● 地下に埋(うず)もれた記録(その1) ●
◇◇◇
「・・・おいこれどこまで行けばいいんだよ・・・」
「・・・知りませんよ、こっちが聞きたい・・・」
日記の主を探しに街から出たファレルとクロウ。しかし、いざ森に入ると意外と広く見つけるのに時間がかかっていた。
「クロウ。飛んで空から探せないんですか・・・?」
「いやこの森深すぎて、何とか外出ても見えないし逆に戻れねぇぞ。」
「・・・ですよねぇ・・・」
・・・まぁつまり、迷っていたのだ。
「まさかここまで深いとは・・・地図にはそれほどないのに・・・」
「このままだとマジで夜に・・・ん?」
ため息をついていたクロウが何かに反応した。
クンクンと匂いを嗅ぐ仕草をする。
「どうしました?」
「・・・なんか、煙の匂いがするぞ?」
「煙?」
ファレルは少し考える。ただのボヤの煙かもしれない・・・けど・・・
「・・・誰かいるかもしれませんね。」
「匂いはこっちだぞ。」
わずかな望みにかけて、クロウに道案内を頼む。辺りは少しずつ光が消えていっていた。
◇◇◇
「ここは・・・!」
クロウが感じた匂いを頼りに森を進むと、湖が見えてきた。その隣には小屋のような家が建っている。
地図と見比べる。おそらく、探していた日記の主の家に間違いないだろう。職員から聞いた情報とも合致している。クロウが感じた匂いは、煙突から上がる煙だった。
「や、やっとかぁ・・・」
「お疲れ様です。さ、行きますよ。」
疲れてヘロヘロになっているクロウをよそに、ファレルは扉をノックして早速中に入る。
「失礼します。」
「ってちょい待て!!」
◇◇◇
「ただいまー!!」
「・・・・・・つ、疲れた・・・・・・」
「大会してたから、勝ってきた。(ドヤァ)」
午後。コルスの店に、カイキ達が帰って来た。ルイスに言われたとおりにレッカが出迎える。
『おかえりなさい!』
「んーーーーレッカちゃん・・・癒されるぅー。」
帰って早々レッカの全力のお迎えに、リインは自分から抱き着いた。
「お帰り、やっぱり大会開いてたか。しかも勝つって、やはり実力は確かみたいだねぇ・・・」
「・・・やっぱ知ってたか。・・・って、そういえばルイスは?いろいろ報告もあるんだけど。」
「あー・・・それがな・・・」
コルスは帰って来た三人に、今までの状況を説明した。
◇◇◇
「おや・・・お客さんかい・・・?」
森の中にある小屋・・・家には、一人の老人がいた。
毛皮をはおり、まるで熊のような姿で座っている。静かに笑っていた。
どうやら木こりのようだった。
「・・・珍しいねぇ・・・こんな森の隠居じじいに、一体何のようだい・・・?」
「・・・お邪魔します・・・早速ですが、お話を聞かせてください。あの、日記について。」
「・・・・・・『日記』・・・・・・?」
ファレルの言葉に、老人は一瞬動きが止まった。しかし、またすぐに元の笑みを浮かべる。
「あなたはカグナ遺跡の地上にある街、サグについてご存知の様子。あの日記に書いていたことも含め、お聞かせください。」
「あぁ・・・サグか・・・懐かしい名だ・・・」
老人は思い出しているのか、顔を上に向け腕を組む。そしてポツリポツリと言葉を紡ぎだした。
ファレルとクロウは静かに次の言葉を待つ。
「あぁ・・・あそこは恐ろしかった・・・もともとカグナの魂の声が聞こえると・・・噂はあった・・・しかし、あのもの・・・あぁ・・・アレハ・・・アノカゲワ・・・」
「!?」
「お、おい!じいさん!?」
少しずつ話す老人の様子が、急におかしくなった。片言になったかと思ったら・・・
——————バキバキバキバキバキ・・・・——————
老人の身体は、みるみる形を無くしていった・・・・・・
うずくまった状態で、背中が脈を打つように広がり、大きくなっていく・・・・・・
「お、おいファレル!!!これまずいぞ!いったん外に・・・!」
「待って!まだ彼を・・・!!」
その時だった・・・
『イカナイデ・・・』
「・・・ぇ・・・」
老人の身体から、かすかに声が聞こえた。
それはファレルにとって、かけがえのない声・・・・・・
バキィン!!!
「ッ!!」
「! ファレル!!!」
一瞬気を許した瞬間に、ファレルは老人の割れた背中から現れた白い腕に引きずられ、ともに老人の身体の中に吸い込まれてしまった・・・
「・・・おいおい・・・嘘だろこれ・・・どうすんだよ・・・」
後に残ったのは、老人の抜け殻だけ・・・中は空洞になっていた。
クロウは必至で探す。
「・・・おいファレル!ファレル!!聞こえないのかよおい!!」
その叫びは、家の外にまで響いていた。
「・・・クロウ?」
「!? ルイス!?なんで・・・」
ルイスは中に入ってすぐに、辺りを見回し状況を確認する。すると荒れた部屋の中央付近に、座った状態でうずくまり、背中から何かが出てきたように穴が開いている老人の姿があった。背中以外はほとんど形は残っていたが、全身にヒビが入っている。
「ルイス・・・ファレルが・・・あの中に・・・」
「・・・連れて行かれたのか・・・」
コクンとうなずくクロウ。それを見て、ルイスはクロウに指示を出した。
「・・・今すぐコルスの店に戻れ。俺が必ず、ファレルを連れて帰るから。」
「え・・・でもどうやって・・・」
ルイスはそっと、手をかざす。
「・・・大丈夫だから、行け。」
「・・・・・・分かった。」
そう言ってクロウは飛んで行った。すでに外は日が完全に落ちていた。
行ったのを確認し、ルイスは再び向き直る。
「・・・・・・さて。」
長くなったので分割しました(;'∀')
あの少年は一体誰なのか・・・もうしばらくで正体が分かります。




