表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

3 大阪で待つもの

 早朝、広崎たちはターミナルの駅で待ち合わせ、新幹線に乗り込んだ。一行は男女各二名の計四名である。

 それなりにスーツを着こなしている広崎と違い、もう一人の背が高い若い男は、真っ黒に日焼けした首に窮屈きゅうくつそうにネクタイをめ、少したけの合っていないスーツを着ている。どことなくボーッとした表情とあわせ、体だけ大きくなった小学生の入学式のように見える。

 向かい合わせに座っている若い女は、髪をギュッと一つにまとめ、いわゆる『おだんご』にしている。やや青い顔をしており、時々痛そうに頭を押さえていた。

 もう一人は、ほかの三人より少し年嵩としかさの髪の長い女だった。具合が悪そうな若い女に、心配そうに声をかけた。

「相原さん、大丈夫?」

「すみません。昨夜ゆうべ壮行会そうこうかいで飲みすぎちゃって。二日酔いの上に、髪をほどかずに寝たんで、今頃痛くなってきました。向こうに着いたら、ドレッサーをお借りして、畑中先輩みたいに髪をおろします」

「そうね。じゃあ、少しでも寝た方がいいわ。遠慮えんりょはいらないから」

「でも」

 少し恥ずかしそうにうつむく相原に、向かい側の若い男が話しかけた。

「そうだよ。寝ちゃえよ。晴美ちゃんがよだれたらしても、おれは気にしないからさ」

「バカ!」

 広崎が苦笑して、「玄田くん、椅子の向きを戻そう」と立ち上がり、有無を言わさず、座席を回転させた。

 間もなく若い二人は前後の席で寝てしまったようだ。朝早い新幹線なので、乗客のほとんども寝ている。

 静かに本を読んでいる畑中の前の席で、広崎は絵ハガキを二通手に持ち、交互に読み返していた。

 一通目は風太からの絵ハガキである。

 裏面に劇場らしい建物が写っていて、看板に大きくひらがなで『よじもと』と書かれており、その下に漢字で四次元新喜劇と表示されている。


  関西最大のパワースポット『よじもと』に来ました(笑)。

  現在、路上パフォーマンスなどで食いつなでいます。

  あと二、三ヶ月ほどは、こちらにいるつもりです。

  みなさんによろしくお伝えください。

 

 もう一通の差出人は、なんと、ほむら丸であった。

 やはり裏面は写真で、ライトアップされた大阪城の夜景である。


  若にお願いして、ハガキとやらをしたためまする。

  おきらいかもしれませぬが、御守りの数式を書きました。

  来阪の際には、このハガキをご持参じさんくだされ。


 そのあとに、複雑な数式らしきものが書いてあったが、かゆくなるので、あまり見ないようにして、胸ポケットにしまった。


 広崎たちは、新大阪に着くと在来線で大阪駅に行き、そこから大阪環状線に乗り換え、大阪城公園駅で降りた。

 もう目の前にホテルが見えている。

 皆若いのだが、四人の中では比較的年長の畑中が自然にリーダーシップを取っていた。

「いつ来てもこのロケーションの良さがうらやましいわ。この前来た時は真夏で暑かったけど、今回は気候もいいし。そういえば、玄田くんはここに来るのは初めてだったかしら」

「はい。というか、大阪自体が初めてです。修学旅行で京都に行くとき、列車で通過しただけなので」

「そう。今回は今日の午後と明日の午前の研修で、時間の余裕があるから観光もしたいわね。でも、相原さん、少しは良くなった?」

 相原はペコリと頭を下げた

「ご心配をおかけして、すみません。朝は最悪でしたけど、かなり、回復しました。せっかくですし、お出かけされるなら、連れて行ってください」

 畑中はちょっと立ち止まって、振り返った。

「広崎くんはどうするの?」

「え、ランチですか?」

 何も聞いていなかった様子の広崎に、畑中は吹き出した。

「もう着いちゃうから、話は後でね」

 一行は水路側の入口からホテルの中に入った。

 エントランスを抜けると、吹き抜けの広いロビーである。ロビーの中央にコーヒーラウンジがあり、中二階ちゅうにかいまで上がると全席が見渡せるので、待ち合わせに利用するゲストが多い。

 その中でスタッフがキビキビと動いている。

 フロントの横に小柄こがらだが立ち姿の美しい中年の男が立っており、広崎たちの一行を見つけると笑顔で歩いて来た。

「ようこそ」

 自分より背の高い畑中と握手を交わす。

「丹野インストラクター、お手柔らかにお願いしますわ」

「いやいや、畑中さんにはもっとハイレベルを目指してもらわないとね」

 丹野は広崎を見て、なぜか満面の笑みで、右手を差し出した。

「よく来てくれましたね」

「は、はあ」

 畑中の時より長めの握手だった。


 各自チェックインを済ませ、二十分後にロビーに集合することにし、男女別にそれぞれツインルームに分かれた。

 部屋に入るなり、玄田はニヤニヤしながら広崎に話しかけて来た。

「やっぱり、ウワサは本当だったんですね」

「え、何、ウワサって?」

「広崎先輩がこちら方面に」手のひらをななめに口元に当て「人気があるってことですよ」

「ば、馬鹿なことを言うなよ」

「わかってます、わかってます、先輩にその気がないのは。でも、不思議とモテますよね。市川先輩に聞きましたよ、例の外国人の件」

「もう、その話はやめろよ。それより、出かける準備をしよう」

「はあい」玄田はちょっと舌を出した。

 荷物をクローゼットに入れ、楽な服装に着替えることにする。

 広崎は、クローゼット横のテーブルに箱入りの菓子があることに気付いた。見るとメッセージカードがえられていて、『いこい会より』と書いてある。

 玄田も気づいたようだ。

「へえ、お土産みやげですか」

「ああ。なごみ会の畑中理事長がいるから、大阪の社員会のいこい会が気を使ってくれたらしい。そういえば、部屋も今回はセミスイートだしね」

 窓のカーテンを開けると、玄田は感嘆かんたんの声を上げた。

「わあ、窓から大阪城がよく見えますね。手前にあるのは大阪城ホールですか」

「ああ」

「NHK大阪も見えるかな」

「この角度からじゃちょっと無理だろう。さあ、そろそろ行こうか」


 ロビーに降りると、畑中が同じくらい背の高い女と話していた。

 長い髪を後でたばね、グレイのジャケットに白いブラウスの制服を着ている。

「広崎くん、紹介するわ。いこい会理事長の錦戸にしきどさんよ」

 錦戸は広崎に微笑ほほえみかけ、名刺を差し出した。

「はじめまして、錦戸と申します。よろしくお願いします」

 名刺には【研修室付き秘書 錦戸麗香】とある。

「あ、こちらこそ」

 広崎も名刺を渡し、握手を交わす。手のひらの柔らかさにドキリとした。

 続いて握手された玄田も少し顔を赤らめている。

 畑中はちょっと皮肉っぽく笑った。

「あらあら。全国のグループホテルの社員会で現在女性理事長なのは、いこい会となごみ会だけだけど、男性陣の反応がずいぶん違うのね」

 二人とも美人だが、顔も性格もキッパリしたタイプの畑中に対し、錦戸は全体にやさしそうな感じである。もちろん、そんなことは言えないから、男性二人はドギマギしていた。

 その様子を見て、畑中はいたずらっぽく笑った。

「二人とも喜んでちょうだい。錦戸さんが大阪城を観光案内してくださるそうよ」

「はい。お昼までまだ時間がありますし、せっかくですから歩きながら『大坂城』の歴史などをお話ししますわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ