表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

10 排他原理

 風太は笑顔で「もちろん助けるつもりです」と答えた。

「そのためにも、原因を調べなくてはなりません。今でも、ほむら丸にはこちら側から、みずち姫には向こう側から、それぞれ調査してもらっているところです」

 細切り肉入り春巻はるまきにかぶりついていた玄田が、「そもそも、向こう側ってなんすか?」といた。さすがにもうあきらめたのか、相原もめなかった。

 風太は「そうだなあ」と玄田にもわかるような説明を考えていたようだったが、錦戸に向かって、「食事中すみません。ちょっとお借りしたいものがあるんですが、いいですか?」と頼んだ。

「はい、何でしょう?」

「紙コップを何個か。それと大きめの下敷したじき一枚をお願いします」

「紙コップはすぐにご用意できると思いますが、下敷きは事務関係の部署ぶしょを探してみます」

「ご面倒をかけます」

 相原が、「あんたのせいよ!」などと言って玄田を軽くたたいた。だが、玄田はなぜ自分が責められるのかわからず、キョトンとしている。

 畑中は、風太がどういう説明をするのか、興味津々しんしんのようだ。

 ほとんど待たされずに錦戸は戻って来た。

「下敷きではないのですが、これでいいでしょうか?」

 錦戸が持っているのは、A3サイズのチラシが入ったクリアケースだった。

「ああ、逆に、下敷きよりいいです。ありがとうございました」

「紙コップはこちらに」

 十個の紙コップを受け取ると、風太は五個ずつに分けた。

 上向うわむきにした五個の紙コップを適当に並べ、その上にチラシが入ったままのクリアケースをせ、さらにその上に残った五個の紙コップを同じように上向きに並べた。

「いいかい?」

 豚の角煮かくにしパンにはさんで、大きく口を開けて今にも食べようとしていた玄田に、横から相原がエルボーを入れた。

てっ。なんだよー」

「今から説明してくださるのよ。ちゃんと聞きなさい!」

 風太はニコニコ笑い「いいんだ、いいんだ。耳だけこちらに向けてくれればいい。みなさんもどうか、食事を続けてください」とうながした。

「さて、このクリアケースの上をぼくらの世界、下を魔界としよう。三次元が二次元になってると思って欲しい。今はちょうどチラシが間に入ってて、お互いに見えない。特殊な能力を持った人、いわゆる霊感が働く人はチラシがけて見えるらしい」笑顔で相原をチラ見し、「だけど、このチラシに穴がいていれば普通の人にも見える。それが、怪奇現象や超常現象として報告される事件になる。さらに、クリアケースそのものに亀裂きれつがあれば、そこを通って行き来もできる」

 風太は下の紙コップを一個取り出し、上の紙コップのさらに上を移動させ、下に戻した。

「今みたいに、魔界の存在がこちらに出て来ても、同一平面になければぶつからない。ぼくらは三次元で見ているから、下の紙コップが上に来たのが見えたけど、実際には、上の紙コップには見えない。だけど」

 今度は下の紙コップをクリアケースの上に載せた。

「こうなると、同一平面だから上の紙コップにも見える。これが実体化だ。でも、こんなに百パーセント実体化することはなくて、普通はもう少し浮いてる。いわゆる位相がズレている状態だ。だから、ほむら丸やみずち姫のような式神も少し半透明になっているし、そのおかげで壁もすり抜けられる」

 少しは風太の説明がわかったのか、牛肉のオイスターソースいためを食べながら、ふんふんとうなずいていた玄田が、「百パーじゃダメなんすか?」とたずねた。

「いい質問だね」風太はニヤリと笑った。

「物質が優勢なぼくらの世界には、排他原理はいたげんりというのがある。同じ時間に同じ空間を二つの物質が占有せんゆうすることはできないんだ」

 風太は、下から上に持って来た紙コップをすべらせ、別の紙コップぶつけた。元からあった紙コップははじき出されてしまった。

「ただし、別の方法がある」

 風太はアルカイックスマイルを浮かべると、下から移動させた紙コップを、上に元からある紙コップの一つにスッポリと重ねた。

「これが、憑依ひょういだ」

「あ、でも、なんかおじいさんみたいな声が、憑依じゃないって、言ってたすね」

「よく覚えてたね。それは、こういうことさ」

 風太は、紙コップを一個テーブルに置いて、水が入ったガラスのコップを重ねた。すると、パンと音がして、紙コップはけてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ