいけど。」
俺の言葉を聞いて、皆驚いていた。無理もない・・・先ほどまで戦っていた相手だし、下手すりゃ殺されていた。
けど・・・
「・・・ま、ルイスが必要と思うのなら手伝いますよ。」
「調べるって何するの?また機械いじるの?」
「「どこまでもついて行くよ!!」
ファレルにカイキ、リインとキリヤ。皆拒否せず賛同してくれた。
むしろ俺の方が驚いてしまった。
「・・・いや、リヒトの事知ってそうな奴の所に行こうと思ってるんだけど・・・嫌じゃないのか・・・?」
思わず尋ねてしまった。それにファレルが答える。
「二度も言わせないでください。必要だとあなたが判断したのなら、我々はそれに従うのみですよ。それに、リヒトはエギルと繋がっている・・・奴を調べることで、エギルに近づけるんじゃないですか?」
そうだよと言わんばかりに皆頷いている。いやまぁ確かに、エギルに関することも何か分かるかとは思っていたけど・・・その前に。
「・・・その聞きに行こうとしている場所は、人間にはとても危険な所なんだ・・・だから俺とクロウで・・・」
行こうと話をしようとしたところ、いきなりファレルに胸ぐらを掴まれる。
「・・・まさかルイス・・・?俺達だけ置いてけぼり、なんて言いませんよねぇー・・・?」(にっこー)
「あ、や・・・」
あの黒ファレル、発動・・・
「冗談じゃないですよ!!俺達も行くに決まってんでしょう!!」
「そうだよルイス君!私達だってついてくよ!!」
「って言ってもなー・・・」
ファレルとリインの圧に押されそうになったが、しばらく黙っていたクロウさんが口を開いた。
「なら、俺もついて行くよ。俺は基本いろんな魔法使えるけど、防御魔法みたいなサポート得意だからさ。連れて行かない手はないんじゃないかな?」
「父さんナイス!」
クロウさんの実力は先ほどの戦闘で実証済み、彼が参戦したことで了承するしかなくなった・・・
「・・・はぁー・・・分かった・・・分かった!認めればいいんでしょ!!・・・どうなっても知らないからな・・・」
「何とかなりますよ。それで、どこに向かうつもりなんです?」
ファレルの質問に俺がしぶしぶ答えると、龍のクロウが固まった。
「・・・・・・龍の谷。」
「・・・え゛!!?」
◆◆◆
「・・・お前こそ、いつまでここにいるつもりだ?」
「・・・・・・っ!」
ルイス達が会議をしていた同時刻、外では二人の少年が言い争っていた。
どちらも黒い服に身を包んで、一人はフードを目深にかぶっていて、もう一人は口元に笑みを浮かべている。
「・・・何の事だよ・・・!」
「・・・いつまでエギルの下にいるつもりだって言ってんだよ。なんの力もないくせにさぁ・・・」
「黙れ!!」
フードの男は歯を食いしばる。しかしその時、もう一人は笑みを消して、フードの男の胸ぐらを掴んで押し倒した。
「・・・っ!!」
「・・・なんも出来ないならさぁー・・・大人しくしててくれない?あいつらを心配してるくせに仲間になるつもりもない・・・正直邪魔なんだよね・・・」
そう言って手を離し、後ろを振り返り歩き出した。
「創世龍はいつか倒す。お前はむしろあっちにくっついてもらった方が都合がいいんだけどなぁ・・・」
そう言うとその男は姿を消した。そこに残されたのはフードの男ただ一人・・・
「・・・戻れるわけ・・・ねぇだろ・・・」
そうつぶやく彼の頬には、一筋の涙が流れていた。
—————— ・・・・・・俺はもう、汚れているんだから・・・・・・ ——————
◆◆◆




