番外編 クロウの受難
◇◇◇
「カグナ遺跡・・・それってどこにあるんですか?」
ファレルが尋ねる。
次なる目的地について、事前に情報を知っておきたいようだ。
「ここから北に約二キロ、山岳地帯の一角にある小さな町の地下に広がる鍾乳洞の中に遺跡がある。
面白いのが造られたのが物凄く昔なのに技術がすごくてな。あちこちにカラクリが仕掛けられている。入り口も普通じゃ見つけられないようになっててな。ま、行ってからのお楽しみってやつだ。」
「・・・それ、ちょっと不安なんですけど・・・」
・・・こいつは一体どれだけの知識があるのか・・・部屋の端で静かに聞いているが、マジで恐ろしいやつだな・・・
「ま、今すぐに出発・・・と、いきたいが・・・」
?
なんだ?急にルイスが口ごもる。
「明日夜まで出発出来ないんだよなー・・・
というわけで、皆今日、明日はお休み!遊ぶなりなんなり好きにしていいぞ!」
「・・・ハ!?」
「え、え!?どういうことですか!?」
皆うろたえてる。
・・・休みか・・・ならこの隙に・・・
「クロウ。」
急にルイスに呼ばれて心臓が跳ね上がる。
「な、なんだよ!別に逃げようとか・・・」
「あはは、別にそうじゃなくて。」
わ、笑われた・・・見透かされてたか・・・くそぅ・・・
「まぁ皆にも言えることだけど。この街の外には出ないでくれ。魔物もどこから現れるか分からないし、守りきれないからな。街の中なら自由に過ごしていいよ。ただし、お金は自分持ちでよろしく!」
ルイスは皆に注意喚起する。
・・・なんだ、てっきり脅してくるかと思ったが・・・
「でもルイス君、どうしてお休みなんですか?何かすることがあるのなら・・・」
リインが言いかけていたが、それをルイスがバッサリ切った。
「・・・だってリイン達の武器作んなきゃいけないでしょ?」
「え・・・」
思わぬ返答に、当の本人達は固まっている。
「これからの事を考えると、護身用に持ってた方がいいでしょ。だからこの街に来たんだ。ちょうどコルスも来たし。この街はもともと工業が盛んな場所だから材料もそれなりに手に入るからな。武器を作るための時間が明日までほしいってわけだよ。」
「あの!それならなおさら私達も・・・!」
「あんた達は今までさんざん追われてただろ?せっかくだから休んでくれ。これは俺からのお願いだ。」
「う・・・分かった・・・」
しょんぼりうなだれるリイン。
手伝いたい気持ちもあるが、ルイスの気持ちも嬉しいし何もできないのも分かってる・・・みたいな感じか?
初めてルイス達と会ってからカイキと会うまでに、リイン達は少しずつ敬語が抜けていった。ルイスがやめるよう頼んだのもあるだろうが、見た目的にはほとんど子供ばっかだから気を許していってるんだろう。
・・・ハッ!!
お、俺は別に馴染んでなんかいないからな!?
「・・・はぁ、分かりました。なら俺も少し出てくるとしましょうかね。何かあったらすぐに呼んでくださいね。」
「ああ、まぁコルスもいるから大丈夫だ。」
「・・・わしにも手伝わせる気かい・・・」
ルイスにファレル。龍と人との関係・・・この二人は俺から見ても信頼しあってる感じだよなぁ・・・どうやったらこうなるんだ?コルスも完全に人間界に馴染んでるし・・・
・・・やっぱルイスが変わっているのか・・・
◇◇◇
「それじゃあ俺は買い物してきます。必要なものはあらかた買っときますね。お二人はどうします?」
「あ、それじゃあ私達はこの街を見回ってみます。目新しいものも多いですし!」
「そだね。あ、ちゃんとマントかぶって目立たないようにしときます!!」
「ん、よろしい。」
・・・遠足じゃねぇんだから。
コルスの店から出ると、そこには機械油の匂いが広がっていた。
ここは工業の街、シバル。最先端の技術が集う場所。
いろいろなビルが立ち並んでいる。
コルスの店は、そんな裏路地の目立たない一角にあった。
「・・・カイキも、街を散策してはいかがですか?気分転換になりますよ。」
「・・・・・・」
カイキは答えず、そのまま歩き出して人ごみに消えて行った。
「・・・大丈夫でしょうか・・・」
「・・・まぁ、今はそっとしておくのが一番でしょう。それじゃあ俺達も解散で、また夜は店に戻ってきましょうね。」
「了解です!」(ビシッ!)
キリヤが敬礼する。・・・どうやらファレルには先生気質があるようだ。
「・・・んじゃ俺も失礼するぜー。これ以上一緒にいたら息つまる!」
そう言って俺もスイーっと飛んでいく。
ファレル達は何も言わず、リインは手を振っていた。
・・・俺が逃げ出す可能性は考えてないのか・・・?
◇◇◇
「ふぅーーー・・・」
ようやく一人になれた・・・
この街で一番高いビルの屋上で大の字になって寝転ぶ。
今が一番気持ちがいい時間だな。
「・・・・・・」
そよそよと流れる風を受けながら、俺は静かに目をつむる。
そして考える。・・・今なら逃げられる・・・
『アハハー何考えてるのかなーアハハー』
・・・ダメだ。笑いながら切り刻まれる・・・
・・・俺も元の力が戻ればなぁ・・・
「・・・ん?」
そんなことを考えている時だった。
街の外に向かって歩いている人影を見つけた。それはついさっき別れたカイキの姿だった。
「・・・なにやってんだ・・・?あいつ・・・」
・・・どうせすることもないし、俺はこっそり後をつけることにした。
◇◇◇
「・・・どこまで行くんだ・・・?」
街から出たカイキはどんどん進み、森に入るころにはシバルの街が小さくなっていた。
「・・・・・・」(サクサクサクサク、、、)
未だに止まる気配のないカイキ。俺はその後ろを静かに飛んでつけていく。
「何考えてんだ?」
その時だった。
「・・・・・・」(ピタッ!)
「お・・・・・・!?」
カイキの目の前に、無数の魔物と死人達が群がっていた。
『・・・ヨウヤクミツケタ・・・』
『ア・・・アノトキ・・・二・・・ニゲ・・・タヤツ・・・』
ウゴウゴと喚きだす魔物達。その動きはとてつもなくキモチワリィ・・・
しかしカイキはそんな魔物達に臆するわけでもなく。
「・・・待ってたぜ!」
その言葉と同時に右手から術式でしまっていたあの錫杖を取り出し、構える。
「ちょうど体がなまってたんだ・・・付き合ってもらうぜ・・・!」
そう言って魔物達に向かって行く。
おいおいそんな病み上がりな体でどうすんだ!・・・・・・って思ってたんだが・・・
「・・・ヒュッ!!」
『グアッ!!』
『ガフッ!!』
・・・どうなってんだ・・・?どんどん敵が切り倒されていく・・・
あいつはただ錫杖を振り回してるだけなのに・・・ってあれ?
「ハァァ!!!」
『ギャアアア!!』
錫杖の頭の部分が・・・飛び回ってないか・・・?
『・・・グォッ!・・・ナンダ・・・コイツ・・・・・・!!』
「・・・・・・お前で最後だ・・・!」
カイキがそう言うのと同時に、飛び回っていた錫杖の頭も戻って来た。どうやら鎖で繋がれているようだ。
そして武器を構え直すと錫杖は光だし、武器の上下が形を変えていく・・・・・・
「これは・・・」
「・・・・・・発動・・・・・・!!!」
錫杖の長さも伸び、上下に巨大な鎌のような刃が付いた武器へと変形していった。
「・・・切り刻め!!!」
武器を振ると片方の刃が飛び出し、敵を切り刻んでいく。
『ガアアアアァァァァァ!!!』
けたたましい叫び声と共に、魔物が倒れていく。
そこに残るは、静寂だけ・・・・・・
「・・・・・・」
コイツ・・・カイキの武器は錫杖じゃなく、鎖鎌・・・それも術式で強化された特殊なものだ。あの時店の中でルイスに言った『ギミック』とはこれの事だろう・・・
あまりにも衝撃的なシーンを見て、思わず気配を消すのを忘れていた。
「そこ・・・誰がいるの!」
「うゎ!!」
驚いて声まで上げてしまった・・・情けねぇ・・・
「お前・・・あの鳥・・・」
「鳥じゃねぇよ!!!」
こちらに振り替えると同時に武器をしまい、カイキは尋ねてきた。
「何の用?・・・まさか今の、ルイスに告げ口とかする気?」
「なんでそうなんだよ!別に俺はあいつの駒使いじゃねーし!!・・・気になってついては来たが・・・」
「・・・別に・・・」
その途端、急にしおらしくなりやがった・・・やっぱこいつ・・・
その時だった。
『ずいぶん面白いことになってるな・・・?』
「「!!?」」
俺達しかいないはずなのに、どこからか声が聞こえてきた。見回してみても、姿は見えない・・・
「誰だ!?」
(・・・クッソ、魔物達の残骸のせいで鼻が利かねぇ・・・!!)
『ああ、別に。ここで殺ろうってわけじゃないから。ただの様子見。・・・まぁすぐにまた会うことになるだろうけど・・・』
声のする場所を必死で探す。すると、わずかに気配をたどれた。
「・・・そこかぁぁ!!!」
今の俺の魔力をすべて集中させてそいつに向かって投げつけた。それは火の玉のように、まっすぐ向かって飛んで行く。
「!」
------ドゴオオォォォ!!------
「お!?」
魔力でぶつけたあたりの木々が倒れていく。
思った以上の威力に自分が驚く。
「よ、よし!やったか!?・・・ってあれ、気配ない・・・」
あの瞬間に相手はすでにいなくなっていた。
「と、とりあえずいったん戻るか!・・・ってなんだよ・・・」
「・・・あんた・・・その姿・・・」
振り返るとカイキがじーっとこちらを見ていたことに気づく。
そして言われて自分の違和感にも気づく。
「は?姿って・・・・・・ん゛!!?」
いつの間にか、俺の体が人間の姿になっていた。
身長・体格的にはファレルぐらいの・・・・・・
「は!?いや、ちょい待て!!なんだこれ!!?」
「・・・どうやらさっき魔力を集中した時に、思わず自分が変身しちゃったみたいだな・・・」
「って何冷静に分析してんだよ!!」
とりあえずこのままじゃ飛べん!!羽でねぇし、致し方なく戻れ戻れと念じてみた。
「このまま大きくーー・・・は、無理か・・・仕方ねぇ、さっきの体に戻れ戻れ戻れ戻れ・・・」
「・・・呪文のようだな」
カイキが呆れるのもよそに、念じた効果はすぐに出た。
------ポンッ!!------
「お!」
「あ、戻った。」
何とか元の姿に戻れた。
・・・いや、元ではないけど。これじゃないと飛べないし!!
「・・・あんたも、まだ魔力が不安定なんだな。でも、いずれはその魔力を羽の形にすればさっきの人の姿でも飛べるようになれると思うよ。」
「いや、俺は元の巨大な体に戻りたいんだ!!!」
そう言いあいながらも、俺達の間に笑みがこぼれていた。
なんだかんだで気が合うようだった。
・・・たださっきの気配・・・少し気になるな・・・
「・・・しょうがない、いったん戻ろうか!」
「ケッ!もう子守りは御免だぜ・・・」
その後も少し言い争いながらも、シバルの街へ戻っていく。
もう最初のような疑心や不安はなくなっていた。
◇◇◇
「・・・大丈夫だったみたいですね。」
「「ん!!?」」
ようやくシバルの街に着いたはいいが、入り口にファレルが立っていた。
俺達の姿が見えると同時に手を振っている。
「な・・・なんでお前・・・!!」
「いやー・・・一応様子は見てましたから。手を出そうか考えてましたが、余計な心配だったみたいですね。」
「「見てたのかよ!!」」
・・・さっきから俺とカイキの息ぴったりだな・・・
するとファレルは俺達の前に近づき、手を差し出す。
「これからは君も頼りにさせてもらいます。でも君も俺達を頼ってください。一緒に進む同志ならば。」
「あ・・・・・・」
その言葉を聞いて、カイキは固まってしまった。
でもすぐに笑顔になる。
「あぁ!よろしく!!」
同志・・・ね。
あぁ・・・俺もさっさと逃げ出しとけばよかったか・・・?
「クロウ。」
「なっなんだよぉ!」
ファレルがこちらに振り向く。
さっきから急に呼ばれるからビビる・・・
すると、
「・・・ありがとう。」
「え゛!!」
いい笑顔で礼を言われて固まってしまった。
「そんじゃ戻りましょうねー。」
「ってちょい待て!!」
急に切り替えて街中に戻っていくファレル。
追いかけようとしたら今度はカイキが呼び止めた。
「クロウ・・・ちょっと待って。」
「ッ!今度は何だよ!?」
なんだかんだで今日はろくな目に合ってないからな!正直早く一人・・・一匹になりたかった。
「・・・俺の父さんも、クロウって名前なんだ・・・俺も力になれることがあれば協力するから!」
「へ・・・」
思いもよらぬ言葉に返答に困っていると、カイキはどんどん顔が赤くなり腕で顔を隠しながら走り出してしまった・・・・・・照れ隠し・・・?
「同じ名前ね・・・」
カイキの言葉が、体の中をぐるぐる回っている。
確かに、もともと魔導士の親子なら何とか出来るかも・・・・・・
「・・・・・・ハッ!!」
・・・俺が、期待とか・・・
『——————俺がここから出してやる!』
・・・・・・俺も、変わってきてるのかねぇ・・・・・・




