行方
森の中にひっそりと佇む民家が1つポツンとある。
そこが俺の家である。
でも実のところは家主は柳沢椋最という俺と同じ位の身長の女性だ。
俺と椋最さんは同じ名字をしているが血は何一つ繋がっていない。
俺は幼い頃、害獣に襲われた村で一人でしぶとく生き残っていた所を救われたらしい。
記憶などない。
医者が言うには過度のショックで記憶が無くなってしまったとか何とか。
なので本当の両親の顔など知らない。だけど別に知ろうとは思わない。
口煩いお節介焼きの人ではあるが俺を大事に育ててくれた椋最さんに出会えたのだから俺は悲しさも憎しみもない。
そんなこと考えてたら何か恩返しをしないとな。
約束を破られた事は何度か合ったが仕事で忙しい事も分かっていたから其ほど椋最さんに対して恨んだ事もない。
むしろ俺は椋最さんの事が好きなんだと思う。
目の前で爽葉が用意した料理を貪る真っ白な少女。
彼女の必死に食べる姿を見てふと思い出に浸っていた爽葉。
かつての椋最のように自らも誰かを救いたいという衝動にかられてしまったのだ。
ただでさえこの娘は自分よりも一回り小さい娘なのだ。
そんな娘を救えたんだからこの偽善と思われる行為も報われると思う。
そんな事を考えていると少女は勢いよく食べ過ぎてむせていた。
爽葉「おい?大丈夫か?」
爽葉がむせる彼女の背中を擦ろうとすると、それに気づいた彼女は跳び跳ねて爽葉から離れた。
かなり警戒されている。
今は休めたから傷も大分消えているようだが、まだ少しフラフラしている所をみると完全に治った訳では無さそうだ。
当然だ。あれほどの量の血を流していたんだから2日や3日で完全になおる方がおかしい。
だが彼女は2日や3日であれほどの傷が消えつつあるのも不思議な物だ。
フラフラとしていた彼女は遂に限界を迎えたのか突然倒れた。
恐らく貧血か何かだろう。
爽葉「無茶するからだ...」
爽葉「...しかし...一昨日から救急車に連絡しても全然繋がらないしどうなってんだよ...」
爽葉「まあ仕事も一昨日から休み貰えてるからいいけど」
倒れた少女を抱えてベットに運び込んだ。
スースーと可愛い寝息をする少女を見て微笑む爽葉。
自分はあくまでも少女を助けたいだけであって決してロリコンではないと言い聞かせながら少女が食事をしていた場所を掃除し始めた。
場所は日本害獣討伐統制本部の会議室。
そこに険しい顔をした複数の男達が1つの長机を囲って座っていた。
男1「ではまず今の現状についてだが禄堂くん例の奴は見つかったかね?」
一人の男が訪ねる。
他の者は質問された男の方を向く。
禄堂「はい。今現状では奴の発見には至っておりません。」
男2「おいおい待ってくれよ?敵が我々の領地に潜入しているというのにどういう事だね?」
男3「今も奴は無関係な市民に手を出すやも知れんのだぞ!」クワッ
男2「君がヘマをするからこういう事になったじゃないか」
男3「どう責任をとるつもりだ!!」
男4「まぁまぁ落ち着いて下さいよ御二人さん。御二人の気持ちは私も分かりますがここは静かに彼の話を聞こうではありませんか。」
男2「おっと失礼。どれ禄堂君の言い訳とやらを聞かせてもらえるかな?」
禄堂の後ろにいた女彼らの言葉に拳をフルフル震わせていたがここは禄堂本人が彼女を止める。
禄堂「はい。皆さんの御気持ちは嫌というほど分かっております。私の犯した失敗は全力で取り戻すつもりです。」
男4「当然だ。だがもし市民に何かが起こったらどう責任をとるんです?」
禄堂「もちろん責任をもって辞職致します。」
男4「いやそれだけでは生ぬるいですね。牢壁行きにもなって貰わなければ市民が黙ってはいないでしょう。」
禄堂「ええ。私の失敗はそれぐらいの罪があります。万が一市民に何かが起きた際はその罰を受けるつもりです。」
その後は会議は別の話題に変わった。
??「納得いかない!!アイツら禄堂さんの事羨ましがってあんなこと言ってるんだ!無能な癖に優秀な人を貶すのが大好きなんだよ奴等は!!」
禄堂「柴捺大丈夫だ。私は別に気にしてはない。」
柴捺「でも牢壁行きになるって...」
禄堂「気にするな。別に決まった訳ではないだろう。」
禄堂と柴捺は二人だけで残っていた会議室を後にする。
すると扉の先に一人の男と少女が立っていた。
男「ダハハハ!どうした覇気の無い顔いつもの元気はどうしたんだ?」ニヤッ
禄堂「...探索はどうしたんだ双崎?俺を煽る為にサボってるのか?」ギロッ
皮肉を言う男の双崎を睨み付ける禄堂。
それに押されたのか双崎は両手を挙げてハイハイと溜め息を吐きながら謝り、本題にはいる。
双崎「安心しな。あんたがなに言われたのかは大体分かってる。」
双崎「そんなあんたに朗報だぜ?」
禄堂「なんだ言え。」ギロッ
双崎の言葉にさらに彼を睨み付ける禄堂。
今にも飛びかかりそうな勢いだった。
双崎「奴の居場所が大体絞れてきた。奴の発する特殊電磁が濃くハッキリしてきたぞ。発見も時間の問題だぜ?」
禄堂「...つまり奴は回復しつつあるって事か...危険だな。」フム
双崎「確かに問題はそこだな。だが安心しろちゃんとコイツといるから大丈夫だ。」
双崎の隣にいた少女を指差す双崎が気に入らなかったのか少女は双崎を睨み付ける。
少女「こういう時だけ頼る貴方を助けるつもりなんてありませんよ?」
双崎「本当に可愛く無いやつだ...」
禄堂「志伊良ちゃん。こんな奴だが私の守らなきゃならない部下の一人なんだ。奴を守ってやってくれないか?」
禄堂の言葉に少女の志伊良は姿勢を整え敬礼する。
志伊良「ハイ!禄堂さんの御命令であれば全力で全うする所存です!!」ビシッ
禄堂「ええ。頼みましたよ。」ニコッ
双崎「俺とは全然違うな。」
志伊良「当たり前です!とにかく直ぐに向かいますよ!!」バッ
志伊良は禄堂に頭を下げ双崎の手を引いて早歩きで去っていった。
その二人の姿を見えなくなるまで見つめていた禄堂の目には先程の黒い目に僅かながら光が戻っていた。
柴捺「禄堂さん。もう少しの辛抱ですね。」
禄堂「そうだな。今はまだ誰にも負けるわけにはいかない。」
そう自分にも。
彼らにも。
笑いなよ。どんなに辛くても悔しくても笑ってなよ。愛想笑いだっていい。そんな人の方が人生勝ち組だ。