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ディアナ王女。

フィリルが居なくなって、部屋が途端に静かになった。


突然悪意を向けられたり、癇癪を起こされるのは困るけれど、このお二人と部屋に三人きりと言うのもこれはこれでなんとも居たたまれない。


(彼女はどういった立ち位置の人間だったのかしらね?)


思えば馬車から降りて出迎えられた時も、案内されている間も、どこかトゲトゲしいというか悪意の片鱗はすでにあったように思う。

着いてくるのが当たり前といった態度であったし、主人の客人に対する態度としては、とても及第点とは言えないだろう。


出で立ちといい、王宮のメイドや侍女というには違和感がある。


「お兄様」


メリッサが内心で首を傾げていると、王女は兄に「フィリルの様子を見てきて下さらない?ついでにメリッサ様にお茶をお願いしたいわ」と言った。


(……え?お兄さん、しかも王子様で公爵様よね?)


王女の物言いはまるで兄を顎で使うようで。

メリッサは少しばかりびっくりして顔を上げた。


すると王女と目が合ってしまう。

王女はぎこちなく笑って、「メリッサ様もお兄様はいない方が落ち着くでしょう?この顔は誰かを思い出してムカつくでしょうし」なぞとのたまった。


メリッサは何も言えなくて、曖昧に目を逸らす。

頭の中には、なにこの人という気持ちが湧き上がってしまう。


(なにかしらイメージが……)


見た目は儚げなのに。


「……しかし」

「説明ならば私が致しますわ。大丈夫。今日は体調がとても良いの。疲れたら少し休ませて頂くわ。よろしいかしら?メリッサ様」


そう言ってまた頬をひきつらせて笑うのに、メリッサは小さく頷いてみせた。

と、いうかそうするしか仕方がない。

王女様相手なのだから。


(……でも)


心配ではある。

王女の笑いが引きつってぎこちない動きなのは、表情筋が上手く動かせないからだろう。

つまり手足だけでなく、それ以外の部分にも軟化が広がっているということ。


こうして話しているだけでもずいぶん無理をしているのではないか。

だが王女相手にメリッサが意見を挟むことはできない。ならばせめてできるだけ無理をさせないように注意して見ているしかない。



「そもそもの元凶は私なのですから、私自身で説明させて頂きたいの」

「わかった。だが」

「ええ。無理はしないわ」


二人の兄妹は頷き合って顔を見合わせる。

ややあってコルト閣下が部屋を出て行って、メリッサは王女と二人きりになった。



「まずは私のことからお話しさせて頂くわね?メリッサ様は私のことを何か聞いたことがあって?」

「王女様の?」


問われて、メリッサは記憶を探る。


王国の第二王女。

国王陛下には子供は五人。

男子が三人に、娘が二人。


ディアナ王女は末の娘で確か今年で12才ーー。


そこまで思い出して、メリッサは頭の奥にずっとくすぶっていた違和感に気づいた。

そう、何かがおかしいような気はしていたのだ。


何がおかしいのか、ようやくわかった。


ディアナ王女は12才。

見た目も小柄で細いせいか、少し幼く見えなくもないけれどそれでも11、2の年相応に見える。

雰囲気が大人びているから、見た目よりも時相応に見えるのだろう。


魔力硬化症の発症年齢は7才以下。

余命はおよそ二年から三年。


計算が合わないのだ。


本来なら、


すでに亡くなっているはず。


(……それに)


ディアナ王女はまだ成人前のため、夜会などの公の場にはほとんど姿を現さない。

けれどそれはほとんどであって皆無ではない。


例えば新年の祝賀の日。


王宮のバルコニーに皆で姿を現し、国民に挨拶をする。それにはディアナ王女も確かに毎年出席していたはずだ。

確か王女は肌が弱く常にベールを顔に纏っていると聞いたことがある。

けれど足が悪いだとか、椅子に座ったままだとかいう話は聞いたことがない。いくらメリッサが社交に疎いといっても、さすがに自国の王族の様子くらいは聞き及んでいる。


(この状態で、王女様が出れるはずがない)


ならば、皆の前に姿を現している王女は。


ーーいったい誰?


「先ほどのフィリルは私の従姉妹で、私の、身代わりなのです」


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