○ その声を響かせて ○
◇◇◇
「・・・うわぁ・・・」
「これは・・・また・・・」
ようやく地下から脱出した俺達は、皆で建物の外に出る。
外の景色を見たリイン達は、あまりにも酷い光景に唖然となっていた。
そんな中ファレルはと言うと・・・・・・
「ファレル?どうした・・・」
「あー・・・・・・」
さっき出てきた建物を見上げていた。
「やっぱり・・・同じ建物なんですね・・・」
「・・・ん?」
ボソッと呟きながら、周りも見回していた。
「・・・俺が、あの老人の中で見た景色と、同じだと思って・・・やっぱりあれは、ここの出来事だったんですね・・・」
そのまま見回しながら話、ある一点で動きを止める。そして左手でその道の先を示した。
「この道を真っすぐ進むと、街の中心地に出るはずです。」
「道、覚えてたのか?」
話に驚いて慌てて聞き返したが、ファレルは首を横に振る。
「・・・いえ・・・ただ、あの時通った道とこの道が全く同じだと思いまして・・・俺が歩いたのは道の途中からですが、その時見た建物の位置とか傷の後とか・・・あそこから同じなんですよ・・・」
指さしながら話すファレルを見て、リイン達はコソコソと話をしていた。
「傷まで覚えてるって・・・凄すぎだよ・・・」(コソコソ)
「恐るべし・・・だね・・・」(こそこそ)
「聞こえてますよ!そこ二人!!」(にこー)
「「ご、ごめんなさい!!」」
ファレルが指を指した先・・・この匂いは・・・・・・
そんな後ろで何やらもめている間、カイキは一人固まっていた。
「・・・カイキ?どうした・・・」
「・・・ねぇ、ルイス・・・この先に居るの・・・あいつらだよね!?そうだよね!!?」
「っ!?」
急にカイキが俺の腕を掴み叫びだす。それはまるで、何かに怯えているようで・・・
「・・・だって、ここに居るってことは・・・もう・・・」
そこにある答えを誰かに否定してもらいたいのか、ぼそぼそと俯きながらずっと呟いている。まるで自分に言い聞かせるように・・・
目を見開き、冷や汗も止まらない。
カイキの身体から、何やら黒い靄が少しずつ溢れ出ている・・・・・・
「・・・カイキ?」
・・・どうやらファレルにも視えているようだ・・・
・・・俺は、カイキが何に怯えているのか・・・その正体に気づいていた。
「落ち着けカイキ!!!」
「っ!!」
カイキの肩を掴んで叫ぶ。カイキはその声に驚き、目をまん丸させていた。
同時に靄の出現も止まった。
俺は一息置いて、話をする。
「・・・・・・外に出て確信した。この先にいるのは、間違いなく・・・お前の父さんだ。」
「っ!!!」
カイキは息を呑む。
俺の言葉に皆は驚きを隠せない。
「え、お父さん!?ってあの魔導士で科学者の・・・」
「そんなはずない!!!」
リインの言葉にカイキが遮る。
再びカイキの身体から靄が出始めていた。
「だって・・・いるはずない・・・ここにいるってことは・・・」
またぼそぼそと、自分に暗示をかけるように呟くカイキ。
俺はそれを遮った。
「最後まで話を聞け!この先にいるのはお前の父さんで・・・まだ死んでないよ。」
「・・・・・・え?」
思わぬ言葉に、カイキはキョトンとしている。
けどすぐに我を取り戻し・・・
「・・・な、なんでそんな事言えんだよ!!」
カイキは目に涙を浮かべながら叫びだすが、俺は冷静に答える。
「・・・どうして受け入れない。お前が逃げたことで父さんが殺されるとでも思ってたか?犯してもねぇ罪をすべて自分が背負って苦しくないか?助けられるはずの命を見て見ぬふりしたら、それこそ殺してしまうことになるぞ。」
「・・・だって・・・俺・・・!!」
カイキの目から、涙が零れた。
ふいにキリヤが、横から口をはさむ。
「・・・えっと、ルイス君・・・どうしてそこまで分かったの?」
隣のリインまで不思議な顔で俺を見る。
「・・・お前ら、俺達が龍ってこと忘れてないか?
外に出てから、風に乗ってカイキと似た匂いが流れて来てるんだ。大体親族の匂いは似てるからカイキの父親ってのはそこから。あと、血の匂いはほとんどしないし死臭も全くないからな。」
それを聞いてファレルも納得する。
「あぁなるほど。龍の鼻が良く利くってことは以前の戦いで実感しましたからね。クロウに至っては吐きそうな顔してましたもんね。(笑)」
「ケッ!ほっとけ!!」
ハンッ!とクロウはへそを曲げてしまったが、それらの会話を聞いてもう一度カイキに向き直る。
「そういう事だ。俺の話、信じてくれたか?」
ボロボロと涙を零しながら、カイキは何度も頷く。
「うん・・・うん・・・ゴメン・・・ゴメン・・・!」
ようやく、カイキの黒い靄も消えたのだった。
「・・・大丈夫か?」
「・・・うん・・・(グスッ)」
涙を流すカイキの頭を撫でながら、話を続ける。
「罪悪感も後悔も、そんなものは後回しでいい。まずは必ず助けること。その後に思いっきり話すと言い。そだろ?」
「・・・うん、うん・・・!!」
もう一度、カイキの目に灯がともる。もう大丈夫だ。
あとは・・・
「リイン!キリヤ!」
「「えっはいぃ!!」」
いきなり名前を呼ばれて、二人ともとても驚いていた。
「二人に渡した銃、シリンダーとバレルを左に回転させるんだ。それで魔導弾が撃てるようになる。」
「へ・・・えと・・・」
あまりにも急に言われたので困惑してるようだ。
「魔力で出来た弾。持ち主の魔力を使うので再装填の必要ないが備えあれば憂いなしってな。今回は、多分実弾は意味ないだろうから切り替えといて。」
「え、あーはい!了解!」
ワタワタと切り替えている二人。これでようやく進めるかと思った時、ファレルがこっそり耳打ちしてきた。
「・・・ルイス、さっきカイキの身体から出ていたものって・・・」
「・・・やっぱお前も視えてたか・・・けど今説明してる暇はないんだ。それにカイキは・・・もう大丈夫だろう。」
二人でそぉっとカイキの方を見る。カイキにはもう涙はなく、リイン達の準備を手伝っていた。
「・・・ルイスがそういうなら・・・けど、相変わらず謎多すぎなんだけど!?」
「さっきのは俺だって初めて視たんだからな!?」
皆が気づかない距離で少し言い争っていた・・・クロウだけは気づいていたようだけど・・・
「・・・何やってんだ?」
◇◇◇
・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・・・
「・・・なんか、明るいお化け屋敷いる気分・・・」
「・・・言わないでくれ・・・」
ようやく進みだしたが、この街の雰囲気にリインとキリヤは怯えていた。
俺達はファレルを先頭にカイキ、リイン、キリヤ、クロウ、そして俺が後ろに付き固まって進んでいた。
俺はずっと辺りを警戒していたが、相変わらず人の気配は全くない。政府やエギルの資料が残っていればいいのだが・・・・・・
しばらく歩いた、そんな時だった。
「・・・・・・あっ。」
「ん?」
ファレルの動きが止まった。
「・・・いましたよ。」
静かにと指示を出し、声を押さえて身をかがめ、視線の先を指さすファレル。
皆で物陰に隠れながらそっと覗く。
その先に・・・・・・
「あ・・・・・・」
彼が、そこにいたんだ・・・
◇◇◇
—————— カタカタカタカタ・・・・・・ ——————
「・・・あれ、何やってるんだろう・・・」
「なんか・・・操作してる?」
物陰からこっそり覗いていたが、位置的に彼の背中側しか見えないので何やってるのか全く把握出来ない・・・ただ彼の周りにモニターのようなものが沢山空中に浮き出ていて、彼の身体の隙間からキーボードのようなものが見えている。
「まるでパソコンですね。」
「「え?」」
メガネをすっとかけて答えるファレルに、リインとキリヤはキョトンとしていた。
「ファ、ファレルさん?」
「さっきからカタカタいってるのは、タイピングしてるから。しかもモニター沢山ありますし、まるで立体型のパソコンですよ。」
「あーお前シバルで器用に調べてたもんなぁー。言われてみれば確かにそうだ。」
クロウが頷きながら聞いていた。
理解できない領域の話をする二人に対し、リインとキリヤは少し引いていた・・・
・・・まぁそんなことを思えるぐらいには緊張が和らいでいるとみえる。
カイキは・・・・・・!!
「っ・・・ぉいちょっと待て!!」
「父さん・・・!!」
俺の制止も聞かず、一人歩み寄り大声で叫んでいた・・・・・・
そして彼の動きが、止まったのだった・・・・・・
『・・・・・・』
タイピングしていたその腕は力なく垂れ下がり、微動だにしない。
「・・・隠れる意味なくなりましたね。」
「たく・・・しょうがないな。」
カイキが出てってしまったので、俺達もしぶしぶ出て行く。
そして彼はゆっくりとこちらを振り向いたのだった。
『・・・・・・』
「父さん・・・!俺・・・・・・は・・・っ!」
カイキは叫んで声をかける。しかし、その違和感に皆も気づいた。
「ちょっと・・・あれ・・・」
「なん・・・だと・・・」
彼の目は、両目とも黒ずんでいたんだ・・・・・・
「父さん・・・・・・!父さん!!」
彼の状態を見て、カイキは駆けだそうとしていたが俺が止める。
「待て!!まだ近づくな!さっきも言ったように彼はまだ死んでいないが・・・明らかに洗脳されてる・・・近づいたら確実に襲われるぞ!」
「だって・・・俺は・・・!!」
カイキは今にも泣きながら飛び出しそうだった・・・しかし、その時だった・・・・・・
『・・・ぅあ・・・!』
「「!!?」」
彼が両手で頭を押さえ、苦しみだしたんだ・・・・・・
「父さん!!?」
俺達は皆唖然としている。何が起こっているのか、誰も分からなかった。
「一体・・・何が・・・」
「彼は一体・・・どうしたんですか!?」
さすがのファレルも焦り、リインは慌てている。
その時、彼の左手が押さえていた頭から離れて下がり、そしてゆっくりと顔を上げた・・・
「・・・・・・かい・・・き?」
右手はまだ頭を押さえていたが、左手が離れたそこから彼、魔導士クロウさんの本来の瞳が見えたのだった。
「父さん!父さん!!」
「ここは・・・どこだ、俺は・・・何を・・・・・・!」
一体どういうわけか、彼は自我を取り戻していた。まだ右目は黒ずんでいたが、左目は完全に正常に戻っている。
「なん・・・で・・・」
けど俺は、別の事に驚いていた。
先程の、彼が苦しんだあの一瞬・・・・・・あいつの力を感じたんだ。
「父さんっ!待ってて、今・・・!!」
俺が考えていた間に、カイキは助けようと駆け出して行っていた。
しかし・・・・・・
「来るな!!!」
「っ!!?」
再び両手で頭を抱え、彼は全力でカイキを止めた。
「・・・さい・・・う・・・さ・・・・・・うるさい!!」
「父さん!どうしたの!ねぇ!!」
「下がれカイキ!」
・・・余計な事考えるのは後にしよう。
彼に近づこうとするカイキをもう一度止めるが、カイキはこちらを睨んでくる。
「離せ!!なんで・・・!」
「さっきも言っただろ!彼は洗脳されていると!それはまだ、解けていない!!」
『・・・ぅあ・・・っ』
「ルイス!あれ・・・!!」
ファレルが指さすその先・・・苦しむ彼の身体から、黒い靄が溢れ出していた。先ほどカイキの身体から出ていたものと同じようで、しかしそれは徐々に集まり形を成していく。
「・・・・・・ぁ・・・」
「ヒッ!!」
さすがのカイキも言葉が出ず、リインも完全に怯えていた。
その靄は彼の後ろにだんだんと集まり、濃くなっていく。
そして、俺のよく知る声で、話し出したんだ・・・・・・
= 抗っても無駄だクロウよ・・・この術は貴様には解けん =
『・・・・・・エ・・・ギル・・・・・・ッ!』
「えっ!!?」
「あれは・・・!!」
靄は人のような形を取り、顔は見えなかったがその声は確かに、俺達のよく知る敵の声、『エギル』だった・・・・・・




