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王都へ。ー1

「おぶぇっ!ぐへっ!」


今日も帝国駐屯地奥にひっそりと隠された天幕の中では、絶えることない嗚咽が響く。


ヘルト・アルバッハが捕虜として捕らえられて10日。

帝国兵士も実はこっそり「エグすぎるでしょ。あれなら普通に拷問される方が絶対マシ」と噂する地獄の実験が始まって4日が経つ。


幸い?にもヘルトの実験は比較的早く終わった。

病の潜伏期間はおよそ3日。

それを考えれば実験が始まってすぐに寄生されたことになる。


当然といえば当然だが、下痢と嘔吐は実験の始めからすぐに見られたが、いよいよ高熱にもうなされるようになったのだ。


「薬師としてこのようなことはさすがに容認できません!何故このような真似をなさったんですか!」


発症しているかを確認するために呼ばれたアリスト第二衛生士長が激怒して閣下に詰め寄るという一幕はあったが、無事?発症が確認されたことでヘルトの地獄はほんの少し改善された。


命に関わる病に冒されて改善というのもどうなのかという話だが、毎食が特製ジュースでなくなっただけまだマシな気がする、と実験を知る兵士たちは思う。が、アリスト士長が行おうとした薬の投与は断固として阻止された。


「コレを助けるかどうか決めるのは俺でもお前でもない」


とは閣下が告げた謎の言葉。

その場に同行していた兵士も、それを伝え聞いた兵士たちもどういうことかと首を傾げたが、アリスト師長だけは眉をひそめて、


「ならせめて延命のためにまともな治療を。その前に亡くなっていた場合、必ず恨まれますよ」

 

そう言ってその場を離れたという。


常時複数の兵士が見張る天幕に、馬車が横付けられたのはそんなやり取りがあった翌日になる。



「……起きろ」

「……ぁ?」


運び込まれたベッドに寝かされていたヘルトは、肩を掴まれて顔を上げた。


動いた拍子にまた喉元に吐き気がせり上がる。


「貴様はこれから王都へ移送される」

「……おう、ど?」 

「あぁ、あちらで王国側へ引き渡されるらしい。まあそれまで頑張って生き延びるんだな」


カチャリと音が鳴って、足首に繋がれていた枷が外されたことを知った。

だが枷がなくなったからといってすでにヘルトには逃げだすだけの気力も体力もない。


引きずられるままに表に出されると、止められていた馬車に乗せられた。


王族が乗るようなものではない。

幌付きの荷馬車に。


幌を閉める直前、兵士は「ああそうだ」と思い出したように言った。


「教えておいてやる。交渉は締結したよ。ーー戦争は王国の負けだ」



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