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病。

魔力硬化症という病がある。


かかるのは魔力を持つ成人前の子供だけ。

大抵は7才よりも前に発病し、10才までは生きられない。


別名を筋軟化症とも言われるその病の主な症状は一つが色素欠乏。

発病してから一年から二年の内に身体から色素が失われていく。


肌も髪も瞳も。

すべてが白一色に染まっていく。


そしてもう一つ。


筋肉の軟化。



人間の身体の中には魔力が全身を巡っている。


血液が全身を巡るように、魔力もまた全身を常に巡っているのだ。


その巡る魔力量や質は古い、貴族の血族ほど多く高い。

実は魔力がないとされる平民でも僅かな魔力は必ず持っている。ただ量が少な過ぎてないとされているだけ。



その全身を巡る魔力が6、7才の子供の時期にだけ、ごく稀に瘤のように固まってしまうことがある。

血管の中に血の塊ができ、瘤になったことを考えてみればわかりやすいか。

血流は阻害され、脳や心臓にできてしまうと死に致る恐れがある。


同じように、魔力もまた瘤ができると全身を巡る魔力の流れが阻害される。

 

どうしてそうなるのか、何故子供だけなのか、詳しいことはわかっていない。


わかっているのは魔力が固まりやすいのはまず手足の指先のような身体の末端からということ。


一つ、二つできたくらいの内は、自覚症状はない。

けれどその一つ二つのせき止められた魔力はまた別の場所に瘤を作る。

そうするとまずその部分から色素が失われていく。

少しずつ、少しずつ色が失われていって、その次に瘤のできた部分、その周辺の筋肉組織が軟化していく。


ふにゃふにゃのぶよぶよに。


その病で亡くなってしまった子供の身体は、どれも触れるとふにゃりと綿のような感触の中に骨があるという。


筋肉がそのような状態では、当然その人間はまともな運動は出来ない。

と、いうか、一切の動き、活動が失われていく。


まず手足から。  

それから腸や内臓。

やがて心臓に至ると死に至るけれど、その前に瞬きや口を僅かに動かすことさえ出来ない苦しみがある。



わかっている治療法は一つだけ。


[レディナ]と呼ばれる薬を飲むこと。


[レディナ]はその素材としてレディという名の鳥の卵の殻を砕いたものを主に使用することからそう呼ばれている。


三年に一度だけ、雪深い山の頂でたった一つの卵を産む。レディは普段は穏和だけれど、産卵のその時だけは非常に狂暴になる。

その為卵を奪うのはとても大変で、しかも[レディナ]の素材にする為には調合する直前まで卵に罅一つ入ってはいけない。


他にも三つ、希少と言われる素材を必要とし、そして調合する人間は魔力と調合の技術、この二つを揃って持っていなくてはいけない。 



高位貴族でさえ、子供がこの病にかかれば最後、諦めるしかないと嘆く。



目の前の少女は、その病に冒されている。


白い肌、白い髪、薄い瞳の色と、ベッドに投げ出されたぴくりとも動かない細過ぎる左手がそのことを示していた。掛けられたブランケットに隠された両足も、恐らくはすでに……。



「ごめんなさい。お客様の前でこのような格好で。ですが私はもう一人では着替えることも椅子に座ることもできないのです。せめて椅子に座ってお迎えしようかとも思ったのだけれど」


手伝う側がとても大変だから、と少女は視線を伏せる。


「貴女に来て頂いたのは、私のため。お父様が貴女とヘルト兄様を婚約させたのも私のため。貴女に[レディナ]を作ってもらうためなのです」

「……え?婚約、も?」

「そのあたりは私が説明させてもらおう」 


突然割り込んだ声に、メリッサは思わず顔を向けて、目を瞬かせた。

その声は、先にドアの前で聞いた声。

その男性の顔は。


「……ヘルト、様?」


(いいえ、違う。とても、似ているけど)


ヘルト王子を十歳ほど年をとらせたらちょうどこうなるだろう、といった顔。


「私はコルト・ケーリカ。これは私の妹でディアナ。ディアナ・アルバッハ」


カツカツとゆっくりとした歩調で第二王子の名を名乗った男性はメリッサの前に歩み寄った。


そうしてメリッサの手を取るとディアナが半身をおこしたベッドの傍らにあるソファーにメリッサを導いていく。

促されてメリッサが戸惑いながらもソファーに腰を下ろすと、そのままコルトは床に膝をついた。


「閣下!」


驚いて立ち上がろうとするメリッサを「そのままで」と穏やかな声音が留める。


「説明の前にまずは詫びを。弟の馬鹿な真似と、私のしたことと、それからこれまでまともな説明も何もなくきてしまったこと、それに恐らくは彼女や騎士たちが君に取ったであろう態度のことも。申し訳なかった。すべては王家の都合と私の不手際から起こってしまったことだ」


そう言って頭を垂れたコルトの頭をメリッサは茫然と目を見開いて見下ろすしか出来なかった。

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