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どんなに呆然としててもここのお茶は飲みません。

「詳しくは私からは言えない。いずれ言える方から説明もあるでしょう。近く王都より迎えが来るので、それまではこの砦で拘束させてもらう」

「は、ぁ……」

「拘束と言っても砦から出なければ自由にしてもらって構わない。身の回りの世話と護衛として一人付けるので、後で部屋へ案内してもらうように」


言うべきことは言ったという態度で、男性はメリッサに背を向けてしまう。


(え?待って待って。まだ全然状況が飲み込めてないんですけど?)


自由にって、自由に?

何かおかしくないだろうか。


「あ、の、私……犯ーー」

「それは二度と言わないように」


犯罪者、と言い切る前にピシャリと遮られてその剣幕にメリッサは息を飲む。


そのまま男性は部屋を出て行って、メリッサはその背を呆然と見送るしか出来なかった。


「ねーちゃん大丈夫か?」

「なんか魂抜けたみたいな顔してるぜ?」


残った兵士たちがメリッサを取り囲んで口々に心配した。それほどメリッサはひたすら呆然と男性の出て行ったドアを見上げていた。

ただ、


「ねーちゃんとりあえず茶でも飲んで落ち着くか、な?」


一人が口にしたありがた迷惑なその台詞に関してだけは、「結構です」と返答を返した。




しばらくして、まだ年若い兵士が「メリッサ・ドヴァン様はこちらにいらっしゃいますか?」と部屋を訪れた。

イアン・カッツェと名乗った少年兵は、


「中佐からお部屋に案内するようにと申し渡されました。あと、護衛をと。よろしくお願いします」


そう緊張した様子で頭を下げ、メリッサを部屋の外へと促した。


イアンはピンクがかった金髪のクルクル頭の少年だ。目も金色で、髪よりも色が濃い。

小柄な身体に軍服が少しというかかなり大きい。

合うものがなかったのか、身長が伸びた時のことを考えて敢えて大きめのサイズにしたのか。


(というか、そんなこと気にしてる場合じゃないわよね)


先ほどの男性ーーあの人が中佐なのだろうか?の言葉からして、どうもメリッサは犯罪者として捕らえられたのとは違うようだ。


開拓村に向かう途中にメリッサらしき者を探していた兵士たちも犯罪者のメリッサを探していたわけではなかったということだろうか。


(ーー薬)


薬師としてのメリッサを探していたということ?

ヘルト王子と婚約したことがそもそも何らかの思惑があったかのような言い方であったし。


(確かにーーを調合できる条件は揃ってなくはない、のかしら?)


それなりの薬の調合ができる腕があること。

貴族であり魔力を持つこと。


メリッサは薬の調合にはそれなりに自信を持っている。師匠からも太鼓判を押されていたし。

けれどもだからといってまだ若いメリッサよりも腕のいい薬師は何人もいる。

師匠だってそうだし、まして王都や王族の専属になるような薬師なら当然腕もよく、貴族出身の魔力を持つ薬師だっているのではないか。


なのにわざわざメリッサを?


首を傾げるしかない。

薬師を探しているにしてもメリッサである必要性が見いだせない。


悶々と考え込みながらイアンの背を追って歩いていたのだが。


「あ、そこが診療所になってるんですよ。メリッサ様は薬師なんですよね?よろしければ覗いてみますか?」


階段を一つ、二つ上がった廊下の途中で、ふと思いついたようにイアンが提案したのに、メリッサは速攻で意識を切り替えた。   

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