● 隠されし始まりの贄 ●
「なるほど、お前の武器は錫杖か・・・」
あらかた自己紹介も済ませ、カイキの話を聞きながら彼の武器を見させてもらっていた。
「そだよ。父さん譲りで少しだけ魔法が使えるんだけど、その力で体内に収納できるんだ。ちなみにそれ、ギミック付き。」
「え。」
武器を受け取りながらカイキがにっこり笑う。
「・・・試す?」(にっこーーー)
「・・・や、遠慮しときます・・・」(汗)
どうやら調子が戻ってきたようでまぁよかった・・・
カイキが武器をしまうのを待っているとき、ファレルが口を開く。
「それで、ルイス。これからどうするんですか?」
何かを考えていたファレルが壁に寄りかかりながら話す。
「カイキの実力はいずれ見せてもらうとして、これからどう動くんですか?もう一度研究所を洗うって言っても、またさっきみたいに消されていたら・・・それに、魔物達の対処も何か考えないと・・・」
「ちょっといい?」
ファレルの話の途中でカイキがきりだした。
「あんた達はさ、死人や人形達の事どこまで調べてんの?」
「・・・・・・ん゛?」
死人や・・・人形達?
俺達皆顔を見合わせていた。
「あの、さ・・・俺達は死人達の事を人形と呼んでんだけど。操り人形だから・・・」
「あぁ・・・」
それを聞いて何かを納得したように、カイキは続ける。
「あんた達は、まだあれの正体を知らないんだね。」
「正体・・・?何のことだ。」
話の優先順位が変わった。皆カイキの方に向き直る。
「さっきも話したように、俺は父さんと魔物についてずっと調べてたんだ。・・・魔物は負の感情が魔力を帯びて集まった存在だと言われているだろ?確かに最初はそうやって生まれたようだが、今の魔物達はすべてその最初の魔物の遺伝子・・・魔力を分けて造られた存在だということが分かったんだ。世界中に今いるほとんどの魔物は、造り物だよ。」
「な・・・・・・!」
俺は冷静に聞いていたが皆、驚きを隠せない。
誰もが真実だと思っていたことが、実は偽物だったとは・・・
しかも龍や人々を苦しめている魔物が、まさか誰かが造った存在だとは・・・・・・
「・・・それが事実だとして、しかしよく分かりましたね。最初の魔物と今の魔物が別物だと・・・」
ファレルが尋ねる。それにすぐさまカイキが答えた。
「遺伝子が違うんだよ。父さんに言われて、いろいろな魔物を捕まえて調べてたんだけど、皆一部だけ同じ細胞があったんだ。その細胞を取り出して遺伝子情報を調べたら、組織自体今いる魔物と違う存在だということが分かったんだ。・・・まぁそれが最初の魔物かどうかは見つけてみないと確定できないんだけど、こういう結論に至ったわけだよ。・・・多分今の現状を見るに、政府が全部造ってるんだろうけど・・・」
「なるほどな、さすが天才科学者と言われただけはあるもんだ・・・」
「あんたさっきの・・・」
別の部屋に行っていたコルスが戻って来た。しかし、何かカイキとの間に不穏な空気が・・・
「天才科学者?」
「知らないのかい?そいつの父親はそっちじゃ結構有名だよ。実力ともね。一時期は政府に勤めていたとも・・・」
「だからなんでそんなことまで知ってんだよ!!」
コルスとカイキの間にバチバチと火花が見える・・・
なるほどね・・・そこまでの実力ならある程度調べられる・・・狙われたのもそれが原因か。
「それよりルイス。行く当てまだ決めていないのならカグナ遺跡行ってみないかい?」
「カグナ遺跡・・・ってあの地下遺跡?」
コルスが何か資料を広げながら提案する。
「さっき情報が入ってね。何やらまた騒がしくなっているようだ。地上にはエギルの施設も残っているし、ついでに調べて行きなよ?」
コルスの情報は一体どこから入るのか・・・しかし的外れなことは一度もない。行く価値はあるってことだ。
「なるほどな、了解だ。皆も異論はないか?」
資料を確認してから、皆に了承を得る。
「まぁ、俺は何処までもついて行くだけですし。」
「俺は別にどこでもいーしー。」
「あ、私たちは皆さんに助けてもらっている身ですし!お手伝い出来るのであれば!」
「お、俺も異論なしです!」
ファレル、クロウ、リインにキリヤ。一人ずつ答えてくれた。最後にカイキに尋ねる。
「カイキ。お前はどうする?」
「どうするって・・・」
少し考えてから、話す。
「・・・今父さんがどこにいるか分からないし、手がかりが得られるなら俺も行くよ。・・・襲ってしまった詫びもあるし・・・」
「・・・気にしてたのか、別にいいのに。」(笑)
「笑うな!!!」
こうして新たな仲間が加わり、次なる目的地も決まった。
しかし、謎も深まるばかりだな・・・・・・
「始まりの魔物・・・か・・・」
感情から生まれた魔物・・・
世界中を旅していたらいずれまみえる時が来るかもしれない・・・
それがたとえどんな存在でも・・・俺達の害となるなら、狩るだけだ!
◆◆◆
カツン、カツン・・・
「・・・・・・ハァ」
ここは中央政府、その中枢区画。
高い塀に囲われ、誰も中を知る者はいない。政府に勤めている者達は、任務以外で外に出ることは禁じられている。
・・・普通の人間がいればの話だが。
「・・・・・・気持ちわりぃ・・・」
男はそのままさらに奥深くに進む。通り過ぎる人間は皆敬礼をする。
そうこうしているうちに目的の場所にたどり着いた。
人間の何十倍もある、大きな大きな扉。
「・・・・・・」
ここまでくると人間は誰もいない。誰も立ち入ることは出来ない禁止区画。
そこに手をかざし、扉を開かずに中に入る。
そこはまた大きな空間が広がっている。明かりもない真っ暗な部屋のその中心には・・・・・・
「・・・なぁ、あんたは今の状況。どう思ってんのかな・・・・・・」
たくさんの太い管が体に巻き付いた状態で封じられている、真っ黒な巨大な龍がいた。
一寸の光もない、純黒の闇の身体・・・
「・・・力を失った創世龍、逆に力をつけている政府に一人の魔導士・・・さて、これからどう動くかな。」
男はそのまま振り向き、龍に背を向け歩き出す。
すると、足の方から体が霧となりゆっくりと消えていく。
「また来るよ。ルミエール。」
そうして完全に男は消えた。
後に残るは、無音の闇だけ・・・・・・
『・・・・・・・・・』
・・・・・・・これは、今はまだ誰も知らない
始まりの物語・・・・・・・・・
◆◆◆
新キャラ登場です。敵となるか味方となるか・・・二人の名前もいずれ意味が分かります




