番外編 その涙は闇に溶ける
◆◆◆
― 数刻前 —
「しばらくここにいてもらおうか。」
エギルは捕らえた魔導士を窓のない部屋へ押し込む。
ここは施設すべてに対外敵用の魔力封じの結界が張られているため、ゆえに彼は手も足も出せないまま指示に従うしかなかった。
「・・・っ!」
拘束こそされていないが、見張りとして俺が残っているため警戒を解かずにただ立ち竦んでいた。
「・・・・・・」
辺りを見回す。どうやって脱出しようか考えているのだろう。
そんな様子を片目に俺は壁際へ移動し背を預けながら座る。
・・・正直どうでもよかった。
「・・・君は・・・」
俺の行動が意外過ぎてか、彼はこっちに近づきながら訪ねてきた。
・・・どうやら俺に対しては警戒を解きつつあるようだ。
「君は・・・人間ではないね?魔物でもないようだし、なぜあの男に付き従っている。操られているわけでもないのだろう?」
「・・・・・・」
面倒だから答える気はない。
しかし彼は続ける。
「あの男は一体何が目的なんだ?最近噂の死人とも関係しているのか?」
「・・・・・・チッ!」
・・・・・・うっとうしい。
「あぁすまない。君は息子と近い姿をしているからね。本当の年齢は違うんだろうけど、どうも敵とも思えなくて・・・俺はクロウって言う。君はなんて名前なんだ。せっかくだから教えてくれないか?」
「あ・・・」
思わず答えそうになったが、そこまで親しくする必要もないだろ。というかその前に・・・
「・・・あんたの名前とおんなじ名前の奴、他にいる。」
「!へぇ、そうなのか!」
あからさまにうれしそうな顔をする。どうやら会話の内容の前に、俺が初めて返事したのがうれしいようだ。
「一体どんな人物なんだい?あぁいや、人じゃないのか・・・(苦笑)」
この男・・・ずっと一人で喋り続けるな・・・
そんな他愛もない会話を続けていた時・・・・・・
━━━━・・・ドゴォ!!!━━━━
「!?」
「なっ!爆発!?」
突如爆音が響いてきた。
どうやらこの施設のあのガキが連れて行かれた部屋が吹っ飛んだようだ。
「・・・カイキ・・・?」
男が何かを呟いたが、俺には聞き取れなかった。
・・・あのガキ、魔力を暴発させやがったな・・・
気配を探って状況を調べる。もうこの施設にガキがいないことが分かった。
辺りの手下の魔物達が慌てている。そんな時・・・
「・・・あいつ、どうやら逃げ切れたようだな・・・」
ボソッとクロウが呟いた。・・・こいつ、こんな状況でもまだ・・・
「・・・あんた、まだ希望を持ってんのか?」
「え・・・・・・」
突然のセリフに、驚いた様子でこちらを振り向く。
そしてしばらく考えてから、ゆっくりと答えるのだった。
「・・・当たり前だろう。希望をもって何が悪い。こうして息子も無事逃げ切れたんだ。俺だってまだ殺されてないし・・・あぁ。今ならうまく俺も逃げられるかもな?」
・・・なぜ笑っていられる・・・?
魔法も使えないこの状況で、一体何が出来る・・・
「逃げた先でまた捕まるかもしれない。」
「結界の外に出られたら破壊者として戦えるさ。もちろん俺もな。」
全く諦める様子もない。何がこの男を動かす・・・
・・・どうして・・・光を見出せる・・・
・・・少し、この男に興味が出た。
「なぁ・・・賭けをしないか?」
「えっ!賭け?」
予想だにしないセリフにクロウは驚きを隠せない。
まぁ、俺も何言ってんだろって思ってるけど・・・
「あんたがもし、殺されもせず無事にここから出て息子に会えたなら・・・あんたの勝ち。」
「・・・へぇ?何を言い出すのかと思ったら・・・いいよ。乗った。むしろやる気出た。」
「そいつは何より。」
もともとクロウは諦めていなかったが、より一層燃えている。
「それじゃあ君は、何を賭けるんだい?」
「・・・・・・『希望』」
「・・・え?」
俺はクロウに向かって手招きをする。クロウは驚いていたが、恐る恐る近づいてくれた。
そんなクロウの頬に両手をかざし、俺はあるまじないをかけた。
「これは・・・・・・」
「あんたが勝てば、今かけたまじないが力を貸すだろう。そこに俺の『希望』もいるはずだ。」
・・・もう一度、人間を信じてみようか・・・
「君の言う希望って・・・・・・」
「・・・・・・」
なぁ・・・・・・ルイス・・・・・・
◆◆◆
「やってくれたな・・・あいつ。」
煙の出る部屋の前で、男は静かに笑う。
部屋は破壊され、あたりには魔物の残骸が散らばっていた。
「・・・まぁいい。すでに準備は整った。」
しばらくすると別の魔物達がまた集まってきて、部屋の片づけを始めている。
「さて、そろそろ最終段階に入ろうか。」
「もう少し待っていろ・・・ルイス!!」




