○ 白き旅路の花吹雪 ○
◇◇◇
~買い出しからの帰宅中~
「この近くで魔物が出たんですって!」
「うっそ!ほんと!?ついにここまで・・・」
・・・おばさん達は話すの好きだなぁっと思いながら通り去る。
そういう情報は一体どこから手に入れるのか・・・
以前は魔物が町の近くまでやってくることはなかった。
しかし、十年くらい前からか・・・急激に数を増やし、人々を襲い始めた。
今では町から次の町まで移動するのも困難だ。
町の中までには入らないが、故に人々は自分達の町の中で自給自足の生活を始めたのだった。
「・・・ここも暗くなりましたね・・・」
まるでかごの鳥・・・俺はこの生活が嫌いだったが、彼女がいるだけでここでもマシだと思える。
でも・・・
「今の・・・彼女は・・・」
そうつぶやいた時だった。
――――――――ギュッ!!
「!!??」・・・ドサッ!!
突如後ろから女の子に抱きつかれ、その勢いで倒れてしまった。
「・・・っえ、え゛!?」
(にっこーーー!!)ギュ――――――――!
女の子は満面の笑みでそのまま抱きついてる・・・
すると少し離れたところから声が聞こえてきた。
「・・・レッカー?レッカどこだー?」
「・・・君のこと・・・呼んでるんじゃないですか?」
風呂敷で包んだ長い物を抱えた少年が彼女と思われる名前を呼んでいる。
この町では聞きなれない顔に名前だから彼女のことかと思って聞いてみたけど、
「・・・・・・」
・・・女の子はそれでも抱きついたまま離れようとしない・・・
するとさっきの少年がこちらに気づいて近づいてきた。
彼の眼が赤いことは、その時に気づいた。
「・・・あっ!ここにいた!・・・って
・・・なんかすいません。」
そう言ってべりっと女の子を引きはがす。
「い、いや・・・いいですけど・・・君達見ない顔ですね・・・?」
「あぁ、さっきついたばっかりでね。そしたらいきなりこいつが飛び出して行っちゃって・・・すみませんでしたね。」
「ハハ・・・」
このご時世に子供が・・・しかも二人だけで旅・・・?
不思議に思いながらも変な彼らに正直早く離れたかったが・・・
「・・・ファレルー?」
「・・・・・・え・・・・・・?」
アイラが待ちきれず迎えに来たみたいだ。
しかし彼女の姿を見た少年は、なぜか顔が引きつっていた・・・
「あ・・・あの、あなたが・・・ファレルさん・・・?」
「え?ええそうですけど・・・どうしました・・・?」
「・・・・・・」
あまりの態度の豹変ぶりに驚いたが、こちらが聞く前に、
「・・・そうですか、わかりました。また来ます。」
「え・・・」
そう言って女の子を連れて踵を返した。
すぐに呼び止めようとしたとき、彼は小さな声でこう言ったんだ。
「・・・気をつけて・・・」
「・・・ファレルー?どうしたの?・・・あの子たちはだれ?」
「・・・・・・」
・・・彼の言葉はどういう意味だ・・・
まるで、俺の不安を見透かすように・・・
◇◇◇
あれから数日たった。
また来ると言った言葉通り、幾度となく彼らは現れた。
・・・抱きつきに・・・(汗)
「・・・き、君達・・・一体・・・何しに来てんですか!!」(ハァー・・・ハァー・・・)
「いやーすみませんねー毎度こいつが(笑)」
・・・あの時のシリアスな空気は何処に行った!!
意味深な言葉を言うだけ言って!!
「こいつ、レッカは、人を見る目はあるんだ。あんたのことすんごい気に入ったみたいだよ。」
「えー・・・なんですかそれ・・・」
こっ恥ずかしいことをサラッと言われ、どう返事したらいいか困っていた。
そんな様子を見ながら、少年は急に声のトーンを変えて訊ねてきた。
「・・・ところでファレルさん?あんたの彼女、ちゃんとしてる?」
「・・・それどういう意味ですか?」
この間も気になることを言っていた。
・・・気をつけろと。
「・・・いや?」
そう言いながらニヤッと笑う少年。
この赤眼といい、一体彼らは何者なんだ・・・
「・・・用がないなら俺は帰りますから!」
馬鹿にされたような態度にさすがに怒りがこみ上げ、すぐにここから立ち去ろうと立ち上がる。
そんな様子を止めようともしない少年達。
だからそのまま帰ることにした。
少年達はずっと俺の後姿を見ていただけだった。
◇◇◇
「・・・あの人、なんだよね?」
『うん。多分・・・気が付き始めてるよ・・・彼女に』
「・・・分かった・・・」
彼を見送りながら、俺はレッカと話す。
こんなとこまで奴らがいるとはな・・・
◇◇◇
「・・・ただいまー・・・」
「おかえり!・・・どうしたの、ファレル?」
さすがにあの二人には怒りを覚えた。
彼女のことをなぜああ言われなきゃいけないのか・・・
「・・・大丈夫?」
「・・・うん、大丈夫だよ。」
大丈夫・・・何も心配ない・・・
はず・・・なのに・・・不安が消えない・・・
あの二人と会ってから・・・何かが違う・・・
「・・・ファレル・・・?」
心配した彼女が俺に触れようとして、すぐに手を引っ込める。
あぁ・・・だからか・・・
「・・・ずっと気になってたんだけど・・・なんで俺に触れないの・・・?」
「え・・・」
彼女は慌てて話を逸らす。
「な、なに言ってるのよ!ほら、大丈夫なら早くご飯にしようよ!」
すぐに振り返り、晩御飯の支度をしようとする彼女の腕を、俺は力ずくで引く。
近づいて確信する。
・・・香りが違う・・・
するとその時触れた部分が・・・
———————バチッ!!
「!?」
『ヒッ!?ギャアアァァ!!!』
俺自身何が起こったか分からなかった。
急に強い力で弾かれ、衝撃で家も壊れてしまった。
外に吹き飛ばされてしまって、すぐに体を起こす。
その時俺の目に映ったのは・・・変わり果てた彼女の姿だった。
『ウ・・・ウゥ・・・』
「・・・え?」
彼女だったものは、先ほど俺が触れた部分を抑えていた。そこにあるはずの腕は衝撃で影も形もない。
苦しそうにうめき声をあげている・・・
『・・・オノレェ・・・ヤハリアノトキツレテイッテイレバ・・・!!』
「・・・あーあ・・・やっぱこうなるのか・・・なんとなく分かってたけど・・・」
ずっと不安はあった。
全然俺に触れなくなった彼女。香りも違う。
彼らが現れてから、彼女は確実に変わってしまっていたから。
俺の家から魔物が現れたことで、町の人々は恐れ逃げ惑う。
「え、何あれ!?魔物!?何でここに!!??」
「おいっ早く逃げろ!!!」
「きゃあああぁ!」
・・・逃げたいのはこっちだっつの。
何でここに・・・?俺が聞きたい。
『ファレル!オトナシクキテモラウゾ!!』
そう言って魔物は俺に向かって襲ってきた。
反応が遅れてしまった。やられる・・・!!
腕を前に構え、一応ガードの体制をとる。すると・・・・・・
—————————バチイッ!!
「!?」
『!?ギャア!!』
・・・まただ。
また弾いた・・・これは・・・
「なるほど?結界ね。」
『・・・・・・!!』
「え!?」
いきなり後ろから声がした。
そこに立っていたのは、あの二人だった・・・
「あなたたち・・・って、結界・・・?」
「さながら結界の破壊者ってところかな。」
・・・破壊者・・・って俺が・・・?
「一方向を守る盾にもなるし、全方向を守る結界にもなる。構造を変えたら武器にも使えると思うよ。」
「・・・なんでそんな詳しいんですか・・・」
いろいろありすぎて頭が回らない・・・
そんなことを話していたが、相手が待ってくれるわけでもない。
『オマエ・・・剣の破壊者!?』
「え・・・?」
「・・・当たり」
ニヤッと笑いながら少年は少女に手をかざす。
「・・・発動!!」
すると少女はみるみる姿を変え、真っ黒な長剣になった。
「な・・・!!」
「ファレルさん。」
驚いていたら、少年は振り向き、俺に風呂敷包みを渡す。
「・・・これ、彼女があんたに託したものだから。あとはこっち任せてね。」
「え・・・」
そう言って彼は魔物に向かっていった。
その風呂敷包みをそっと開けると、弓矢が入っていて、見覚えのある名前が刻んであった。
「・・・『アイラ』・・・?」
この香り・・・懐かしい。
確かに彼女の香りだ・・・
◇◇◇
「ハァァァァ!!!」
ガキィン!!
魔物が無事な腕で剣をはらう。
『オノレ!アレハワレラノモノダ!!』
「うっわ!人間を物扱い?ほんとあんたら最低だな」
そして剣を構えなおす。
「・・・お前、政府の魔物だろ。あの人をどうする気?」
『キサマガシルヒツヨウハナイ!!』
「あっそ。なら・・・消えな!!」
上段から一振りで魔物を真っ二つにする。
すると魔物は左右に倒れ、二度と起き上がることはなかった。
その残骸は塵となり消えていく。
少年は剣の発動を解き、少女の姿にしてこちらに近づいてきた。
「・・・大丈夫?」
「・・・・・・この弓・・・一体なんですか・・・あの魔物も・・・」
俺は弓を抱えながら視線を合わせずに訊ねた。
「・・・移動しながら話そうか。こっち、来てほしい。」
「・・・」
そう言って彼らは町を出る。俺も後ろからついて行った・・・
◇◇◇
「まず初めに、俺はルイス。見ての通り破壊者だ。そしてあんたも、破壊者だ。」
「・・・そこは、ちょっと後ででいいですか。まだ整理つきません。」
「・・・了解。」
少年は少し笑ってまた前を向いた。
少年が行こうとしている場所は、花畑があるところだ。
「アイラさんはつい先日会ってな。彼女も破壊者だった。彼女は・・・あんたとの平穏な暮らしを手に入れるために・・・戦ってたよ。」
「アイラが・・・?それじゃあ・・・」
「・・・この先だ・・・」
拓けた場所に出た。
そこは、真っ白な花で埋め尽くされていた。
「・・・ここの真ん中で彼女を見つけた。彼女は・・・政府の魔物と戦って、命を落とした。今は・・・その弓の中で、眠ってる。」
「・・・え・・・」
・・・確かに弓からはアイラの香りもぬくもりも感じた。
でも・・・本当に・・・・・・?
「政府もあんたが破壊者って気づいてた。だから刺客として、彼女に化けたあの魔物を送り込んだんだ。奴らがなぜ破壊者を集めているか、俺も彼女も探ってたんだ。」
「あの魔物・・・だから・・・」
さっき起こったことを思い出す。
彼女に化けていたのは、俺を利用するためか・・・
「彼女・・・言ってたよ。『ずっと一緒』だってさ・・・彼女は、強くて気高い人だったよ。助けられなくて・・・すまなかった・・・」
「そんな・・・こと・・・」
むしろ彼らに助けられた・・・アイラにも・・・助けてもらっていたなんて・・・
何も知らず、何も出来なかった自分が情けない・・・
後悔の念に駆られていたら、ルイスはこちらを向いてある提案をした。
「俺は、取り戻したいやつがいる。追わなきゃいけないやつも。だから政府や政府軍に関係のある所に行ってるんだ。・・・あんたも、一緒に来ないか?」
「・・・え・・・」
すると突然弓が光だし、俺の中に入っていった。
「・・・どうやら、その弓もあんたに使ってほしいみたいだ。戦い方も教えるよ。」
「・・・アイラ・・・」
“行っておいで”
そう言われた気がした。
「・・・そうですね・・・政府のことも、確かに気になりますし。
分かりました。君と一緒に行きましょう。」
「おお!」
彼の手を取る。
ルイスとレッカはとても嬉しそうだ。
「まだまだ教えてほしいこともありますし・・・君の赤眼のことも。」
「え゛!!」
赤眼のことを話したら突然慌てだした。
どうやらここはあまり触れてほしくないみたいだ。
「あ、あははー・・・ま、また今度な!!」
「えぇ、じっくりと(笑)」 (にっこーーー!)
さんざん抱きつかれたり結構苦労させられたが、これくらいの意地悪は許される範囲だろう。
「・・・あんた、結構腹黒だろ。」
「えー?そうですかー?(笑)」
アイラの弓を風呂敷から取り出し、肩にかける。
こうして新たな旅が始まる。
初めての町の外で少し不安はあるが、
この二人がいてくれるからか、あまり怖くはない。
「・・・ところでファレル、彼女以外には敬語なんだね。」(にっこーー!!)
「・・・癖なんです、ほっといてください。」
・・・ちょっと仕返しされたか。
「それで?どこに向かうんです?」
「とりあえず北に進む。途中で政府関連の情報が入ったらそっちに行く感じで。」
「分かりました。」
これから先、どうなるのか。
まだ誰にも分らない。
アイラと、彼らと共に進む。
俺達の旅路を祝うかのように、
後ろで白い花が舞うのだった・・・
今回はファレル視点。次からはルイスに戻ります。
ルイスとレッカとファレル、そしてアイラと共に。新しい旅が始まります。